【どっかのクラス長】放課後対談記②
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少年少女であふれた教室も、授業が終わればガラリと寂しくなる。
そんなひと気の無くなった教室に意味もなく居残る人たちの記録である。
「…あれ、みんな帰るの早い。」
副クラス長を勤める瀧田は書き忘れていた学級日誌を進めていると、瀧田同様自分の世界に入り込んで何かを書き続ける澪島を見つけた。
「澪島さん。」
「あら、瀧田さん。」
名前を呼んだはいいものの何も考えていなかった瀧田、それを見透かすように先行で澪島が口を開いた。
「瀧田さんはなにをしてたの?」
「あ、ちょっと学級日誌を忘れてて……澪島さんは?」
「私はもうすぐ近くでバイトがあるから、それまでちょっとね。」
澪島さんは高校生では珍しく、ちゃんと学校から許可をもらってバイトをしているタイプらしい。
「どこでバイトしているかとかって…聞いても…?」
「あぁ、あそこの公園近くの雑貨屋で週3ね。」
「…あー、はい…はいはい……。」
聞いては見たものの公園の場所が全く分からなかった瀧田は、上を見て考えたフリをしながら弱すぎる声と共に小刻みに頷いた。
澪島は彼女の分かりやすい反応に笑っていると机の上に沢山積まれた紙に目線を戻し20枚の束に一発で分けて小さな山を沢山作る。
「それは?」
「いや、これはなんか先生に頼まれちゃって。」
「すごいスピードね。」
「まあ、バイトで似た様なのやってるからね。」
一発で積み上げられる山に瀧田は感心し一回挑戦させてもらうが、ちょっと多めにとったつもりでも18枚とかになってしまう。
「え、本当に全部20?」
瀧田は詰まれた小さな山をスルスル確認するが全部ジャストでびっくりしている。
「バイト効果凄いね。」
何回挑戦しても20にならない瀧田に褒められだんだんまんざらでもない表情になりながらも手は作業を止めない。
「ん?」
彼女は作業を止めスマホをパッと見てすぐ消して戻す。
「バイト先?」
「うん、ごめんね連絡返すのに時間使っちゃって。」
「え?返した?」
瀧田の目にはスマホを確認しただけに見えたが、どうやら丁寧な文章でしっかり返したらしい。
「まあ、バイトで慣れてるからね。」
「バイト…。」
澪島は輪ゴムを使い20枚にまとめた束をハイスピードで止めていく。
「え、はやすぎない?」
「そんなに褒めて…恥ずかしくなっちゃう。」
顔は赤く染めても顔から下のスピードは変わらずに超高速で進んでいく。
「すごいね…」
「これもバイト。」
「雑貨屋、作業多くない?」
「…見てて。」
彼女は嬉しそうな顔でヘアゴムを指にかけピュンと飛ばす。
「なにしてる…あれ?」
目で追っていたはずのヘアゴムを見失ってしまい、澪島の方に目を持って行くと飛ばしていたはずのヘアゴムが手に戻ってきており髪を後ろで結ぶ。
「え、え、え。」
「バイト凄いでしょ。」
「バイトなの…?」
澪島はバイトの時間だと立ち上がり、束をまとめて帰る準備をする。
「あ、学級日誌あるからカギ持ってくよ。」
「ほんと?ありがと。」
感謝を言いながら指を鳴らす澪島。
らしくない行動に瀧田は少し戸惑っていると鳴らした右の指先が意図的に瀧田自身の方を向いていることに気づく。
「…ん?」
差された胸ポケットを見ると、そこからクラスのカギが飛び出ていることに気づき思わず大声を上げた。
「えええ!?」
「じゃ、また明日。」
翻弄されて立ち尽くすしかない瀧田の前を通過し、手を振りながら教室を出た。
「あんなタイプの子だったんだ…てか雑貨よりストリートとかの方が稼げそうだけど…。」
彼女は職員室に行く準備をし始めるとちょうどいいタイミングで担任がやってきた。
「おう、終わったか?」
「はい。」
「そうか、早く帰れよもう夜になるからな。」
「…え?」
1時間くらいだと思っていた時の動きはもう部活も終わるくらいの時間になっていた。
「これは…どっちだ?」
これは、少年少女が小さな世界の鍵を閉めるまでのお話。
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