matsu_

公立美術館で5年、私立美術館で5年、学芸員をしていました。大学非常勤講師の掛け持ちをしながら、日々過ごしています。

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公立美術館で5年、私立美術館で5年、学芸員をしていました。大学非常勤講師の掛け持ちをしながら、日々過ごしています。

最近の記事

作品を買った思い出

家からゆっくり車を走らせること1時間あまり。最後に小さな狭い橋をわたると、背の高い木立の中にギャラリーがある。 展示室の畳の上には、ガラスの作品がいくつか置いてあった。 黄色みがかった深い緑色の、透明なショットグラス。ガラスに光が反射して、目にする角度を変えるたびにキラキラと表情が変わる。 手に取るとずっしりと重い。手のひらにおさまるつるつるすべすべした質感。底が分厚く重心が低いため、とても安心感がある。溶け始めて角が丸くなった氷のような造形は、溶けたガラスを吹き竿に取

    • 美術館に行く理由

      美術館に行こうと思った時、その理由は何ですか。 好きな作家の作品が観れるから 旅行先でたまたま近くを通るから 興味のある分野だから おススメされたから 話題になっているから 新しくオープンした美術館だから デートスポットとして? 私は最近特に、「その美術館で働いている人に会いに行くため」ということが多いです。 今まで働いていた美術館に行き、近況を伝える。懐かしい人とおしゃべりする。新しく入った人にあいさつする。 そんなことをするのが楽しい。 展覧会ももちろん観ますが、観

      • プラスチックという素材と工芸

        削りたての鰹節を食べる機会がありました。 ゴリゴリ、シュッシュッという、硬い鰹節がカンナの歯に当たって削れていく音、立ち上る奥深い香り、軽い舌ざわり。 なんとも贅沢な時間でした。丁寧な生活、豊かな暮らし。 木製のカンナというのも趣がありますね。 木槌でたたいて歯を微調整しながら研いで使い続けるというのも、なかなか玄人っぽくてしびれます。 当然私も「自分で削って食べたい!」となったわけです。 まちの乾物屋さんで鰹節を買い、削り器をネットで物色しました。 そこで気づいたこと

        • 民藝という思想

          『暮らしの図鑑 民藝と手仕事 長く使いたい暮らしの道具と郷土玩具61×基礎知識×楽しむ旅』(2020)をパラパラとめくってみました。 「そもそも民藝って?」というコラムを引用します。 例えばお隣さんが編んでくれたかわいくて丁度良いサイズ感のアクリルたわしは民藝なのか、アフリカの木彫りの仮面は民藝なのか…と悶々と考え込んでしまいがちですが。 個々を分類するための基準ではないので、「これは民藝か否か」と悩むのは考え方のベクトルが違うということでしょう。 日々を豊かに暮らす

          工藝とは趣味を含んだ実用品

          山本鼎 著『世界工芸美術物語』(昭和57年)を入手しました。 装丁からして、この本自体が工芸品のようで愛でたくなってしまいます。 若い読者向けの優しい口調。工芸が何なのかわからない私にはうってつけです。少々昔に書かれたものですが読んでみましょう。 旧仮名遣いなど表記できないものは変換して引用してみます。 「工藝とはどんなものか」という章の冒頭。 趣味を含む というのがイメージしやすい言葉遣いで嬉しくなりました。 さらに、 とあります。 建築も何でも、身の回りは工芸品だ

          工藝とは趣味を含んだ実用品

          芸術と工芸と手芸

          美術にも工芸にも入ることのなかった手芸 のような表現を目にしたことがありました。 この場合は、それぞれ狭義の美術(Fine Art)、工芸(Craft、伝統工芸)を指すのでしょうか。 手芸は美術にも工芸にもならず、女性が家の中で日々の生活と結びつきながら営まれていった。というような内容だったような。 広義の工芸の中には、手芸が含まれると考えられます。 工芸の定義や範囲を考えだすとなかなか厄介です。 一般的には、いわゆる伝統工芸が「工芸」という言葉を聞いて思い浮かべる

          芸術と工芸と手芸

          しっぽ

          愛知県美術館で開催中の「コレクションズ・ラリー 愛知県美術館・愛知県陶磁美術館 共同企画」に行ってきました。 横⽥典⼦さんの作品がお気に入りなんです。 誰のお気に入りかというと3才の娘なのですが。 以前、愛知県陶磁美術館で展示されていたのを観てからというもの、その展示図録をめくるたび楽しそうに「くにゅっ!くにゅっ!」と言っておりました。 余程お気に召したのであろう、また鑑賞できるチャンス!と日程をやりくりして伺ったのに、展示の途中まで来たところで「帰るー!!」と入口まで大

          伝統的工芸品

          工芸について考えるのに、一般財団法人 伝統的工芸品産業振興協会が定めている伝統的工芸品を参考にしてみようかな。 織物 (38) 染色品 (14) その他繊維製品 (5) 陶磁器 (32) 漆器 (23) 木工品・竹工品 (33) 金工品 (16) 仏壇・仏具 (17) 和紙 (9) 文具 (10) 石工品 (4) 貴石細工 (2) 人形・こけし (10) その他の工芸品 (25) 工芸材料・工芸用具 (3) 工芸の中に伝統工芸があり、その中に伝

          伝統的工芸品

          工芸について

          大学で「工芸論」の講義をすることになりました。 引き受けたは良いものの、一体なんなんだ。「工芸」って。 ひとまず、前田泰次著『現代の工芸―生活との結びつきを求めて-』(1975)を参考に、つらつらと書き出してみようと思います。 「工芸」という言葉を聞いて、何を思い浮かべますか。 分からない方は「分からない」でも結構なので、何か一言でも書いてみてください。 「分からない」と書いても減点はしません。 この講義を聴いた後、工芸についてぼんやりとでも何かイメージすることができると

          工芸について