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#フィクション
【小説】ある駅のジュース専門店 番外編「西科優仁に関するインタビュー」
西科優仁……ですか? ああ、はい。高校生の時、同じクラスにいました。よく覚えてますよ。結構、その……いろんなことやってましたからね。あの人。
ほら、あの頃って学校のルールを守ることなんかより、オシャレとか流行りとか、カッコ良さみたいなものを追い求めたい時期じゃないですか。だから先生に隠れてズボンの丈をちょっと長くしたり、髪型を刈り上げてみたりする人は結構いたんですよ。
でも西科は……もうそん
【小説】ある駅のジュース専門店 番外編「ある駅の小さなレストラン」
仕事帰りに乗った電車で居眠りをしてしまい、慌てて降りた駅に、人の気配は無い。構内のシャッター街を彷徨っていると、一軒だけ、シャッターが開いている店を見つけた。
レンガ調の壁紙と木製のフローリング。ダークブラウンのカウンターに赤い椅子。やけに薄暗い店内を、カウンターの上に置かれた赤いテーブルランプがぼんやりと照らしている。出入り口の上に掲げられた看板を見ても、見たことのない文字ばかりで全く読めず
【小説】ある駅のジュース専門店 番外編「サラセニアの憧憬」
いらっしゃいませー。また来てくださったんですね、ありがとうございます。どうぞ座ってください。
お客さん、なんか飲みます? ラズベリーソーダとストロベリーソーダがありますけど……ラズベリーソーダですね。かしこまりました。
はい。何かご質問ですか? .....なぜ私がジュース屋を開いたのかを知りたい? 本当は憧れのお店のスタイルを真似しようと思ってたんですけど、料理向いてなかったんですよ……え、
【小説】ある駅のジュース専門店 番外編「訪問」
クーラーボックスを携えて、久しぶりに電車に乗った。先輩に会いに行くのは初めてなので、少し張り詰めた気持ちで窓の夜景を見つめる。
電車はトンネルを抜け、ある無人駅に停まった。少し錆びついた駅名標には「きさらぎ」の文字。開いたドアから生温かい風が吹き込んでくる。私は席を立って電車を降りた。
先輩は、私が駅を建てる十七年前から既に、その存在を多くの人間たちに知られている。駅を建てると決めたのも、先
【小説】ある駅のジュース専門店 番外編「征服」
バスに乗っている。周りの乗客は不安げに前方を見つめている。何事かと進行方向へ目を向けると、アスファルトの上に太く白い植物の根がびっしりと張り巡らされていた。今から二十年前に父を喰った、あの化け物の根だった。
バスは赤信号で停まった。横断歩道を渡る男性が根に近づき、瞬く間に絡め取られて引っ張られていく。向かう先は大きく口を開いた筒状の捕虫葉。男性は激しく暴れていたが、いとも容易く葉の中に放り込ま
【小説】ある駅のジュース専門店 番外編「サラセニアの再会」
ある年の休眠中、突然真っ白い何もないところに放り出された。たぶん「夢」というやつを見ているんだろう。本で読んで知っていたから、ああ、これが夢かという感じでさほど驚きもしなかった。
「サラセ」
男の声に名前を呼ばれた。どこかで聞いたことがあるような声だが思い出せない。声の方に振り向くと、白髪混じりの背の低い男が立っていた。
育ての親だった。
「……なんでお前がいるんだよ。喰ったはずだろ」
「心
【小説】ある駅のジュース専門店 番外編「道祖神と人喰い怪異」
※Xの「リプ来た台詞でss書く」という企画で「あともう少しですね」という台詞をいただき、執筆させていただいたお話です。
沈みゆく夕日の光に目を細め、辺りに何もいないのを確認すると、私は林を抜けてある場所へ歩き出した。
かってこの辺りは旅人が通っていたので人の行き交いも多く、疫病が侵入しやすかった。さらに、旅人に混じって人でない悪いモノが村に入り込もうとすることもあった。それらを追い返して村を
【小説】ある駅のジュース専門店 番外編「サラセニアの自立」
私は育ての親の家を出て、山の中まで来ていた。もし今誰かに自分の姿を見られたら、きっと甲高い悲鳴を上げられるか写真に撮られるかされて、食虫植物のバケモノが出たなどと勝手な噂が広まるだろう。人の気配が無い場所でゆっくり休むつもりだったので、とにかく目立つことだけはしたくなかった。
雨が降ったばかりの湿った地面に根を下ろし、からからに乾いた全身に水分を送る。これまでは整った環境が既に作られていたが、
【小説】ある駅のジュース専門店 番外編「サラセニアの後悔」
私の生い立ち……? どうしてそんな事、急に?
気になったから? 私の生い立ちなんて、聞いたって何も面白くないですよ。
まぁでも、今まであまり自分の経歴を人に話すということは無かったですし、お客さんも何度も来てくれてますからね。少し、長くなると思いますが……お時間大丈夫ですか? ......そうですか。
なら、話しますね。
私を育ててくれた人は、少し変わり者でした。
周りから呆れられるくらい