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引き出しのお菓子箱

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つい、してしまうことって何ですか? ----------------------------------------------------- わたしのそれは、ふと思い出した昔の…
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2021年1月の記事一覧

接触

接触

記憶がかなり曖昧なのだけれど、そのお題は確か「接触」について思うこと、だったような気がする。空気の冷たい土曜日。次女を幼稚園に送る道すがら、思い返していたのは、通っていた大学の入試で書いた小論文のことだった。

受験のために通っていた小論文のクラスで、塾長は、「シュギシュチョー」という言葉を連呼していた。小論文を書くときに一番大事なのは、自分の主義主張、ということ。あの頃のわたしには一番無かったも

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冬の庭

冬の庭

大寒をむかえて寒さが鋭く深くなってきた。
今暮らしている東京に大学入試のために出てきた17歳の冬、空気が故郷のそれと異質で、あたかく丸いので驚いた。その翌日に受けた第一希望は落としたが、東京の別の大学に通うことが決まり、そののち割にあっという間に、あの丸みを体で選り分けることはできなくなってしまったのだけれど。

それでも、寒く乾燥した空気が鼻先を冷たくすると、思い出すのは故郷のこと。実家の庭だ

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先生のこと

先生のこと

先生との出会いは、診察室だった。

わたしは大学を卒業後、眼科ばかりを運営する医療法人に入り、少しの研修期間の後、とあるクリニックに配属された。ベッドタウンにあるそのクリニックは、多い時で一日に200人ほどの人が来院する、とりわけ忙しい現場、と、研修中から聞かされていた。

眼科は、問診、検査、診察、会計、それぞれに待ち時間が発生することもあって、患者さんは待ち時間に過敏になる。いつも混んでいる現

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引き出しのお菓子箱

引き出しのお菓子箱

それは、紙製で、緑茶の茶葉のような深い渋い緑色をしていて、ひらくと内側にはルネッサンス絵画のような絵がかいてあったような気がする。手に取る厚みも、重さも、かたさも、ちゃんと覚えているのに、もう何処かに行ってしまった。

中にいれてあったのは、綺麗な貝殻や珊瑚のカケラ。海のない土地に暮らしていたので、どういう経緯でそこにあったのかは、現物のない今、知る由もない。たまに取り出して眺めては、うっとりと心

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