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【随想】小さな千円札
今日、親父の知り合いさんのお手伝いに行った。
何度も使ってもらっているもので、手際はだいぶ良くなった。午前半日の約束で、依頼主のお宅へ行き不要な家具を引き取った。
そのとき、そこの奥さんと少し話す機会があった。旦那さんは親父の知り合いの担当者と話していた。
「この人にはまさに天職ですね。」と奥さん。
「本当、長いことやってるみたいで凄いですね。」と返し、「てんしょく、と言えば自分も真っ只中です。転職活動中で。」と言葉を続けた。
「前職は何を?」
「教師です。病気して辞めることになって。」
その奥さんはとても優しく、とても温かかった。そして、部屋の奥に掛けて行ったかと思うとすぐに戻ってきて、小さく折り畳んだ千円札を俺の手に握らせた。
「これっぽっちしか応援できないけど、きっと素敵な仕事に就けると思います。頑張って!」
「でも、こんな……」
「いいから、受け取って。応援してますね!」
こんなやりとりがあって、チップのような形で千円札を頂いてしまった。
担当者には勿論伝えた。
「あそこの旦那さんとは長い付き合いだし、大事に貰っときな。」
と、受け取ることを許してくれた。そればかりか、テーブルやベッド、本棚といったコペンちゃんではとても運べない大物を、トラックに積んで片道40数キロを走ってわざわざ俺の自宅まで運び、搬入から組立までやってくれた。
日当は半分になったが、寧ろ倍額払っても足りないくらいだと思う。
今、お風呂にアヒルさんを浮かべながら重低音と一緒に身体を浴槽に沈め、檜の香りがする入浴剤を溶かして疲れを落としている。
早朝から大きな地震があり、寝不足と不安から始まった1日だったが、この千円札は世界のどの千円札よりも、何ならどの貨幣よりも価値があると思っている。
ご縁に改めて感謝しようと思った1日だった。明日は第1志望の企業から面接の結果が送られてくる。そして来週には、既に内定を貰っている企業に連絡をしなければならない。人生の大きな分岐点となる数日間になるだろう。
この千円札に誓って、日々を、ともかく生きようと思う。これは俺の主治医が走り書きして渡してくれたメモである。「よりよく」よりも「ともかく」。命ある限り、希望はある。数ヶ月前までの自分と正式におさらばをキメてしまおう。「よりよく」なった部屋で「ともかく」生きていこう。
久々に今日の1曲、というかNowplaying。
初めて聴いてから、不思議と何度も聴きたくなる1曲なんだよね。歌詞がド直球なもんで。
もしも 生まれ変わっても
また私に生まれたい
この体と この色で
生き抜いてきたんだから