「マインドフルネス」と「瞑想」の違いとは?
こんにちは、マインドフルネス教師の枡田です。
マインドフルネスを教えていると、この質問はよく聞かれます。確かにわかりにくいですよね。
Googleで検索してみると、マインドフルネスと瞑想の違いについて説明している記事がたくさんヒットします。
そこでは、以下のように説明されることが多いです。
マインドフルネスは、仕事の能力向上やストレス低減などの利益を目的に行うもの
瞑想は、目的を持たず心をリラックスさせたり、意識をクリアにしたり、集中力を鍛えたりするもの
多くの記事でこのように説明されています。しかし、正直この説明は正確ではありません。
このイメージが強いですが、これはおそらく巨大IT企業のGoogleが、マインドフルネスを積極的に取り入れている、という流れから来ていると思います。
あのGoogleが取り入れているマインドフルネス!
集中力アップ!
創造性アップ!
生産性アップ!
そういう文脈で語られることが多いため
マインドフルネス=利益目的
というイメージができたのでしょう。
ただ、このイメージは正確ではありません。
この誤解を解くためには、マインドフルネスの歴史を見ていく必要がありそうです。
マインドフルネスの歴史
まず、マインドフルネスというものは、別にGoogleが作ったわけではありません。
Googleはマインドフルネスを積極的にとりいれていますが、マインドフルネス自体はもっと昔からありました。
有名なのは、マサチューセッツ大学のジョン・カバット・ジン教授が、1979年に医療用プログラムとして開発した、MBSR(マインドフルネス・ストレス低減法)です。
MBSRは、うつ病の予防や再発防止、患者の精神的なケアなどで大きな成果を上げ、マインドフルネスが広まるきっかけを作りました。
そのためか、
と説明されることもよくありますが、これも正確ではありません。
ジョン・カバット・ジン教授は、マインドフルネスを医療に応用はしましたが、マインドフルネスそのものを作ったわけではありません。マインドフルネス自体は、もっと前からありました。
「マインドフルネス」という言葉が広く使われるようになったのは、1960年代以降のアメリカです。
言葉自体は1900年頃からあったようですが、今のように瞑想を指す言葉として本格的に広まっていったのは、1960年以降です。
1960~70年代のアメリカは、長引くベトナム戦争の最中で、反戦運動が盛んになっていました。
その流れの中で、西洋至上主義への反発が高まり、東洋文化への関心が高まり、東洋文化ブームが起きていました。
その中で、仏教の教えと瞑想への関心も高まっていきました。
何人もの熱心なアメリカ人が仏教国に渡り、仏教と瞑想を学び、アメリカに持ち帰りました。
また、東南アジアの上座部仏教、チベット仏教、日本の禅の指導者たちが直接アメリカに渡り、仏教を教えるようになりました。
そして、一部の人々の間で、仏教の瞑想が広まっていきました。
仏教の瞑想はイロイロ種類がありますが、アメリカでは以下のような仏教瞑想の中心的なスタイルが、広まっていました。
・呼吸を観察する瞑想
・体の感覚を観察する瞑想
・思考や感情を観察する瞑想
などなど
簡単にいうと、
というスタイルの瞑想法です。
これら瞑想法をマインドフルネスと呼ぶようになりました。
また、瞑想法だけでなく
「自分の感覚や思考/感情を、ありのまま観察している」
という意識状態そのものを、マインドフルネスと呼ぶ場合もあります。
その意味でなら、座る瞑想をしなくても、日常動作をしながらマインドフルネスでいる(=日常動作をしながらありのままを観察している)、ということも可能です。
瞑想法と意識状態を区別するために、瞑想法のことを「マインドフルネス瞑想」と呼ぶこともあります。
当時アメリカに渡った、東南アジアやチベット、日本などの本場の仏教指導者の書いた本にも、マインドフルネスという言葉が頻繁に使われています。
マインドフルネスという言葉は、特定の一つの瞑想法を指すというより、仏教瞑想で育まれる意識状態や、複数の瞑想法の総称として使われるなど、幅広いものです。
医療用のMBSR(マインドフルネス・ストレス低減法)もマインドフルネスですし、Googleのマインドフルネスプログラムもマインドフルネスです。
これらは、一般向けになるべく宗教色を除いたものです。
日本では、これら宗教色を排除したメソッドがマインドフルネスだ、というイメージがありますが、もっとコアな仏教の教義を重視するマインドフルネスの流派もあります。
例えば、ベトナムの禅僧ティク・ナット・ハン師の流れを組む流派がそうです。
ハン師は、マインドフルネスという言葉を多く使い、師が教えた瞑想法もマインドフルネスと呼ばれています。
しかし、ハン師は禅僧ですので、その教えには仏教の教義が多く含まれていて、宗教色を排除したメソッドとは言えません。
マインドフルネスという言葉には、かなり曖昧さがあるのです。
なので、マインドフルネスは「IT企業のGoogleがやりだしたビジネスマン向けの瞑想法」だけを指すわけではないのです。
さっきからGoogle、Googleいって、まるでGoogleを悪者扱いしているように聞こえるかもしれませんが、そういうわけではありませんよ!
