“受験算数”を全ての小学生には勧めない理由
<この問題をパッと解けますか?>
【問題】
Aさんが10歩で歩く距離を、Bさんはいつも8歩で歩きます。
Aさんが625歩進んでから、Bさんが同じ地点からいつもと同じ歩幅で、Aさんの1.5倍の速さで追いかけました。
BさんがAさんに追いつくのは、Bさんが出発してから何歩進んだときですか?
但し、2人はそれぞれ一定の歩幅・速さで、同じルート上を歩くものとします。
「歩幅と歩数」を用いて解く、中学入試においては一般的な分野の問題です。
上位向けの問題ではあるので、苦戦する受験生も多いかもしれませんが、“受験算数”が得意であればパッと解いてしまうでしょう。
様々な問題を解くための“知恵”の原理をしっかり理解し、それを使いこなすことに習熟しているからです。
一方で、
「大人がパッと解くことも厳しい…」
のではないでしょうか。
この設定だと、
「方程式を立てて解く」
という流れに、スンナリとはもっていきにくいからです。
冒頭の問題は、
“中学入試だからこその問題”
であって、
“知恵を知り尽くし使いこなせる者”
をすくい取るためのものなのです。
それは、様々な条件をクリアした
“中学受験をして進学すべき小学生”
に必要な知恵であって、小学生全員が習得すべきものでは全くありません。
そしてその“知恵”は、その先の「数学」を学んでいくための土台となるものではなく、苦手な場合はむしろ
“一旦忘れ去ってくれた方がいい”
くらいのものなのです。
<受験算数の弊害>
中学課程以降の学習の基本となるのは、抽象的な表現にはなりますが、
「“数学的”な考え方」
です。
「算数」はその準備段階としての教科なので、当然「数学的な考え方」を直接的には教えていません。
一方、
「中学受験“戦争”の過熱」
が続いている流れから、いかに篩いにかけるかということで、入試問題においては
「“こねくり回した”ような内容」
にならざるを得なくなってきているのも当然の成り行きでしょう。
それに対応するために存在するのが、様々な知恵を習得し使えるようにする
“受験算数”
なのです。
いわば、
「基本を身につける前に知恵を学んでいる」
訳で、
「歪みが生じている」
ような状態なのです。
とはいえ、様々な論理を理解することに長けた早熟な小学生にとっては、割り切って考えることができるので、問題とはなりません。
しかし、発達途上にあるにもかかわらず、様々な事情から
“トップレベル中学合格の使命”
を課せられた小学生はどうなるでしょうか。
“合格実績がほしい進学塾”側の対応とも相まって、
「対処法をパターン化して覚える」
などして、とにかく得点だけはできるように、
“学習の本筋とは異なる虚しい努力”
を重ねることでしょう…。
(その立ち向かうさまは涙ぐましいまでのものです…)
そして中学入学後、その対処法が身についてしまったが故に切り換えができないでいると、“知恵”どころか
「数学的な考え方を学んでいく上での“障害”」
とさえなってしまうのです…。
<向き不向き>
受験算数以外の教科については、中学受験勉強の際の知識が中学以降もそのまま活かせるので、その側面も考慮する必要はあるでしょう。
しかし受験算数だけは、こどもの発達度合いに応じて、
「どうしても“向き不向き”が存在」
してしまうのです…。
(※あらゆることに「なぜだろう?」と自ら追求していくような場合は“向いている”可能性があるでしょう。)
受験算数にどうしても馴染めない場合は、
「中学受験することの是非」
を慎重に再考してみるべきだと思います。
それでもなお、
「受験算数だけクリアすれば志望校合格がみえてくるのだが…」
というのであれば、中学入学以降に適切な
“「受験算数」脱却リハビリ”
をお子さんに施してあげましょう。
<「方程式を立てて解く」ことを当たり前に!>
冒頭の問題を“中学受験戦士”たちは、
「速さの比=距離の比」
を用いて、
「1500歩」
と解いてしまいます。
ここにもし、
「速さの比は時間の逆比」
などを考慮する条件設定が加わってくると、受験算数が苦手な場合はお手上げ状態になるでしょう…。
ご存知のように、小学生は基本的に
「方程式を立てて解く」
という概念で問題に対処しませんね。
ですから、条件設定が複雑になってくると、
「比をアクロバティックに用いる」
ことで対処するしか解く術を持たない訳です。
もっとも、その方が楽に解ける場合は、中学以降においても大いに活用してほしい手法ではあります。
しかし数学においては、与条件が複雑化すればするほど、まずは
「方程式(or不等式)を立てる」
ことからスタートすることが大切になってくるのです。
そこでもし、
「“受験算数的な考え方”から脱却できない…」
ような状態が続くならば、
「“数学”での躓き」
が始まってしまうのです…
<【受験算数に“向いている”小学生】について>
誤解なきよう、上記の小学生についても記しておきましょう。
前述した通り、何かにつけて
「なぜだろう?」
と自ら論理的に追求するタイプであれば、
「受験算数の様々なテクニックの“原理”」
をしっかり理解するところからスタートし、
「なるほど!それは便利!」
と、これ幸いに駆使し始める訳です。
そして、
“問題が難しければ難しいほど”、
それを解くことに
“脳が喜びを覚える”
ので、いわゆる難関校に合格するような小学生は、
「受験算数が“好物”」
であることが多いです。
(ゲーム等で「次々とステージをクリア」していく感じですね。)
そのような小学生達は中学課程以降も、脳内に
「受験算数のテクニックを“知恵”としてストック」
しながら、時に
「こういうことだったのか」
とさらに奥深い原理にたどり着いたり、
「あの知恵はこの論理の拡張に使えるな」
ということを繰り返しながら、さらに高等数学のマスターに向けて邁進していきます。
ですから、
「“向いている”こどもには受験算数はステップアップのための種」
となる訳で、
「受験算数は全面否定すべきものではない」
と言えます。
前段で長々と強調してきたことは、タイトルを言いかえれば、
「“向いていない”こどもには無理強いするな」
ということです。
そこを無理強いしてしまうと、
「原理を理解せずにパターンに当てはめて解く方法」
に何とか活路を見いだしてしまうことで、
「ちょっとでもひねられた問題」
に直面すると、途端に
「全く手さえ出せない…」
ということになってしまいます。
逆に、
「定型的な問題が多いテスト」
だと見事なまでの高得点を出してくるので、
「テストによって結果にムラがある」
ような場合は、慎重に分析してあげる必要があるでしょう。
(※進学塾の人々は決して「向いていない」とは言ってくれませんので、「こどもの将来をしっかり考えてあげることのできる数学に精通した先生」を何とか探して相談してみてください。)
まずは、保護者の方々が
「受験算数には“向き不向き”がある」
ということを、しっかり心にとめておいてもらうことが大切だと思います。
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