29歳の私へ
今日の創作です。
公務員になった自分に話しかけています。
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こんにちは。お久しぶりです。
あなたは自己啓発セミナーに足繁く通っていますね。
カナダから帰って入った化粧品会社を、あなたは半年で辞めました。「とにかく定職についていればいい」と思っていたあなたにとって、会社が求める技能や情熱は重すぎました。信用されていなかったためか、あなただけ事務所の鍵をもらえませんでした。屈辱的に思ったあなたは、やる気をどんどん失いました。
それからあなたは安定を求め、公務員試験を受け、某市役所で働くことになりました。「今度こそ役立つ人間にならねば」と思ったあなたは、仕事のできない自分を一生懸命変えようとしています。
失敗をひきずらないよう、ポジティブ思考の本を読んでみる。スピーディーに業務を進めたくて、仕事術の本を読んでみる。成功者が語る○○!人生が変わる△△!といったセミナーには片っ端から参加しています。先日受けた講座は二日間で30万円でしたね。
あなたは学んだことを職場で活かすのに苦戦しています。あなたに落ち度はないのに、罵ってくるお客さんがたくさんいます。あなたはいじめられていた頃のことを思い出し、悲しくなります。「公務員っていうだけで敵視してくる人がたくさんいるんだ。いちいちへこんでたらキリがないよ。」先輩たちはそう言って慰めてくれますが、あなたは立ち直れず、やけ酒をあおったりしています。
あなたは心も体も鍛えたいと思い、ジョギングを始めます。自己啓発セミナーで知り合ったお兄さんが企画した、年越しマラソンに参加してみます。あなたは20km地点でリタイアしますが、よく頑張りましたね。サハラ砂漠を走ったこともあるというお兄さんのアドバイスは、本当に貴重なものでした。
すぐに動揺してしまう性質が、仕事能力の向上を妨げているのではないか?と考えたあなたは、色々な心理学の勉強も始めます。トラウマや潜在意識についての知識が増えていきます。右脳開発にも取り組んでみます。
あなたは「ジャッジをしないことが大切なのだ」と理解します。窓口でクソ女と叫ばれても、何も思ってはいけないと自分に言い聞かせます。だんだんポーカーフェイスが上手になってきました。強く生きることができ始めている、そんな感触があります。
あなたは新しい学びや人間関係をもつ際、次のような視点から選んでいます。
「それは私の武器になるのか?」
「私の価値を上げてくれるのか?」
「私の人生にとって有利になるのか?」
あなたは職場の偉い人と飲みに行くのを好むようになります。自分まで偉くなったように思えて、気分が良いからです。あなたは社交辞令がとても上手です。それで相手が喜ぶと、自分の存在意義がより確実になったみたいで、嬉しいですね。
でもその嬉しさは、心の底からの喜びでしょうか?と、私は問いかけたいのですが、こんなにふさわしくないタイミングってあるだろうかとも思っています。あなたは既に心のしくみを勉強していますし、あなたにとって教科書に載っていない問いは、考えるに値しないものだからです。
今あなたは、人より優位に立ち、効率的に人生を進めることを大切にしています。試行錯誤の末に決めた方針でしょうから、異論はないです。
さしあたって私が言いたいのは
「金曜日の夜に予定がなくてもそんなに絶望しないで」
ということだけです。
これはマジです。
来週はまた偉い人と飲みに行きますね。偉い人はあなたをスナックに連れて行き、酔った勢いで触ってくるかもしれません。ママが助けてくれるのでたぶん大丈夫ですが、くれぐれも気をつけて下さい。
ではごきげんよう!
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