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日記⑪(2020.01.23)

 用事は十時過ぎに終わった。十三時起床が常のぼくからすれば眠っているはずの時間、だからゆっくりしよう、と帰りがけに見かけた喫茶店に入る。
 朝早く起きると、いつもその「朝早く起きなければいけない」というプレッシャーにやられて寝不足になる。居ないはずの時間と相まって、どうもフワフワする感覚が抜けなかった。
 320円のブレンドコーヒーをSuicaで支払い、対向からくる人を待ってから喫煙席に座る。一応小説(『幽霊たち』)は持ってきてはいたけど、読むと気分が悪くなりそうだから熱すぎるコーヒーを冷ましつつ赤マルを喫んでいた。寝不足は口渇まで引き起こした。
 TLを遡るのにも人間観察にも飽きて、ついこの間知り合った人の小説を、あくまで気分を絶えず気にしながら読むことにした。が、面白くてやめ時が見つけられず、気づくと一時間も経っていた。
 こんな長居をするつもりじゃなかったのにと慌てて身支度をして、プレートを返却台に運んで手動の自動ドアから出る。

 駅にくっついてる喫茶店だったから傘を開かずすぐに構内に入る。前を歩くおじさんがJRの旅行パンフレットを見て停止したのを見て、むせた。弾みで吐き気が引き起こされる。その吐き気をゆっくりとたしなめてからまた歩き出し、速やかにホームに向かい、電車に乗り込む。
 幸いここは終着駅だから、当然のように座れた。なんとか帰れそうだと安堵して発車を待った。
 けれど一駅乗っていると吐き気はまた揺り戻された。これはダメだと思いすぐに降りた。一駅なのに座りやがって、と思われたことだろうな。
 トイレに直行し、奥二つの個室が空いていたから手前に入る。座る。できれば吐きたくない。けれどそれが楽ではある。でも、帰宅にあたってことの外この不安要素が大きい。
 吐こうと、便座に手をついた。吐くのを助けるために左手の中指で喉を突く。嗚咽が発生する。鼻水が出てきて涙のようなものが目に溜まり、唾液がたくさん出てくる。顎が痛くなる。けれど吐けなかった。焦ってなんど突いても嗚咽ばかりだった。五回ほど試したのち、諦めてトイレットペーパーで鼻をかんだ。
 吐き気を催しても、吐くことさえできない。自然な自己嫌悪。日頃の行いが仇となる。
 顎の痛みを引きずったまま個室を出て手を洗い、またホームに降りる。わだかまる吐き気的なものを抱えて電車を待つ。丁寧に洗った左手の中指が、冷たくて痛んだ。

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鱒子 哉
今まで一度も頂いたことがありません。それほどのものではないということでしょう。それだけに、パイオニアというのは偉大です。