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写真家 土屋 正英
2020年7月1日 09:52
秋の盛りを彩った紅葉の葉は、晩秋が訪れるころにそれぞれの旅へと旅立つ。雨上がりの朝、渓谷へ行くと、雨に打たれて落ちた葉が、水面を彩ったり、岩に化粧をしたりと最後の花を咲かせるのである。そんな晩秋の装いに出合うべく、天城に流れる本谷川の上流へと向かった。渓谷に道はなく岩を渡ったり山肌を迂回したりしながら登って行くのだが、これがまた大変なのである。しばらくすると、大きな岩が流れの中に現れた。岩肌に
2020年6月16日 22:05
八丁池口までバスで行き、秋の探索に出た。晴天で雲もほとんどなく、絶好の登山日和。辺りには、キラキラと輝く黄色いブナの葉が、空を仰ぎ、誇らしげに立っている。事、写真を撮るとなると、光の強さは、コントラストが強くなってしまい頭を悩ませる。写真家という立場上、「ハイ撮れました」では放棄したようなものだと常に思っているが、こんな時こそ、自然に委ねて出会いを楽しみ、撮影は二の次にしている。相変わらず木々
2022年7月7日 13:13
夏も間近なこの時季から、大量の虫が天城を占拠する。道を歩く先すべてが虫で覆われていると考えれば想像もしやすいかもしれない。そんな理由で、夏の季節は虫に天城を譲り、今回からしばらく、順不同にエピソードを優先して掲載していきたい。初めて天城をテーマにしようとした時、正直なにを思い撮影をしなければいけないのか私は全く分からなかった。目の前に現れるブナにはいつも圧倒され、そんな中、俗にいう綺麗な写真やすご
2022年7月7日 12:57
登山道へ着いた時、ライトに照らされた先は、1mも見えない程に濃い霧で包まれていた。一瞬、ちょっと危ないかな?と頭をよぎるが、目的地へ夜明け前に到着するには今出るしかない。そして、次の呼吸をしたらもう一歩足が進んでいた。すでに私の頭の中は、この霧の中で出会える情景で埋め尽くされていたからだ。これだけ濃い霧は珍しく、足元だけを見つめ、頭の中の地図と重ね合わせては一歩一歩進む。道半ば足を止めては霧に浮か
2022年7月7日 13:04
森に流れる時間は、ゆっくりと過ぎてゆき、その時間に合わせて歩くと心がリセットされる。耳を澄ませば、小さな風に揺れる葉っぱの音さえ体に染みわたり、目を閉じれば、驚くほどの音が自分の周りを包んでいるのだと気付き、そんな時を過ごせば体から生きる力が溢れ出してくる。しかし、そんな幸せな時間は、もしかしたら直ぐ目の前で止まってしまうのかもしれない・・・。それはこの自然環境の変化が、じわりじわりと姿を確実に現
2020年6月29日 20:09
天城の森というと霧に包まれた情景がイメージとしてある。実際は、霧の情景に出合うのは難しい。だからこそ、霧に包まれた天城に出合うと心から憂う気持ちで一杯になってしまう。経験を積むとある程度は天気で予測できるが、自然はなかなかそうはいかず、与えられた条件を受け入れるしかない。特に自然風景を撮影する者は、”受け入れる”という向き合い方が大事な要素で、この向き合い方は、写真だけでなく日常でも大きな力に
2020年6月27日 11:24
森に流れる四季の時間は、沢山の顔を持っている。その中でも秋という季節は、なぜか私達を魅了する。この日は、お昼過ぎにバスで八丁池へ向かい、日が暮れる森を撮影する予定で訪れた。夜半から入山するのも怖いが、精神的には山で夜を迎える方が怖い。やはり夜明けが目の前にあるのと、長い夜がこれから始まるのとでは、大きな違いがあるのだろう。それでも出会える情景の魅力が大きくて何時も、足が向かってしまう。八丁池へ
2020年6月23日 20:19
今の天城山は、たった5年位でも目に見えて森が変わっていく様がわかる。それくらい急速に環境が変わりつつあるのかもしれない。今回の写真は、今の天城を切実に表した1枚ではないかと思う。環境の変化に、例外なく天城の森も影響を受け、ある地域では馬酔木の勢いが森を呑み込み、形相が大分変ってきた。まさにブナ対馬酔木の陣取合戦だ。この日、ある急斜面を渡り反対側の稜線へと登ると、ブナの林が見渡す限り広がっている
2020年6月21日 20:58
この日も、雨化粧の紅葉と出会いたく、何時もの様に、夜の明ける前から歩を進めていた。葉が色づく頃に毎回天候が上手く合うわけではなく、天気の様子をうかがっていればあっという間に山の紅葉も終わってしまう。もちろん大雨に打たれるのは覚悟の上だ。目的地に近づく頃、森の中に”パチンパチン”と音が響き始めた。この音が鳴り始めるとそれは雨が降ってきた証拠。普通は雨が降ってきたと落胆するのだろうが、私はなぜかこ
2020年6月19日 22:28
ある日、八丁池からの帰り道に、目を疑うような倒木に出会った。その倒木は、つい3日前まで、大地に根を張り生きていたブナである。私は大きな衝撃を受け、その倒木の前でどれだけの時間、立ち尽くしていただろうか?目に飛び込んで来た時、ドクンと大きく鳴った鼓動の音を今でも覚えている。私は、そんな出会いがあった事をつい忘れていた。先日、4年ぶりにそのルートを夜明け前に歩いていると、森は霧に包まれ、ライトに照
2020年6月14日 20:31
伊豆天城山に住むブナ達は、訪れる者達を魅了する。何か宿った様なその姿が、出会った者の心の中で、それぞれの想いへと、姿を変えるからなのかもしれない。それほどに、天城という森は、沢山の情念が渦巻く場所なのだ。そして一筋の霧が森を流れる瞬、ブナ達は、精霊の魔法に支配される。瞬くまに、辺りから声が響き、木々は動き出し、そして私は魔法の国へと誘われるのである。何時もの様に、夜も明けぬ森を歩いていると、目