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【どっかのクラス長】放課後対談記①

こちらのお話の番外編となっております。
先に見ておくとより楽しめるかもしれません。


少年少女であふれた教室も、授業が終わればガラリと寂しくなる。
そんなひと気の無くなった教室に意味もなく居残る人たちの記録である。

「…あれ、なにしてんの?」
忘れ物を取りに来たクラス長、掃除の終わった空き教室のロッカーにもたれかかってスマホを見ている仲田の姿が。
「おうクラス長!」
自分の部屋にいるときのような死んだ目をしていた彼は、人と会話するモードの表情に切り替えて手を振る。

「ちょっとな、親が近く来るから乗せてってくれるらしい。」
彼の隣にもたれかかり、カバンをロッカーの上にドスンと乗せるクラス長。
「二釈はゲームが届くって帰っちったからさ。」
「あぁ、今日言ってたな。」
スマホゲームをポチポチしながら、目線は交わさずとも会話を交わせるくらいの関係になった二人。

「なんかクラス長に言うことあったんだよなぁ…。」
頭を掻きながらそう呟き、ガチャの渋い結果に下唇を噛む仲田はその痛みですぐに思い出した。
「そうだ!あのさ…」
彼の突拍子もない提案に丸くした目をスマホから外したクラス長。

「なに、ツッコミとボケを変えるって…芸人じゃないんだし俺ら。」
「いや、変えるっていうかもっとふざけたいんだよ。」
確かに仲田の言う通り、基本的に二釈とクラス長がふざけてそれを仲裁したりする役目が多い。
「ふざけていいよ、俺も別に仲裁できるし。」
「いや、なんかもうその感じではなくない?」
もう自分がボケてもまっとうに受け取ってくれない段階に来ていると仲田は嘆くが、正直そこの感性はクラス長に伝わっていないらしい。

「あとクラス長がツッコんだ方が説得力増すじゃん?」
「まあ、それはわかるけど天然だったり、役職の割に出来ない奴の方がみんな取っつきやすいじゃん?」
「うん、まあ…」
「出来そうで出来ないキャラ。これが俺の居場所になったんだよ。」
クラス長なりの葛藤、"自身のキャラクターが無い"という悩みは彼なりに探し続けていたらしい。

「…え、もしかしてお前、体力テストの結果を犠牲に自分のキャラクターを作り上げるようにしたのか…?」
クラス長はポッケに突っ込んでいた片手を顔に当てる笑うと、一度深呼吸をして仲田の方を見つめる。
「…あれは普通にミス。」
「なんだよ、ぽい空気作んなよ。」
仲田はまたツッコみ役に回ってしまった自分に頭を掻く。

「仲田氏、自分のやりたいことと向いてるものって基本的に違うんだよ。」
「…まあ、それは分かるけど」
「そのベクトルが同じ方向の物を見つけることが出来たやつ、それが巷で言う所の天才の器なんだと思う。」
「…好きこそ物の上手なれっていうしな。」
「そう、それそれ。」
夕焼けが照らす教室、スマホの振動に気づいた仲田は届いたメッセージに返信する。

「まあ、これからは溜めないでボケに来ていいから。」
「分かった、それじゃ今から帰るガエル、ゲコゲコの助~。」
「仲田氏…ベクトル真逆だよ。」


明日から何かが変わるかと言われたらきっと全くと言っていいほど変わらない生活が続いていく。
これは、少年少女が小さな世界の鍵を閉めるまでのお話。

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