やってやれないことはない15話 『医事課の問題⇒組織の問題』
これから私の病院勤務で得た医療経営におけるすべての考えの総集編です。
別途マガジンに「病院業務通達」がありますので、現場の詳細はそちらをご覧ください。
先ずは再建計画作成です。
そのためには、実態を見えるものだけではなく、隠れたものまでリサーチしなければなりません。
経営は実質債務超過であり、グループ親会社からは今後の支援は不可と引導を渡されています。当然M&Aの対象外です。
そこに勤務している職員の心情を察し、到達目標を策定し、強いて言えば自立にフォーカスを定め、このために忠実に実行していく全体目標が必要です。
このような病院の場合、職員の中に信頼関係は希薄となって連帯感は程遠く、言葉の表裏の乖離があり、ふつふつとした不満感により自己満足感が満たされていません。
当然、地域の評判は悪く周知され、職員は勤務先さえ言いたくないと思っています。
そこには、必ず問題となる根が張っていて、すべてを邪魔する根幹となる原因があります。
私は、貧乏くじを引いたのでしょうか?
こう思う方もおられるでしょうね。
私は面白いと思いました。経営に関する全権を与えられたのですから、こんなチャンスはありません。
出来なくて当然と職員は、思っています。
何せ、創立7年目にして8代目の事務部長が来たのですから…
経営再建以上のことができたら、誰もがびっくりするでしょう。それを見せてあげたいと思い始めたことがやる気の源泉です。
私の病院経営に関する考えは一定しています。
「三者良し」
① 患者良し
② 病院法人良し
③ 職員良し
この三者がwin-WIN-winになること。
病院は地域に必要とされなければ、存続は危うい。
⇒この病院は、地域に必要とされれば永遠に存続する。
外来の少ない病院は、入院を満たすことはできない。
⇒外来患者数の最適数を維持する。
医療制度改革を無視することは危険。
⇒医療制度改革の意義と本質を見失わないよう職員に徹底する。
医療は質を追いかける。
出入り業者は、病院の応援団。
病院倫理は即時徹底。
就業規則は定置開示によって、職員に対して権利と義務の履行を求める。
あるべき姿の意見集約を硬直化しないようにする。
医療はサービス業の括りにあることを周知させる。
職員は、自分の仕事に対するエビデンスを可能な限り持つようにさせる。
チーム医療の本質に近づく医療となるよう意識させる。
⇒職員から職員への患者さんの移動はオーバーラップさせ、置き去り
にしないようする。
職員と患者さんと病院法人に対して、善と悪は明確に分けて判断する。
さあ、こんなにお題目を挙げてできますかね。
出来るかできないかではなくて、やらなければならないわけです。
そうでなければ、この病院は消滅します。
そして、いよいよ始まります。
この病院の外来患者数分析とその内訳、入院患者数分析とその内訳確認を行います。
外来患者数を各保険、交通事故、会社健診、生活保護、労働災害、諸法の請求とカルテの突合せ、入金額との照らし合わせ、レセプトの請求額と返戻処理などチェックします。
私は、医療事務出身なのでこの辺りは、問題発見を糸口として難問解決の可能性を感じています。
個々の請求に問題があると、医事課のシステムそのものが壊滅的になっているので、請求事務全体は機能していないことになります。
多くのコンサルタントは、このあたりのこじれた問題を発見し、大きな問題として経営者に報告しますが、システムづくりの解決までは行っていないのが現実です。
事実、この病院では過去にコンサルタントが5社も出入りしていながら、何も行っていなかったことが明るみになります。
その費用は莫大な損失です。
まずは、レセプト請求額と入金額のチェックを行いました。
合いません。
当然、レセプトの記載漏れや整合性の問題から返戻されているはずです。
医事課職員に聞いてもはっきりした答えは返ってきません。
おかしい! 直感に感ずるものがありました。
朝早く出勤し、医事課職員の机の下に置いてある段ボール箱をくまなく探しました。
ありました。ご名答ですね。
その額2000万円強。
勢いというのでしょうか。
他の未請求、請求中途、請求未完了が見つかりました。
企業受託健診請求は、ほとんどが未請求。
交通事故も未請求と請求完了していないものばかりが殆ど。
諸法もすべて未請求続発。
未請求総額4000万弱。
これでは、現在の経営惨状の引き金を引いたといってもよいですね。
過去の時効分を含めたらいくらになるでしょう。
何故、このようになってしまったのでしょうか。
過去の事務長は、医療事務を外注2社に請け負わせ、事務次長を除き、医事課職員をその指示系統の下に置くという愚かな組織にしていました。
コスト優先、委託優先という誤った考えに基づき行った結果と言えます。
委託事務を請け負う会社とのきちんとした業務契約もなく、責任のない委託職員が正職員を指示する組織です。
責任の所在がどこにあるのかではなく、無いように作られたとしか思えません。
前任の事務部長は、週3日午前中出勤し、ある会社からの出向です。 事務次長は、私の出張中に職場を離れ麻雀を行っていたという為体です。 事務部長の代理である認識すら欠如している有様に、唖然というしか表現が見つかりません。自分の業務は何なのかさえ、自分でわからないようです。
企業受託健診請求担当であったにもかかわらず、全く行っていなかった責任により解雇となりました。
悲劇です。
先ずはここから先制改革です。
委託会社2社の社長を呼び、委託職員である管理担当者に対して、問いただしたところ、ただ辞めたいとの返事のみ。
ここまで無責任な体制は考えられませんでした。
直ちに医事課職員募集を行い、契約解除を進めました。損害賠償を求めるところですが、返戻請求に関しては、責任をもって最後の1枚まで行ってもらうことにして、その間の委託費は支払わないことで決着させました。
おかげで私は、交通事故と労働災害、生活保護処理を行うことになり、祝日返上の請求に奔走しました。
交通事故は、自費扱いですので掛け数があります。これを保険と同じにするということにして、即入金としてもらいました。
いろいろな手法を屈指し、3か月後には4000万円強の資金が残り、夏のボーナスに目途が立ちました。
新体制は、医事課職員も新人が増えましたが、正職員を私が教え指示し、新人を正職員が教えるという組織体制で始まりました。
正月は、交代で出勤してなんとか乗り切りました。
その後も医事課職員の必要数確保のため、新卒既卒採用を行い体制固めを行っています。
2台の端末しかなかったレセプトコンピューターを最新式のものに変え、受付を始め医事課職員全員の机上に置き、診療カード打ち出し連動としました。
斯くして、管理事務部医事課の第一次改革が完了しました。
医事課には多くの経営資料が集まります。
つまり、経営分析するのに必要な材料はこの部署の先進性にかかっています。『医事課に問題があるということは、病院組織全体に問題が波及します。』
そうこうしていたら、外来看護師から要望です。
当然の要望を如何に叶えるか・・・ここが重要でした。