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新谷勝老
2024年7月2日 16:30
小学生の頃、桃やスイカを食べたあと、種を庭に植えていた。これで来年食べられる、そんなことを思いながら。だけど秋には忘れていて、桃やスイカと同じ場所に、巨峰や梨の種を植える。それも冬になると忘れてしまって、今度はミカンやリンゴの種を植える。もちろん春にはそれを忘れ、傷んだイチゴを植えていた。再び夏が巡ってくると、またまたスイカと桃の種。年中こんなことをやっていたけど、芽
2024年7月11日 06:30
川が決壊したとかでみんな歩いてるんですよ。足首まで水に浸かっててね。それを見ながら、ああまでして会社に行く必要があるんかいな、なんて思ってましたよ。どうせ行ったって仕事になんかなりゃせんのですからね。第一外回りが出来ない。電車もバスはストップしているわけだし、車を使おうにも各地で通行止めになっているでしょ。仮に出来たにしても、取引先が営業してるかどうかもわからない。ああ
2024年7月24日 18:27
煤けたような灰色の雲がまだらな雨を落としている。この狭い狭い谷間の町に艶抜けした黒い機関車がまるで白く見える煙を吐き体を揺らせながら入ってくる。行き交う人の姿は傘に隠れ男女の見分けすらつかぬ。その中を薄茶色の紬女が傘もささずに歩いている。わめきながら歩いている。ぼわあ・・ぼわあ・・ぼわあ・・ありし日の昭和の雄叫びがこの狭い狭い谷間の町のかすれゆく記憶の中に今もこだま
2024年7月22日 06:53
ぼくらはドラムのセットを抱え、田んぼのあぜ道を歩いていた。空には一片の雲もなく、午後の日差しが頭をめがけ、容赦無しに降り注ぐ。ジージーワシワシ樹木の蝉と、ギーギーギッチョン草むらの虫が、だらしい暑さのリズムを刻む。ドラムを持つ手はふさがって、顔の汗さえぬぐえない。風がないから汗は乾かず、ポタリポタリとしたたり落ちる。気がつきゃ汗はスティックよろしく、スネアの腹を叩いて