元日の黄昏れ時
元日の午後、音楽を聴きながら読書をしていた。
突然、強烈な眠気に襲われ朦朧とする。
本にポストカードを挟み、ほとんど目を閉じた状態でヨロヨロとベッドへ向かう。ほどなくして、眠りに落ちた。
カクンとベッドごと揺すられる感覚で目が覚めた。どのくらいの時間、眠っていたのだろう。私は危険を察知した小動物のようにカラダを起こして警戒しつつ頭を整理した。まだ揺れは続いている。
体感では2か3くらいだろう。
鼓動は比較的おだやかだけど、左手に痺(しび)れを感じた。何らかのエネルギーを受け取る時、左手の小指と薬指が痺れる私。今回も反応してる。イヤな感じの長めの揺れ。スマホで情報を取りに行く。
震源地の速報値「6強」に驚いた。私の地域は体感通り「3」。たいしたことない。
それも束の間、すぐに訂正され震度が引き上げられる。「7」の数字を見ると、やはり29年前の体験を思い出す。あれはカラダが覚えている。
あれがまた来たのか。
被災地の方々を思うと言葉が見つからない。
***
16:50頃だった。部屋から空を眺めていた。
太陽が休息に入る直前、沈む真っ直ぐな光。建物のあいだから橙色がこちらを照らす。
いつもと変わらない景色。
射し込む光を直(じか)に見たせいか、建ち並ぶ家々の景色に視線を移しても中心が抜け落ちてよく見えない。瞬きを繰り返す。そんなことをして気がつくと辺りは薄暗くなっていた。
誰そ彼時(たそがれどき)。
それは“あの世”と“この世”が交わる時。
「これからの日本はどうなってしまうの」
ふと目の前の駐車場に視線を向ける。私のいる3階の部屋からマンションの駐車場を見下ろすと、15メートル以上あるだろうか。隣の敷地との境にあるブロック塀の上に佇む、一匹の黒猫。この辺りでは見ない猫だ。
「なんか変な猫だな」と感じた数秒後。
その答えは、直ぐそばの黒のワンボックスカーに
飛び移った様子で分かった。
右後ろ足を負傷しているのか足を引っ込めたままだから、着地がなんとも覚束ない。ワンボックスカーの広い天井を不自然な動きでフロントガラスまで
歩を進める。つるつるの鉄の塊から落下するようにアスファルトの地面に着地した。いわゆる猫のしなやかさは微塵も感じられなかった。
この黒猫から目が離せなくなり、じっと見つめる。歩き出した黒猫が何かに反応してふり返った。
その直後、黒のワンボックスカーの隣に止まっていた白のワンボックスカーの下から現れたのは白猫。
時がピタリと止まった。
強いメッセージ性を感じ、無心でこの光景を見つめる。
白猫と黒猫は、白いワンボックスカーと黒いワンボックスカーのあいだで対峙する。しばらく見合った後、白猫の「ニャ~ン」という甘い鳴き声が室内の私の耳に微かに届く。黒猫はさほど反応がないまま、踵(きびす)を返し足を引きずりながら去っていく。白猫は黒猫を警戒する素振りを見せるも、その場にとどまる。
一度も振り返らない黒猫。その歩みは頼りない。
そうこうしている間に黒猫は私の視界からフェードアウトしていった。その後、白猫も白のワンボックスカーの陰に身を隠した。
数分の出来事だった。
***
白猫 = 光
黒猫 = 闇
私が視た、誰そ彼時の光景。
2024年のはじまり。
日本列島全域が揺れ、あまりにも辛い幕開けになった。でも“黒猫”は退(しりぞ)き、“白猫”は在り続けた。
ここ数年、私はずっと見えない世界を見てきた。
それにずっと祈ってきた。
こういうときだからこそ、自分にできることをしようと思う。誰よりも祈りの力を知っているから。
Ayumi☽
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