Googleの開発したマインドフルネスプログラムは、「SIY(サーチ・インサイド・ユアセルフ)」といいますが、その書籍を読むと、こんなことが書いてあります。
うんうん、この人わかってるなぁ!
Googleのプログラムだって、ちゃんと読んで取り組めば、それが仕事の効率化と利益だけを目指したプログラムでないことは、わかるはずなのです。
(なお、禅は上座部仏教やチベット仏教よりも少し早くアメリカに入っていて、マインドフルネスと区別される場合もあります)
さて、マインドフルネスという言葉の説明はこの辺にして、つぎは「瞑想」という言葉を説明していこうと思います。
瞑想とはなにか?
さて、瞑想とはなんでしょうか?
でしょうか?
そうではありません。瞑想というのは、とても広い意味を持つ言葉です。
世の中には、実に様々な瞑想があります。そのやり方も千差万別です。
呼吸に意識を向ける瞑想
体の感覚を感じる瞑想
他者の幸せを願う瞑想
マントラ(決まった言葉)を繰り返し唱える瞑想
ロウソクの火をじっと見つめる瞑想
仏の姿をイメージする瞑想
神や精霊に祈りをささげる瞑想
などなど、ここでは書ききれないほど大量にあります。
瞑想のバックボーンも様々です。
ヨガの瞑想、仏教の瞑想、ヒンドゥー教の瞑想、道教の瞑想、キリスト教の瞑想、ユダヤ教の瞑想、シャーマニズムの瞑想……などなど。
仏教の瞑想にも、サマタ瞑想、ヴィパッサナ瞑想、メッタ瞑想、トンレン瞑想、阿字観……などなど、種類がたくさんあります。
太極拳や気功も、瞑想といえば瞑想です。
宗教とは関係ない、純粋にリラクゼーションを目的とする瞑想もあります。
つまり瞑想というのは、精神的トレーニング、宗教的な祈りや儀式、リラックスのメソッドなど、様々なものを総称しているのです。
なので、瞑想という言葉単体では、具体的なメソッドを指すことはできません。
マインドフルネス瞑想、メッタ瞑想、TM瞑想、〇〇瞑想、というように、何か具体的なメソッドを示す言葉を頭にくっつけないと、何を指しているかはわかりません。
とても広い言葉なんです。
ですから、
「瞑想とは〇〇だ!」
とハッキリと言い切ることはできません。
瞑想についての説明の多くは、その人がやっている特定の瞑想法を指して、「瞑想とは〇〇だ」と説明していることがほとんどです。
なので、前後の文脈から、そこで言っている「瞑想」が何を指しているのかを、よく見極めて読む必要があります。
冒頭の「マインドフルネスと瞑想の違いは?」という質問の場合、「瞑想」という言葉をどういう意味で使っているかによって、2つのパターンにわけられます。
一つ目は、「マインドフルネス瞑想」という意味で「瞑想」と言っている場合です。「マインドフルネスとマインドフルネス瞑想の違いは?」という意味ですね。この場合、質問への回答は
マインドフルネスは 「ありのままを観察している意識の状態」であり、マインドフルネス瞑想は「その状態を育てるための瞑想法」です
となります。
一方で、特定の瞑想法を指さずに、瞑想全般を指して「瞑想」と言っている場合、ハッキリとした説明はできません。
なぜなら、「瞑想」という言葉が、何を指しているのか特定できないからです。
例えば「瞑想とはリラックスするためもの」という説明があったとしても、それに当てはまらない瞑想もたくさんあります。
それはまるで、レモンを食べた人が、
「レモンはすっぱいので、果物とはすっぱいものだ」
といっているようなモノです。
レモンがすっぱいだけであって、果物全てがすっぱいわけではありません。
なので、瞑想とマインドフルネスを、特定のメソッドのように同列に並べて、
「瞑想とマインドフルネスの違いはこうである!」
という説明はできません。
わたしとしては、マインドフルネス(マインドフルネス瞑想)は、瞑想の一種と言っていいと思います。
〇〇瞑想、××瞑想、△△瞑想、という様々な瞑想がある中の一つとして、マインドフルネス瞑想があると思っています。
図にするとこんな感じですね。
要するに、マインドフルネスと瞑想の違いは、
ということになります。
まぁ、よほど詳しい人でないと、この辺りは混乱しますよね。わからなくても当然だと思います。
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