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人間らしさとはなにか?

こんにちは。達川幸弘です。

今はCAMPFIREという会社でマーケティングをしたり、ほそぼそと個人でも企業のマーケティングのお手伝いをしていたりします。

マーケティングと進化心理学をつなげるブログという実験的な試みをしております。

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前回のブログでは、承認欲求が生まれる原理、そしてフリーライダーを排除する「裏切り者検知モジュール」が人間に備わっていることについて書きました。

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本能的な性質を理解すればするほど、であれば野生的な振る舞い、本能的な振る舞いは許容されるべきであると考えなければならないのかという、葛藤に至ります。

しかし、個々の欲求を許容しつづける社会に持続可能性がありそうな感じもしません。

かといって、ルールや制度に縛られて欲求に蓋をされ続ける生活が人間らしいかと言われるとそうでもない。

では、「人間らしい」ということをどのように捉えればよいのかを、進化心理学の観点から考えてみたいと思います。

相手との差分(損得)

相手を知覚し、差分を理解する能力。

このように表現すると、如何にも高度で人間的な能力に感じるかもしれませんが、そうではありません。

Sarah F. Brosnan と Frans B. M. de Waalが発表した、2003年の論文ではサルに不平等な餌の配分を行うと、怒って受取を拒否するという実験が記録されています。

AとBの2匹の猿に、ある作業をこなしたご褒美に果実を与えるようにします。その後、あるタイミングでAには同じように果実を、Bには野菜をあたえるようにします。

これを繰り返すと、徐々に野菜を報酬として受け取る割合が高い、Bのチンパンジーは不機嫌になり、野菜の受取を拒否します。

猿は相手との差分を理解して、「不平等である」という感覚をもったということです。つまり、自身の利得に関わる差分を見つけ出し、不平等を感じる能力は非常に原始的な能力であると言えます。

前回のブログでも紹介した「裏切り者検知モジュール」にも結びつく、餌の再配分に関する不平等の検知が如何に原始的なモジュールではないかということを考えさせる実験ではないでしょうか?

相手との差分(平等)

では、人と遺伝的な差がDNAの塩基配列で1.23%しかないチンパンジーの場合はどうでしょうか。

チンパンジーでは、不平等(自分の利得)を察知するだけでなく、「平等」という概念があることも分かっています。

人とチンパンジーで実験結果に違いは見られず、ペアで協力する必要がある時にはチンパンジーも人も報酬を等しく分け合った。デワール氏は「人間はたいてい、相手に半分あげるなど気前よく分配するが、チンパンジーも全く同じだということが今回の研究で記録された」と述べている。

チンパンジーにも「平等」の概念あり、米実験で証明

このように、一方的に利得を得ようとするだけでなく、相手とその利得を配分し、組織の中にある不平等感を排する能力があることが分かっています。

チンパンジーの想像力

チンパンジーの平等の概念をもつバランス感覚があるというと、相手の深い状態理解・他者理解ができているように感じるかもしれません。

しかし、人間ほど高度な他者理解ができないことを示すチンパンジーの木の実割りに関する研究があります。

チンパンジーの子供が、硬い木の実を取を石などで割り、その中身を食べられるという単純なタスクを一人で実行できるようになるまで、どのくらいの期間を要すると思いますか?

なんと、10年の歳月を要するのです。

チンパンジーの親は、できない子供に対して間違ったところで自身がサポートするなどの「教育」のような振る舞いをすることもありますが、人間のトレーナーが行えばおそらく10分の1の期間で教えることができるはずです。

しかし、チンパンジーの親はそれができません。この差は何かというと「相手ができないということが理解できない」ということに起因しています。「心の理論」がないのです。

心の理論(こころのりろん、英: Theory of Mind, ToM)は、ヒトや類人猿などが、他者の心の状態、目的、意図、知識、信念、志向、疑念、推測などを推測する直観による心の機能のことである。

出典:心の理論(Wikipedia)

ですので、ひたすら自分で実践するところを見せるだけで、「できないことを前提」として教えるということができないので、時間がかかるのです。

これは、人間にとっても非常に高度な能力で、「心の理論」が身につくのは一般的に4歳頃と言われており、「高度な他者理解」に関しては中学生から高校生のころだと言われています。それほどまでに、相手の気持ちを想像する自分の内面世界の外側を「想像する力」は高度な機能なのです。

他者への想像力と利他

相手を想像する能力は、「利他」という概念と紐づけて考える方も多いのではないでしょうか? 相手を「理解し」「相手の立場に立ち」「相手のために行動する」という振る舞いに人間らしさを想像するかもしれません。

では、「利他」という概念はなぜ存在するのでしょうか?

我々の行動は、遺伝子が自己複製するための戦略の一部であり、それは結果的に我々の種の生存と繁栄に寄与するという主張はリチャード・ドーキンスの「利己的な遺伝子」での主張です。

例えば、地球環境を保護する行動は、遺伝子が自己複製するための戦略として理解できます。なぜなら、地球環境が人間にとって生活しやすい状態を維持することが、遺伝子の自己複製に有利だからです。

同様に、「争いのない世界」を目指す行動も、遺伝子が自己複製するための戦略として理解できます。なぜなら、争いのない世界は我々の子孫の生存確率を高め、遺伝子の自己複製に有利だからです。

一方、争いを起こす独裁者の行動も、遺伝子が自己複製するための戦略として理解できます。なぜなら、自らの地位を維持することが、自身直系の子どもたちの地位や権力を維持し、遺伝子の自己複製に有利だからです。

したがって、権力者とそうでない人の倫理観の差は、遺伝子が自己複製するための異なる戦略から生まれると考えられます。

人間らしさとはなにか?

チンパンジーは相手との差分は理解できるが、相手の状態や気持ちはわからない。

しかし人間にはこの能力があります。

相手の気持への想像力。これこそが人間らしさの一つの要素ではないでしょうか?

しかし利己的な遺伝子にもあるように、遺伝子の自己複製に有利な機能の一つであることも否定できません。

生物としての本能的な欲求を学び、なぜそのような振る舞いをするかを理解し、相手への想像力を働かせながら、時には「相手への敬意を払い」、時には「自分の内なる声(欲求)」に耳を傾け、誰かに振り回されることなく、だけど繋がりを大事にしながら、生きやすさを探す旅を続ける必要がありそうです。

なぜなら、「同じ人間もまた、一人としていない」からです。

こうすればよいという型にとらわれず、相手への想像力と、内なる声のバランスを取りながら、生きることこそ人間らしい生き方への第一歩ではないかと、この歳になって思う次第でございます。

人間らしさの考え方のヒントの一つとして、「こういう考え方もあるかもね」くらいに受け取っていただけると、筆者としては幸いです。

己の無謬を信じる者が改革を進めた社会や組織は悪くなる ー これが優生学の歴史が語る教訓である。社会や人々の「改善」を願うなら、結局最も人間的かつ平凡な方法で ー 様々な価値観・立場の人々との対話と合意を経て、方針を決めたら、頼できる記録やデータ、観察事実をもとに、考え、試し、様子を見て、誤りを正しながら、少しずつ進めるしかない。私たちに必要なのは、大きなプランを進める前に、レンガを一つ置いてみることであろう。

出典:ダーウィンの呪い

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