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日記

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日記の寄せ集めです。
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日記⑮(2020.08.29)

日記⑮(2020.08.29)

 推敲段階に入ると、とたんに手持ち無沙汰になる。推敲を長くとるのは新人賞に出すくらいの長さのもので、ぼくはこれまで三つしかその長さを書いたことがないから、その手持ち無沙汰さがいつも久々でうろたえてしまう。

 とりあえず読書をする、未完成の小説にはふれたりふれなかったり、いろいろなリズムでごっちゃになりたい。でも推敲期間は、その小説世界と自分の世界を近くすればいいのか遠くすればいいのか分からなくて

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日記⑫(2020.03.16)

日記⑫(2020.03.16)

 三十分ほど遅れます、と井の頭さんからのLINEが報せたから、目についたエクセルシオールでコーヒーを買い、喫煙ブースに入ったり昨日買ったばかりの『掃除婦のための手引き書』を開いたりして過ごしていた。風が強いみたいですよ、と教えてもらったから知ってはいたものの、まさに風が吹きはじめた頃で、これから歩きに行くんだと思うとちょっと戦いた。

 御茶の水橋口で合流した。井の頭さんは強風と知っていながらもす

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日記⑪(2020.01.23)

日記⑪(2020.01.23)

 用事は十時過ぎに終わった。十三時起床が常のぼくからすれば眠っているはずの時間、だからゆっくりしよう、と帰りがけに見かけた喫茶店に入る。
 朝早く起きると、いつもその「朝早く起きなければいけない」というプレッシャーにやられて寝不足になる。居ないはずの時間と相まって、どうもフワフワする感覚が抜けなかった。
 320円のブレンドコーヒーをSuicaで支払い、対向からくる人を待ってから喫煙席に座る。一応

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日記⑩(2019.12.31)

日記⑩(2019.12.31)

 人の気配がない終末的にも感じる夜でひとを待ちながら、ぼくは年の瀬についに突入し、その境界を越えようとしていた。

 年の瀬、という言葉をクリスマスを過ぎた辺りから幾度となく想起した。川の流れの真ん中、状態的には折り返しとも見ることができる。その川とはつまり時間だとすると、ぼくらは常に流れに半ば逆らいながら、対岸を目指し渡っていることになる。生きるとは、つまり、渡り続けること、?

 遮蔽物なしに

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日記⑨(2019.10.26)

日記⑨(2019.10.26)

 先週、のことだったと思う。ぼくと父と叔母夫婦と祖母の五人で茨城のバスツアーに行った。最近のことに薄められつつある記憶を思い出しながら書いてみようと思う。

 天気をちゃんとは覚えていないが、風がひどく強かったことだけは確かだ。高校で通っていた最寄りの一つ隣の駅――つまりぼくとしては懐かしさばかりが目につく街――で集合し、ぞろぞろとバスに乗り込んだ。
 バスに乗るのは四月の長野以来だった。そのとき

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日記⑧(2019.09.10)

日記⑧(2019.09.10)

 集合は20:45だった。

 前日に決めていた焼き肉屋へ行き、九割ほど腹を満たして夜パフェ専門店でいささか大きすぎる――少なくともその時の胃事情を鑑みるとその言い方はむしろ加減が足りないような気もするが――ピーチを主題としたものを食した。その店は味と同じくらい見た目に気合いを入れているらしく、そのせいか食べづらかったが、まあ楽しんだ。一緒にいた長井はもっとボリューミーなものを頼んでいた(長井とい

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日記⑦(2019.08.30)

日記⑦(2019.08.30)

季節はずれの寒気をおぼえて、自ずと目が覚める。設定したアラームからは一時間ほど過ぎていた。

どうしてこんなに寒いのだろう。
まだ眠りたいとうるさい目蓋をゆっくり現実にならせて、ひとまずエアコンのスイッチをきる。まるで冬の朝のように冷えている。

階下へ行きうがいをして水を一杯飲んでから、自分の部屋から赤マルと安全燐寸を持ってベランダに出る。部屋の底冷えの原因は、外気だったのだ。風が強くて一本失敗

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日記⑥(2019.08.21)

日記⑥(2019.08.21)

 B10出口を出ると、飛沫がひどく、それだけでいくつもの雨の染みができた。屋根の一歩外は大きな水溜まりで、目の高さにそれがあったときの迫力は、都心なのに自然を感じたほどだった。

 後がつかえていたので、水溜まりをぎりぎりよけて頼りない折りたたみ傘をさして、目的地をもとから入っている地図アプリで検索すると、どうも別の出口からの方が近いらしかったから、ぼくと枝はそこからまた地下へと戻ることにした。

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ぼくから見えるもの

ぼくから見えるもの

現実という言葉は、基本的に夢や理想の対として用いられるから、暗いイメージを帯びる。

「もうすこしな、現実を見るというかな、」
ぼくは愕然する。現実は見るものではなくてただ在るものだと考えていたから。そこにはぼくがいる現実と両親の見る現実に差異があったのだ。それはとても悲しいこと。

ぼくが小説家を志していることが察されていることは、別にもうよかった。むしろ自分から言わなければいけないのよりはずっ

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