【感想】Netflixドラマ『阿修羅のごとく』
原作は言わずと知れた(まぁ若い人は知らないかもだけどw)向田邦子の名作ドラマ
今回のNetflix版と同じ全7話
2003年には森田芳光監督がテレビドラマではなく映画でリメイク
森田芳光といえば、黒澤明の同名映画をリメイクした『椿三十郎』がある。
なんと脚本を当時のものから一切変更せずに森田監督の演出だけで差別化(!)
脚本は同じでもアングルやカメラワークなどは全く違うものを撮ることで打倒・黒澤明を目指したそう。
森田芳光らしい実験的な試みである。
さらにもう一つ森田芳光といえば、キネマ旬報2025年1月号の『森田芳光、世界を行く ライムスター宇多丸×三沢和子 対談』もめちゃくちゃ面白かった。
閑話休題
そんな森田芳光の実験を前にすると「そもそもリメイクの醍醐味とは何か?」を考えたくなる。
やはり
何を変えたのか?
何を変えなかったのか?
に作家性が宿ると思う。
それによりオリジナルを上回るリメイクが生まれることがある。
もちろん(?)残念ながらオリジナルの良さが損なわれた微妙な作品が生まれてしまうこともある。
今回のNetflix版『阿修羅のごとく』も脚本は向田邦子(是枝裕和のクレジットは脚色)
是枝監督にとっては『怪物』に続き他者(前作では坂元裕二)の書いた脚本を撮る形
是枝監督はド派手なアクションを撮ったり奇抜なアングルを持ち出したりするタイプではなく、持ち味の一つが脚本だと思うのだが、それを敢えて“封印”
しかも当初はこのように考えていたそうである。
実際には一字一句変更なしではなく、現代的な脚色が加えられている。
上記の記事によれば脚色に当たってはグレタ・ガーウィグの『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』を参考にしたそう。
どちらも2024年のカンヌ国際映画祭の審査員でしたね(グレタ・ガーウィグが審査員長)
そういえば脚本どころか演出も変えなかったヒッチコックの『サイコ』のリメイクもあったよな…
酷評の嵐だった記憶だけど…
ただ、脚色は文字通りあくまで脚色であって全体的にはNHKで放送されたオリジナル版にかなり忠実になっている。
第1話を観たときは度肝を抜かれたw
え?こんなにそのままやるの!?とw
画角や衣装・スタイリングまでも結構踏襲してくるとは。
ただ、じゃあ是枝監督はただ向田邦子やオリジナル版の演出を務めた和田勉の模倣に終始しているのかというとそんなことはない。
『海街diary』や『舞妓さんちのまかないさん』に続き俳優陣のアンサンブルを引き出す手腕を炸裂させている。
そのアンサンブル効果もあってかオリジナル版よりも喜劇色を強く感じる極上の会話劇に仕上がっている。
ドキュメンタリックというべきか、もはやアドリブ合戦にしか見えない自然な会話劇。
色んな事件(それも死の香りが漂うものばかり)が起きるのだけど、事件それ自体のインパクトで引っ張るのではなくそこから生じる会話で魅せる。
いや、もうずっと見ていられる。
向田邦子の書いた台詞と是枝裕和の演出の相乗効果。
身も蓋もないバカっぽい言い方をすれば「面白すぎる」わけですw
あと、これはちょっと書き方が難しいのだが、個人的に是枝監督はカンヌでの実績などから世界的名匠と言われている一方で女優の撮り方はなかなか変態的だと思っている。
『有村架純の撮休』の第3話の腹部エコーのシーンとか大変なことになってるわけでw
あまり言い過ぎるとアレなのでこれぐらいにしておきますが、今作も是枝監督らしい女優の撮り方が随所にあって「あぁ是枝作品だなぁ」と思った次第です。
主演4人は言わずもがな。
やはり『海街diary』の綾瀬はるか的なポジションを担った蒼井優がMVPかなぁ。
いや、本作のコメディ的な明るさを支えたのは尾野真千子だろう。
(ちなみに尾野真千子は下積み時代まさに池上に住んでいたという作品外の文脈も)
それを言うなら、まだまだ若いキャリアであの3人に違和感なく食い込める広瀬すずって凄すぎないか?
いや、待て。宮沢りえのキャリアの長さを前に「あれぐらい出来て当たり前」と思ってないか?むちゃくちゃ凄い演技してるぞ?
結論、4人とも化け物w
ただ、個人的には巻子(尾野真千子)と鷹男(本木雅弘)の娘である里見洋子を演じた野内まるが最大の発見だった。
是枝監督のフィルモグラフィーにおける蒔田彩珠・広瀬すず・出口夏希の系譜に連なる新星だと思う。
今期のTBS日曜劇場『御上先生』にも生徒役で出るそうで。
ところで「のうちまる」って丸の内をもじった芸名なんだろうか…?