声【エッセイ】六〇〇字
「モウチョイ・モウチョイ」と、聞こえた。
半年前から左脚が痛み始める。診断は、脊柱管狭窄症。原因、カレイ…。還暦前から十五年、神宮外苑までの往復八千歩のウォーキングが日課だった。が、コンビニまで歩くのが、やっと。医師から大腿筋強化の指導があり、ジムに通い、二十代からの習慣である朝風呂でも、太腿を伸ばす運動を、続けている。
ある日曜日。浴室の窓を開けて伸ばしていると、鳥の鳴き声が冒頭のように聞こえた。車の少ない休日は、都心でも、はっきりと。
鳥たちの激励もあってか効果が出始め、五千歩は歩けるようになった。モウチョイで、外苑内を闊歩することが、可能かもしれない。
その外苑の再開発への反対集会が、続いている。近隣住民や都民の運動、そして、死の直前にも関わらず、坂本龍一が都知事等へ送った手紙で、知る。NYの百万本植林計画やLAなどの緑化政策を例に、東京を「都市と自然の聖地」に、と訴えた。
計画では、高層商業ビルが建設され、公益性が高かったスポーツ施設は、廃止。移設のテニスコートは、高額会員制になるという。国民の寄付で造営され、百年以上続いた緑の景観を失ってまでも強行する裏には、富裕層優先の、モウケ主義を、感じざるを得ない。
梅雨明けの朝、「ミンイ・ミンイ」と蝉の声も。速足は無理だが、外苑ウォーキングを復活させ、緑多き杜で、「ハンタイ・ハンタイ」と声を上げたい。
(ふろく)
朝日新聞「声」の欄で、幾度となく投稿があった。危うい国の行方を憂いながら、その作家が旅立たれた。