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事業において最も重要なのはチャネル説

事業戦略においてチャネルの優先順位は?


リーン・キャンバスというフレームワークがあります。これはスタートアップなどで新規事業を立ち上げる際の戦略策定に使われます。
このリーンキャンバスは1から9までの番号が振られていて、その順番に沿って戦略を考えていく形になります。

リーンキャンバス

まず最初に取り組むのが「1. 顧客の課題」の発見です。次に「2. 顧客のセグメント」を定義します。これで一定の課題を持つ顧客層を明確にします
例えば「平日料理をする時間がない」という課題に対して、顧客のセグメントは「若手ビジネスパーソン」というセグメントを設定します。


その後、「3. 独自の価値提案」を定義します。これは発見した顧客の課題をどのように解決するかということです。
例えばさきほど設定した平日料理をする時間がない、若手ビジネスパーソンに対して、手軽だけれど野菜を含めた栄養を取れる食事を届けるという価値提案を設定します。


そして「4. ソリューション」では、その価値提案を具体的な機能やサービスとしてどう提供するかを考えていきます。
例えばさきほどの野菜を含めた栄養を取れる食事を届けるという価値提案のために、フリーズドライや冷凍状態にして届けるなどのソリューションが考えられます。


このように、顧客の課題から始まり、段階的に戦略を組み立てていく流れになります。新規事業では、まず顧客理解が重要だということが現れているフレームワークになっています。

かつて新規事業を立ち上げる際にも、このフレームワークを使って何度か戦略を練ったことがあるんですよね。番号が若い方がより上位で重要になるので、まずは顧客の課題とそれを切実に感じている顧客層を見つけることが大切になります。

という前提があった上で、実はこのフレームワークの後ろの方に置かれている項目が、実は最強なんじゃないかという説があるんですよね。

事業の正否を握るのはチャネル説


その最強の項目というのが5番目に置かれている「チャネル」なんです。これは顧客に対してどのようにサービスや製品を流通させるかという、チャネルを定義したものですね。

リーンキャンバスでは美しい戦略をいくらでも描くことができますが、実際に成功している事業を見てみると、すべてをかなぐり捨てて「チャネル」で成り立っている事業が多い気がするんですよね。

実際、いくら顧客理解を深めて顧客の課題を解決するサービスを作ったとしても、チャネルがなければ顧客には届かないわけです。

ー大企業向けのSaaSは、営業が売り込む

例えば、年間数千万円もするようなエンタープライズ企業向けのSaaS製品があります。こういったサービスを提供する企業の決算資料を読むと、だいたい売上の推移と営業人員にかける費用が比例して増えているんですよね。

製品自体が複雑すぎて顧客にも理解できないことがあるので、営業人員を割いて売り込みと製品の説明・レクチャーを行っている企業が圧倒的に売り上げを伸ばしているんです。
つまり、売上において最も関係しているのは営業、すなわちチャネルということになるわけです。

6割以上のシェアを誇ったYahoo!BB

さらに昔、Yahoo!BBというサービスがあって、ADSLとして低価格での常時接続サービスを提供していました。2014年時点で65%以上のシェアがあったんですよね。

Yahoo!BBがこれほどまでにシェアを誇った要因のひとつとして、駅前などで無償でADSLモデムを配りまくったというのがあるんです。
そのスタッフは別名パラソル舞台という名前がついていて、街角を行く人々にモデムを無償配布して契約につなげていました。

シェアを伸ばしたのは、低価格戦略を取っていたせいもあるので、リーンキャンバスでいうところの「独自の価値提案」(3)において低価格を掲げていた部分もあります。

それでも、それだけシェアを伸ばした大きな要因は「駅前でモデムを配って売り込む」というチャネルなんですよね。

SEOというチャネルを制したサービスが勝つ

コンテンツサービスでも、結局のところチャネルを制した会社が強くなります。昔、ある有名なアプリサービスの決算書を見ていたときのことなんですが、競合のアプリに比べて集客に苦戦していたんです。

でも、その会社はWebで記事を量産して、SEOを攻略することで集客に成功したのです。競合と戦うために、アプリではなくWebでの集客チャネルをSEOによって押さえにいったわけです。
つまり、コンテンツサービスにおいてもSEOなどのチャネルを制したサービスが勝つのです。

これはインスタグラムやYouTubeなどのソーシャルメディアでも同じことが言えるんですよね。プラットフォーマーのアルゴリズムをいかに理解してコンテンツを提供するかという視点が重要で、アルゴリズムをハックするためのチャネル攻略が大切になってきます。

レベルを上げて物理で殴る「チャネル」

その昔、RPGのゲームで「レベルを上げて物理で殴る」という言葉が流行ったことがあります。これは、パーティー編成や戦闘中の魔法を駆使して戦略的に戦うよりも、単純にレベルを上げて物理攻撃を繰り返す方が早くないか?という意味なんですよね。

レベルを上げるためには、フィールド上で強い敵と戦略的に戦うよりも、近くにいるスライムのような弱い敵を片っ端から倒していく方が、実は効率的なこともあります。

チャネルもこれと似たところがあって、営業が売り込みをして一個商品が売れれば、それだけで売上が上がります。緻密な営業戦略を描くよりも、とにかく片っ端から営業をかけていけば、その中の一定数は成約するものです。チャネルも、RPGのゲームのように、レベルアップのためには泥臭くてもとにかく片っ端から営業をかけたり、商品を届けたりすることが必要になる気がします

皆、きれいな戦略を描きたがる

ということで、事業においては、きれいな戦略を描くことよりも、とにかく商品やサービスを一個でも売り込んだり、集客を図るという泥臭いチャネル開拓が必要になる気がします。実際に売れている事業というのは、このような泥臭いチャネルによって成り立っていることが多いんですよね。

たとえば、孫正義さんが関わる事業は、先ほどのYahoo!BBなどと同じく、低価格戦略とセットにして、とにかく鬼のようにチャネルを開拓することに注力しています。今や6400万人という国民の半数が利用している決済サービス「PayPay」も、店舗へ売り込む営業人員を数千人投入しているという話があります。

事業家というのは、チャネルが実は事業の要であるという重要性を理解している一方で、ここをスキップしてきれいな戦略を描きたがる人が多い気がします。しかし、チャネルを開拓するというのは、泥臭く、積み上げが必要な地道な道筋であり、その労力を省略しようとして最強の戦略を考えがちなのかもしれません。

特にマーケティング界隈では、この泥臭いチャネルが軽んじられることが多いように感じますが、事業やサービスにおいては、やはりチャネルが最強なのではないかと思います。


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