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言葉はゲームだ!ウィトゲンシュタイン「言語ゲーム論」から読み解くプログラミング言語DSLとコミュニケーションの核心

プログラミング言語ゲーム論:ウィトゲンシュタインで読むDSL

どうも、ビジネス哲学芸人のとよだです。

今回の“ビジネスと哲学とITの交差点”では、「DSL(Domain-Specific Language)」と「言語ゲーム(ウィトゲンシュタイン)」という、これまた個性的な2つの概念を掛け合わせてみたいと思います。

SQLや正規表現(Regex)、Terraformなど、特定の目的に特化した小さな“言語”を使いこなすエンジニアのみなさんはもちろん、日常的にやり取りされる“専門用語”にモヤモヤを感じたことがあるビジネスパーソンの方にも、何かしらのヒントになるかもしれません。どうぞ最後までお付き合いください!



1. DSLとは何か?—狭いからこそ力を発揮する“ミニ言語”

まずはDSLのざっくり解説から。DSL(Domain-Specific Language)とは、特定の領域(ドメイン)の問題を解決するために作られた小規模なプログラミング言語のことを指します。

  • SQL:データベースの操作に特化した言語(テーブルから情報を取り出したり、結合したりする命令が中心)

  • 正規表現(Regex):文字列をパターンマッチングするためのルールを定義した言語(特定の文字列を検索・置換する場面などで大活躍)

  • Terraform:サーバーやクラウド環境を構築・管理するために作られた言語(いわゆる“インフラをコード化する”ためのツール)

これらのDSLは、いわゆるJavaやPythonなどの「汎用言語(General-Purpose Language)」と違って、多目的に使うことは想定されていません。

代わりに、絞り込まれた用途に対して圧倒的な表現力と簡潔さを発揮するのが魅力です。たとえばSQLなら、データベースに対して「こんな風にデータを集めたい」「こう結合して並べたい」という要求を、わずかなコード量で記述できちゃいます。

しかし、この“使いやすさ”はあくまで「データベース」の文脈にハマっているからこそ。たとえば、SQLでウェブページのUIを作ろうとか、正規表現で高度な数値演算をしよう…なんてのは無理がある話ですよね。まさに特定の「ドメイン」という文脈が限られているからこその強みなのです。


2. ウィトゲンシュタインの言語ゲーム論:意味は“使われる状況”で決まる

次に、20世紀の哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインが提唱した「言語ゲーム」論を見ていきましょう。ここでの“ゲーム”はトランプやチェスといった遊びのことではなく、「言語が使われる様々な局面・文脈」の比喩です。

ウィトゲンシュタインは、「言葉の意味はそれが使われる場所(社会や文化、具体的な行為、生活様式)ごとに異なる」と説きました。つまり、ある言葉がどんな意図やルールの下で使われているかによって、その言葉の意味も変わるという考え方です。たとえば「バッテリー」という言葉は、

  • 野球のピッチャーとキャッチャーのコンビを示すこともあれば、

  • スマホやノートPCなどの電源を指すこともある。

つまり、言語ゲームは「文脈(コンテクスト)」+「行動」+「社会的な慣習」などを全部含む“総合的な場”であり、これらの例は「同じ単語でも、文脈というゲームが変われば意味が変わる」という言語ゲーム論の典型なんですよね。


3. DSL × 言語ゲーム = “文脈特化の言葉遊び”

では、DSLとウィトゲンシュタインの言語ゲーム論がどうつながるのか? ここが今日の本題です。

  • SQLの「SELECT」「JOIN」は、データベースという“ゲーム”のルールに従った用語。

  • 正規表現の「^」「$」「.*」「\d+」なども、文字列パターンという“ゲーム”でこそ意味を持つ記号。

もしあなたが正規表現の記号をそのままSQL文に書いてしまったら、「え?何?この文字列は?」とデータベースエンジンは混乱してしまうでしょう。どんなに有用なDSLも、ゲーム(文脈)が異なれば無意味な呪文にしか見えないんですよね。

ここで気づくのは、「エンジニアは日々、複数の言語ゲームを無意識に切り替えながら仕事をしている」という事実です。データベースアクセスのときはSQL、テキスト処理のときはRegex、インフラ構築のときはTerraform…と、場面に合わせてゲームを切り替えているわけです。

この切り替え作業は、一種のマルチリンガル体験といえるかもしれません。ウィトゲンシュタインが言うように、「言葉の意味は使われ方で決まる」のだとすれば、DSLはまさに「使われ方を限定することで、最大限に機能する言語ゲーム」と言えそうです。


4. 日常にも潜む“専門用語”というDSL—組織内の言語ゲーム

さて、ここからはビジネスや組織の視点に少し寄せてみましょう。

私たちの職場やチーム内には、実はたくさんの“ミニ言語”が存在しています。たとえば、各部門ごとに使われる「専門用語」や略語、社内プロジェクト名など。プロジェクトの規模が大きくなればなるほど、「これ、Aチームの“言語ゲーム”と、Bチームの“言語ゲーム”が全然違うよね…?」なんて光景に出くわすことはありませんか?

