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【美術展2024#97】須田悦弘@渋谷区立松濤美術館
会期:2024年11月30日(土)~2025年2月2日(日)
普段、道端で見かけるような草花や雑草。実は本物と見紛うほどに精巧に彫られた木彫作品です。須田悦弘(1969~)は独学で木彫の技術を磨き、朴 ほおの木で様々な植物の彫刻を制作してきました。須田によって生み出される植物は全て実物大で、それらを思いがけない場所にさりげなく設置することで空間と作品が一体となり、独自の世界をつくりあげています。
本展は、東京都内の美術館では25年ぶりとなる須田悦弘の個展です。今回、須田の初期作品やドローイング、近年取り組んでいる古美術品の欠損部分を木彫で補う補作の作品等をご覧いただくとともに、本展のための新作も公開します。
渋谷区立松濤美術館の建築は、「哲学の建築家」とも評される白井晟一 せいいち(1905~1983)によるものです。閑静な住宅街に位置する石造りのユニークな外観、入口の先には楕円形の吹き抜けがあり、そこに架かるブリッジからは池と噴水を見下ろすことができます。地下2階から2階まで螺旋階段で繋がり、高い天井と湾曲した壁面をもつ展示室や、ベルベットの壁布が張られ、絨毯敷きにゆったりとしたソファが置かれた展示室など、他にはない空間が来館者を迎えます。
ここに須田の植物を配することでどのような作品となるのか。白井建築を舞台にした須田悦弘のインスタレーション作品としてもご期待ください。
天気の良い日の美術館巡りはいつもにも増して楽しい。
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松濤美術館には年季の入ったバルセロナスツールが多数置かれている。
多くの美術館に什器として採用されているミース・ファン・デル・ローエの名作中の名作スツールだ。
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だが、来る度に思うがこの美術館の雰囲気といまいち合っていないような気がするのだ(私感)。
私的にはこの美術館にはこれがしっくりくる。↓
・スツール S-3010, 3030
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デザイナー:剣持 勇
発表:1960年
メーカー:ワイ・エム・ケー長岡
長岡の籐家具メーカーが作る日本の伝統工芸的スツール。
いかがだろうか?
…なんて思いながら地階に降りる。
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壁にバラの花がくっついている。
早速須田ワールドにいざなわれる。
多摩グラ学生時代の課題で急遽制作したという木彫のスルメ。
木の質感と干物の質感がうまいこと合っている。
この成功体験が以降の須田氏の作品の方向性に大きな影響を与える。
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そこかしこにさりげなく作品が設置されている。
作品そのものは小さいが周囲の空間も含めたインスタレーションでもあるので、そう考えると実は「大きな作品」とも言える。
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《雑草》 2002
中央には装置的なインスタレーション作品が2つ置かれる。
こちらの作品は大学の卒業制作とのこと(外壁は今回の展覧会のために再制作)。
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中に入ると、
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クスノキで作ったホオノキの花。
こちらは、
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中に入ると、
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個人的には人工的で大掛かりな装置で見せるより、日常の風景の中にひそやかに紛れているような作品の方が好きだ。
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危うく蹴飛ばしてしまいそうになるような置かれ方。
いいじゃないこういうの。(監視員は気が気ではないだろうが)
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小規模ながらもこれは「装置的作品」に近いか。
ドローイングもともに並ぶ。
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須田氏は新卒で日本デザインセンターに所属したとのことで、その時代の仕事も展示されている。
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この辺りのことは知らなかった。
見慣れたパッケージも手がけていたのだね。
緻密な描写は現在の制作スタイルに通じるものがあるな。
ここでまたいつも思うのだがこのソファ本当に必要?
存在感がありすぎて作品や展覧会の世界観がどうしてもブレる気がするのだが。
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もっとサラッとしたベンチや、なんならまっさらに何も置かない方がすっきりすると思う。
またしても勝手にセレクトするとしたらここにはこれですな。↓
・REFOLO Sofa
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デザイナー:シャルロット・ペリアン
発表:1953年
メーカー:Cassina
ペリアンは1940年に坂倉準三の誘いで日本の輸出工芸指導の顧問として来日し、柳宗理らの案内で日本各地を巡り日本の近代デザインにも大きな影響を与えた。
その後も日本との関わりは深く、このベンチも東京で発表された。
資料にもその姿が残る。
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トーハクにも置かれているがあちらのREFOLOは薄暗い場所に置かれていて扱いが雑な感じ。
トーハクに限らずだが美術館・博物館に置かれる名作椅子や家具は現行品であれどキャプションとか解説文とか付けてもっとアピールすべきだと思うのだが。
モジュールを組み合わせることで様々な形にできる。↓
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杉本博司氏に依頼されて「補作」を行った小田原文化財団所蔵品である《春日若宮神鹿像》。
須田氏は角・榊・鞍を平成時代に、瑞雲を令和時代に補作したそうだ。
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瑞雲は2016年に制作したものが杉本氏からダメ出しをされて、2022年に一から作り直したというストーリーも非常に興味深い。
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そのガラスケースの端にはひそやかに《雑草》が。
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私にはいまいちしっくりこない内藤礼氏のひそやか系作品とは違い、須田氏の作品は昔から好きだ。
私の嗜好として作品の大小や平面立体関わらずモノとしての存在感がどうしても欲しい。
その上で、
・コンセプトやストーリーを全く知らなくてもそのモノを見るだけで素直に感動できるモノ
・コンセプトやストーリーを知ることでより深く感動できるモノ
・私の世界観を広げてくれる今まで見たことのなかったようなモノ
それらを内包しているモノに、私は惹かれるのだ。
とはいえ、その基準は全て私の曖昧な匙加減で、時に全て覆して全く趣向の違うものに惹かれたりもするのだが。
だけど美術ってそんな感じでいいんじゃない?
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