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日本の「営業」と欧米の「Sales」はイコールではない、という“前提”の理解なしに、B2Bマーケティングや営業支援はできない。


日本の「営業」と欧米の「Sales」はイコールではない。

外資経験のある人なら構造的に理解をされてるかもしれないが、欧米ではそれぞれの role (職種)がはっきりと別れていて、分業化されている。

最も大きな違いは、例えば日本における「営業」は、客を獲得すると、その客を長きに渡って担当として対応する。一方で欧米における「Sales」は、新規の客を獲得するとそこまでで、customer 化したあとは別の role が顧客対応する。

このあたりは日本企業が外資との取引を考慮する際に、「“営業”に来た同じ人が担当してくれるのか?」という危惧に繋がる。実際私も外資にて、この質問を何回も受けた。

日本には、「お得意様」や「得意先」という言葉があるが、実はこれに当たる英語はない。

customer がそうではないか? と思われるかもしれないが、この語の由来はラテン語の consuetudinem にあると考えられており、「習慣」を意味する。つまり習慣的に買う人=定期的に購入する人というのが、customer なのである。

一方で「得意」という言葉は、古くは『史記』、『枕草子』、『源氏物語』などにも現れる言葉であり、その意は、「友人」「気持ちを理解しあう相手」といったニュアンスをもともと持っていた。つまり“意を得る”ことができる相手が「お得意様」や「得意先」の原義であり、customer にはこのニュアンスはない。

日本の「営業」が長期的な顧客関係を前提としている一方、欧米の「Sales」はベルトコンベア型分業の一部であり、closing すると別の担当にバトンを渡すというモデルである。言ってみれば日本のB2Bは、リレーションシップ・マーケティングのようなものを「営業」という機能の中で行っているのである。

欧米の B2BマーケティングやSalesのモデルを色々見てもらえばわかるが、closing の部分までしか描かれてないものが多い。SaaS が出てきた結果、そこから先を customer success などで描くことが増えてきたが、結局はそれもベルトコンベア型分業の先に置かれたものである。

日本の「営業」はそれ自体が「得意先」の「窓口」となり、社内の必要な担当や機能を引き出す dispatcher 的な役割である。一方で、「Sales」というのは、ある時点、つまり closing してしまえばその客とはおサラバで、“次”の担当に渡してしまう。

また、日本の「営業」という組織の中では、その中に「営業推進」や「営業企画」という部署が存在することが多い。これらの部署は、イベントやセミナーの企画、営業資料の作成、企業によってはCRMなど顧客管理を行ってきた。これは「セールス・マーケティング機能」である。この組織は日本のB2Bの中では伝統的なものであり、いわば日本のB2Bにおいては、「営業の中にマーケティング機能がずっとある」ということでもあり、言い方を変えれば、「日本では営業がマーケティングも担っている」ということでもある。それゆえ、「日本のB2Bマーケティングは欧米に比べて◯年遅れてる」という言説は、日本と欧米の「営業」と「Sales」の機能を前提とすると、そのまま文字通りに受け取ることはできないのである。

ただし、日本の「営業」の中にある「マーケティング」とは、あくまでも「セールス・マーケティング」なのであり、それ以外の「プロダクト・マーケティング」、「技術マーケティング」、「B2Bブランディング」といった機能は得てして含まれていない。この文脈においては、「日本のB2Bマーケティングは欧米よりも遅れている」となんとか言えるかもしれない。ただし、日本のB2Bと欧米のそれとは市場や取引形態(顧客関係性型かどうかなど)の違いがあるので、日本ではこれまで重視する必要が無かったとも言え、単純に「遅れている」と考えてしまうわけにもいかないのである。

また「セールス・マーケティング」においては、フレームワークやツールなどが導入されてるか否かということで、単純に「遅れている」と考えるのも早計に思う。これについては、象徴的かつ頻繁に起きている出来事から考えると良い。欧米などからSFAやマーケティングオートメーションを導入しても、「ウチのやり方に合わない」ということで「使われてない」という話や個別企業ごとに「魔改造」されてるという話をよく聞くだろう。それもそのはず、日本のB2B企業は長期の顧客関係性重視のモデルでやってきたのであり、もともとパイプライン型のsalesモデルではなかったからだ。結局これも、どっちが進んでて、どっちが遅れてるかといった話ではないということである。

こうした日本と欧米における言葉、概念、形態などの違いを前提せず、「輸入概念」をそのまま使うと失敗する可能性はあるし、「遅れてる」などと考えて焦る必要もない。

重要なのは、日本のB2Bの取引形態やモデルを適切に理解し、それを前提として欧米から使えるものは使うという、非常に単純なことを認識することだ。

日本のB2Bは「得意先」を重視する「商い」を行ってきており、その評判をもってして「営業」が新しい客に向かい、また長期な関係を作るというモデルでやってきている。いわば、customer life time value を大昔からやってきているということであり、「日本のほうが進んでいる」とさえ言える(つまり欧米は分業型なので)。

こうした背景を“適切に”理解をすることが、B2B事業者にとっては大事。

またこうした背景の理解をし、真摯な(with integrity)発信を行うことが、B2B事業者を支援する事業を行っている人々は行わなければいけないと思うのだ。ポジショントークに基づくメッセージではなく。

以上、私の外資における sales / sales marketing と日本のB2B企業への営業企画やマーケティング支援を通じて得た経験、そして学術領域での営業やB2Bマーケティング研究における知見から、日本のB2Bマーケティング業界でよく使われる「日本のB2Bは欧米に比べて◯年遅れてる」はどれだけ真実なのか?を考えるネタとして、この文章にまとめました。

※ちなみに私がGoogle時代にチームリードやってた部署の名前は、「広告営業企画 Ad Sales Planning」でした。

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