#8 読書で世界一周 |スウェーデン発、北欧ミステリの世界 〜スウェーデン編〜
「読書で世界一周」は、様々な国の文学作品を読み繋いでいくことで、世界一周を成し遂げようという試みである。
前回から”スカンディナヴィア半島編”がスタートし、フィンランドを旅した。今回は陸続きに、スウェーデンの地に足を踏み入れる。
スティーグ・ラーソンさんの『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』という小説を読む。
スティーグ・ラーソン|ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女
スウェーデンと聞いて私が思い浮かべるのは、「フィーカ」という習慣である。
フィーカとは、家族や恋人、職場の同僚らと一緒に過ごすコーヒーブレイクのことだ。ひとりではなく、誰かと一緒にコーヒーを飲むところがポイントである。
スウェーデンの方々は、仕事の合間にフィーカを取り入れることで、適度にリフレッシュしつつ、集中力を保つとのこと。オフの日も家族や恋人など、大切な人とのコーヒータイムを重視する国民性なのだそう。
あまりに素敵すぎる習慣である。日本でもぜひフィーカが普及してほしい。
今回ご紹介する作品『ミレニアム』でも、主人公が他の人と一緒にコーヒーを飲む場面が、ちらほら出てくる。
厳密にはフィーカとは違うのかもしれないが……少なくともスウェーデンでは、「小休憩=コーヒー」という文化があるようである。そういえば、前回のフィンランド文学でも、コーヒーがよく出てきたような。
北欧ミステリブームの火付け役
さて、ミステリがお好きな方なら、「北欧ミステリ」という言葉を耳にしたことがあるだろう。
北欧ミステリとは、北欧出身の作家によって書かれたミステリ作品群のこと。北欧の土地が舞台になっている作品が多い。
透明感のある美しい自然描写と、どこか暗晦で不穏な緊張感、社会問題を取り上げるテーマ性が特徴だと、個人的に考えている。
この北欧ミステリ、今やミステリの一大ジャンルのひとつとして、世界中で親しまれている。
現地の生活文化や社会情勢を知ることができる珍しさもあるが、やはり本格社会派ミステリとして完成度の高い作品が多いことが、評価されている理由だろう。
そして、本作『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』も、スウェーデン生まれの北欧ミステリである。
何を隠そう、この「ミレニアムシリーズ」こそが、世界中で北欧ミステリブームを巻き起こす火付け役となった作品なのである。
このところ「読書で世界一周」では、割と重めの文学作品を取り上げる傾向にあった。正直なところ、そういった作品に対して、若干疲れを感じていた。
ということで、北欧を旅しているこの機会に、北欧ミステリの代表作である『ミレニアム』を読むことにした。
何か”北欧文学らしさ”を読み解くというよりは、純粋にミステリを楽しむためにページを繰った。
北欧ならではの社会派ミステリ
『ミレニアム』、めちゃめちゃ面白い。久しぶりに重厚な社会派ミステリを読んだが、読み応えがあって最高だった。
舞台はスウェーデンである。首都スウェーデンも出てくるが、主人公ミカエルが過去の事件を調査するための拠点とした、ヘーデビー島が特に良い。
自然に囲まれた島での、外界とゆるく切り離された生活。冬は厳しい寒さが訪れ、薪を焚べて暖を取り、熱いコーヒーを啜る。ヘーデビー島の自然景観が、作品の世界観を陰で支えている。
現在のジャーナリストとしての戦いと、過去の失踪事件の調査という、ふたつの時間軸が交錯する構成になっている点も良い。
両軸で次々に緊張感のある展開が訪れるため、物語が単調になることなく、読者はどんどん引き込まれていく。
特に、40年も前に起こった事件を、数少ない手がかりから追っていく調査パートは最高だ。徐々にピースが集まっていく感覚が気持ち良い。
途中、一筋縄ではいかない大きな危機が訪れたりもするのだが、著者のステーリーテリングの上手さに、思わず唸った。
本作では、主題のひとつとしてスウェーデンの”女性への蔑視・暴力の問題”が取り上げられている。著者自身の問題に対する怒りが、全編を通して伝わってくる。
また、出版社を取り巻く争いを通じて、ジャーナリズムの在り方の問題も描かれている。
北欧特有のキリッとした寒冷気候と、重くて暗い社会問題の描写は、親和性が高い。北欧ならではの社会派ミステリになっていると感じた。
「イケおじ×天才女性」のアウトローコンビ
個人的なおすすめポイントとして、主人公ミカエルとタッグを組むことになる女性、リスベット・サランデルのキャラクターが最高に良い。
鼻と眉にピアスをつけたパンクな見た目に、背中にはドラゴンのタトゥー入り。そんな風貌からは想像できない天才ハッカーであり、身辺調査をさせたら右に出る者はいない、完璧な仕事ぶりを見せる。
滅多に他人に心を開かないリズベットだが、40年前の事件の真相を追ううちに、次第にミカエルと打ち解けていく。このミカエルとリズベットの、はみ出し者同士の絶妙な距離感、互いを補い合うコンビネーションが、とても良いのだ。
どうやら私は、「イケおじ×天才女性」がコンビを組むミステリが、お気に入りのようである。
ダン・ブラウンさんの「ラングドンシリーズ」、M・W・クレイヴンさんの「ワシントン・ポーシリーズ」なんかも、自然体でイケているおじさん主人公と、天才的な頭脳を持つ女性がコンビを組む作品だ。
特に『ストーンサークルの殺人』から始まる「ワシントン・ポー」シリーズは、女性側のティリー・ブラッドショーが社会に馴染めない”異端な”存在として描かれている点で、「ミレニアムシリーズ」と非常に近い。こちらも要チェックだ。
「読書で世界一周」、8カ国目のスウェーデンを踏破。次の国へ向かおう。
9カ国目はスカンディナヴィア半島編の最終回、ノルウェー……と言いたいところだが、ここで一旦海へと漕ぎ出し、アイスランドに向かうことにした。どんな作品に出会えるだろうか。
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