  • 営業部門:「リード」「クロージング」「KPI」などの言葉が飛び交う

  • 開発部門:「デプロイ」「マージ」「CI/CD」などの言葉が中心

  • マーケティング部門:「コンバージョン」「セグメンテーション」などが頻出

それぞれの“ゲーム”にはルール(定義)や手順があります。「言葉の意味は、そのゲームにおいて初めて通じるもの」という点では、これも立派なDSLなんですよね。

組織内の“DSL”を可視化するメリット

  1. 相互理解がスムーズになる
    お互いの部門や専門領域が使うミニ言語を共有することで、コミュニケーションのズレを減らせます。

  2. 引き継ぎ・オンボーディングが楽になる
    新しく参画したメンバーが「この会社特有の用語わからん…」と混乱するのを防ぐためには、専門用語集を整備しておくと便利です。

  3. 組織全体の効率化
    異なるゲーム間の“翻訳”がスムーズになることで、プロジェクト全体の遅延や誤解を減らせる。

ただし、DSLが増えすぎると、「あれ? どれを使えば正解なんだっけ?」とコンフリクトが生じる可能性もあります。このあたりは「闇雲に言語ゲームを量産していいわけではない」という点で、DSL設計と同じ悩みを抱えているかもしれません。


5. 行為を理解し、“架け橋”の役割を果たす

言語ゲーム論から学べることとして、「ある言語がどのような行為や目的を前提にしているかを理解するのが大切」というのがあります。これはDSL設計にも通じる話です。

  • あるドメインで何をしたいのか?

  • どんな人が、どんなタイミングで、どんな手順で使うのか?

これらをしっかり把握することで、DSLはより的確にそのドメインでの作業をサポートできるようになります。逆に、設計者が現場の行動を知らずに「とりあえずこの文法でいいんじゃね?」とテキトーに作ってしまうと、使いにくかったり、本来求められていない機能を盛り込みすぎたり…といった問題が出てきますよね。

さらに、複数の言語ゲームをつなぐ“翻訳者”としてDSLが活躍するケースもあります。たとえば「アプリ開発者が書いた設定ファイル(DSL)をもとに、インフラエンジニアがサーバーを構築する」なんて流れが典型です。ここで上手く動くDSLを用意できれば、異なる専門領域(ゲーム)同士の橋渡しがスムーズになるわけです。


6. 乱立するDSL=乱立する言語ゲーム? 適切なバランスが大事

「便利だから」といって、あれもこれも新しいDSLを導入してしまうと、“ゲーム”があまりにも細分化されてしまい、共通の言葉がなくなるというリスクがあります。これは組織やプロジェクトにおいても同じで、部署ごとに使う言葉がバラバラになってしまうと、社内コミュニケーションが破綻しかねません。

ウィトゲンシュタインの言語ゲーム論は、言語の多様性を認める一方で、「どのゲームでも通じる最低限の共通理解」がある程度必要だ、という示唆も与えてくれます。

  • プロジェクト全体としての目標や方向性は共通言語でしっかり確認する。

  • 必要以上に細かい言語ゲームを増やしすぎない(ある程度の標準化も大事)。

  • もし新しい専門用語やDSLを導入するなら、「誰がいつ使うのか?」という行為とセットで周知する。

こうしたバランス感覚が、ビジネス組織にもソフトウェア開発にも大切なんですね。


7. まとめ:文脈の違いを楽しむことで、未知の可能性が広がる

DSLは、特定のドメインにおける課題を解決するために作られた小さな言語です。ウィトゲンシュタインの言語ゲーム論は、「言語は文脈によって意味が変わる」ことを強調しています。この2つを繋げて考えてみると、私たちは日々、多様な“ゲーム”を行き来しながら仕事やコミュニケーションをしているのだと気づかされます。

  • DSLは「特定の目的に特化したミニ言語」だけど、その背景には「どんな行為や目的のために使うのか?」という生活様式や行動も含まれる。

  • ウィトゲンシュタインの言語ゲーム論は、言葉が置かれた状況や行為を重視し、そこから言語の意味を考える。単なる“文脈”ではなく、もっと広い“暮らしや行動”ごとひっくるめて捉える考え方。

  • DSLや専門用語の乱立には注意。ゲームが増えすぎるとコミュニケーションが難しくなるので、全体の整合性を保つ工夫が欠かせない。

こんなふうに、ITが苦手な方でも「何かしらの専門用語の世界(言語ゲーム)」を毎日体験しているんですよね。意識してみると、自分のまわりにある“言語ゲーム”があちこちで見えてくるかもしれません。

次回の“ビジネスと哲学とITの交差点”でも、古典的思想と現代技術の意外なシンクロを探ってみたいと思います。あなたもぜひ、身の回りの“DSL”や“言語ゲーム”を再確認してみてください。「これって誰に向けた言語なんだろう?」と考えてみると、意外な発見があるかもしれませんよ。


参考文献・関連資料


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