#7 読書で世界一周 |フィンランドの地で、少女とともに歩む人生 〜フィンランド編〜
「読書で世界一周」は、様々な国の文学作品を読み繋いでいくことで、世界一周を成し遂げようという試みである。
今回から、スカンディナヴィア半島編がスタートする。バルト三国から北上し、フィンランドの地へ。
フランス・エーミル・シッランパーさんの『若く逝きしもの』という小説を取り上げる。
フランス・エーミル・シッランパー|若く逝きしもの
前回の「読書で世界一周」から、気がつけば2ヶ月が経っていた。すっかり更新が遅くなってしまい、大変申し訳ございません……。
2ヶ月間ラトヴィアで足踏み状態だったが、ようやく国境を越える時がきた。スカンディナヴィア半島の付け根、フィンランドに入国する。
フィンランドといえば、「サンタクロースの村」があることで有名だ。
フィンランド北部のロヴァニエミという村では、実際にサンタクロースを訪ねることができる。「サンタクロースは山奥の小屋で人知れず暮らしている」というフィンランドの伝承が、忠実に再現されているのだ。
こちらの村では、世界中の子供たちからの手紙を受け入れ、お返事としてクリスマスレターを送り出している。フィンランドのサンタクロースからお手紙が届くなんて、子供の頃に経験していたら、めちゃめちゃ嬉しかっただろうな。
閑話休題。フィンランド文学のお話である。
著者のフランス・エーミル・シッランパーさんは、1939年にノーベル文学賞を受賞した、フィンランド出身の作家である。本作『若く逝きしもの』は、彼の代表作のひとつだ。
舞台は、1800年代後半から1900年代前半にかけての、フィンランドの農村地帯。この時代のフィンランドは、長きに渡ったロシアからの自由独立を勝ち取るも、赤衛軍と白衛軍の対立激化による内戦が勃発し、深い混迷の最中にあった。
そんな時代背景にあって本作は、農民として生を受け、懸命に生きた少女・シリアが、若くして亡くなってしまうまでの生涯を描いた小説である。
本作は、時に過剰とも思えるほど、シリアの人生を詳細かつ丁寧に追っていくことが、大きな特徴だ。
まず、彼女の父・クスタアの生涯から、物語の幕は上がる。小説の前半、シリアは全然出てこないのだ。
しかし、父・クスタアの人生を理解することは、娘・シリアの人生を理解するうえで欠かせない。
クスタアが農場主の一家に生まれてから、身分違いの女性と恋に落ちて次第に没落し、娘・シリアを授かり、そして死に至るまでの第一章は、第二章で待つ感動のための大切な助走パートである。
第二章から始まるのは、激動の社会に翻弄されながらも、たった一度の運命的な恋を生き抜いた少女、シリアの人生譚である。
彼女は幼くして両親を亡くし、身寄りがないまま各地を転々とする。時に女中、時に農家として、家に住み込みで働かせてもらう。彼女の人生の大部分は、仕事によって占められていた。
そんな中、ラントオの老教授の家で女中として働いているとき、彼女はアルマスという男性と恋に落ちる。アルマスと過ごしたラントオの日々が、身寄りのないシリアにとって、人生を支える精神的支柱となっていく。
しかし、激化するフィンランド内戦が、ふたりの間を無惨にも引き裂いてしまう。さらに、赤衛軍の兵士とのとある衝撃的な事件が、シリアの傷ついた心に追い打ちをかける。
物語の終盤、シリアがかつての輝かしい思い出を胸に、再びラントオの地を訪れるシーンには、切なさで胸が締め付けられる。その地で、彼女は何を思い、何を感じ取ったのか——ぜひ実際に読んで確かめてみてほしい。
なかなか読み進められず、苦しく感じるときもあったけれど、じっくり時間をかけて読んだことで、クスタアやシリアたちとすごく親しくなれた、そんな読書だったと思う。
詳細かつ丁寧に登場人物の人生を描いてくれることで、読者は彼女たちの人生をすぐ隣で追体験しているような、深い親近感を覚える。これは、リリー・フランキーさんの『東京タワー』を読んだときにも感じたことだった。
彼女たちに近づけば近づくほど、小説を読み終えたあとに読者を包み込む感動は、大きくなる。本書は、じっくり時間をかけて読むのが実は正解だったのかもしれない。
本作のもうひとつの特徴は、ハッとするような自然描写の美しさである。
クスタアやシリアが険しい人生の山に立ち向かうときも、フィンランドの自然は常に雄大で、美しい景観を見せてくれる。
季節の移り変わりの機微や、雪化粧が生み出す地球の表情の変化、そして、北欧では貴重な存在である、太陽の偉大さ。
シッランパーさんの筆力によって、フィンランドの自然の美しさが、随所に感じられる読書だった。いつか実際に、北欧の地を旅してみたいなあ。
話は逸れるが、フィンランドの暮らしぶりを詳しく知りたい方は、朴沙羅さんの『ヘルシンキ 生活の練習』というノンフィクションがおすすめだ。
北欧の国々は、人生の幸福度とか、社会保障の充実度とか、「市井の暮らし」という観点で、よく日本との比較対象にされている気がする。
その理由というか、「ひとつの社会規範に捉われる必要はないのだ」みたいなことを、色々と考えさせてくれる本だった。
もちろんそんなことは抜きにして、遠くフィンランドの地での、ひとりのお母さんの子育て奮闘記としても楽しめる。こちらもぜひ。
「読書で世界一周」、7カ国目のフィンランドを踏破。次の国へ向かおう。
8カ国目は陸続きに、スウェーデンへと歩みを進める。どんな作品に出会えるだろうか。
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