マガジンのカバー画像

思い出の扉

60
運営しているクリエイター

2024年7月の記事一覧

【詩】夏の思い出

【詩】夏の思い出

小学生の頃、
桃やスイカを食べたあと、
種を庭に植えていた。
これで来年食べられる、
そんなことを思いながら。
だけど秋には忘れていて、
桃やスイカと同じ場所に、
巨峰や梨の種を植える。
それも冬になると忘れてしまって、
今度はミカンやリンゴの種を植える。
もちろん春にはそれを忘れ、
傷んだイチゴを植えていた。
再び夏が巡ってくると、
またまたスイカと桃の種。
年中こんなことをやっていたけど、

もっとみる
【詩】雨の思い出

【詩】雨の思い出

川が決壊したとかでみんな歩いてるんですよ。
足首まで水に浸かっててね。
それを見ながら、
ああまでして会社に行く必要があるんかいな、
なんて思ってましたよ。
どうせ行ったって
仕事になんかなりゃせんのですからね。
第一外回りが出来ない。
電車もバスはストップしているわけだし、
車を使おうにも
各地で通行止めになっているでしょ。
仮に出来たにしても、
取引先が営業してるかどうかもわからない。

ああ

もっとみる
【詩】狭い狭い谷間の町

【詩】狭い狭い谷間の町

煤けたような灰色の雲が
まだらな雨を落としている。
この狭い狭い谷間の町に
艶抜けした黒い機関車が
まるで白く見える煙を吐き
体を揺らせながら入ってくる。
行き交う人の姿は傘に隠れ
男女の見分けすらつかぬ。
その中を薄茶色の紬女が
傘もささずに歩いている。
わめきながら歩いている。

ぼわあ・・ぼわあ・・ぼわあ・・
ありし日の昭和の雄叫びが
この狭い狭い谷間の町の
かすれゆく記憶の中に
今もこだま

もっとみる
【詩】最後の夏休み

【詩】最後の夏休み

ぼくらはドラムのセットを抱え、
田んぼのあぜ道を歩いていた。
空には一片の雲もなく、
午後の日差しが頭をめがけ、
容赦無しに降り注ぐ。

ジージーワシワシ樹木の蝉と、
ギーギーギッチョン草むらの虫が、
だらしい暑さのリズムを刻む。
ドラムを持つ手はふさがって、
顔の汗さえぬぐえない。

風がないから汗は乾かず、
ポタリポタリとしたたり落ちる。
気がつきゃ汗はスティックよろしく、
スネアの腹を叩いて

もっとみる