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父のためなら *生一本*

私が幼い頃、父は気持ちの病を抱えていた。生後すぐ冷たくなってしまった姉を、一度しか抱きしめられなかったせいかもしれない。その後、生を受けた兄と私。

家族を養うために這いつくばって仕事をし、疲れた身体でも夜は眠れず、しーんと真っ暗な町を無心で走っていた。命をすり減らしながら生きる父は、団地の高所から姉の住む世界へと飛び立とうとする日もあった。

母はひたすら生一本に、妻として出来ることは何でも真摯に取り入れ実践してきた。あとは、ただ、祈ることしか出来なかった。

父の病について母の口から語られて初めて、我が家の食へのこだわりを理解した。素材のよい調味料、全てをいちから手作り、素朴な味付けでもりもり食べる。

母から父への愛がギュッと詰まった毎日のおかげで今、姉の眠る仏壇に飾られる花はいつも、北海道の自宅の庭で父が丁寧に育てている。お盆に登場する胡瓜の馬や茄子の牛も、父が育てた野菜。父は、元気だ。

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