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「天城山からの手紙」8話


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森に流れる四季の時間は、沢山の顔を持っている。その中でも秋という季節は、なぜか私達を魅了する。この日は、お昼過ぎにバスで八丁池へ向かい、日が暮れる森を撮影する予定で訪れた。夜半から入山するのも怖いが、精神的には山で夜を迎える方が怖い。やはり夜明けが目の前にあるのと、長い夜がこれから始まるのとでは、大きな違いがあるのだろう。それでも出会える情景の魅力が大きくて何時も、足が向かってしまう。八丁池へ着くと、丁度いい頃の紅葉が出迎えてくれたのだが、温暖な伊豆は葉が染まり切らない。それでも最高の条件で目の前にある情景を撮影したくて、ここから我慢比べが始まった。2時間も待っていると、次第に太陽が木々を染め始め、その光が当たる山肌は、黄金色のドレスを纏う者で埋め付くされていく。歓喜の瞬が流れる中、影の中には取り残された者達が、羨む視線を私に送ってきた。「大丈夫、君がドレスを纏うまで待つよ」と呟いたが、とうとう光が当たる事はなかった。悲しきかな、光の者と影の者、生まれた時から背負う運命だったのだ。

2020年8月下旬 天城山写真集「深淵の森」発売予定

掲載写真 題名:「特別な時間」
撮影地:八丁池
カメラ:Canon EOS5Dmark4 EF70-200mmF2.8 IS Ⅱ
撮影データ:焦点距離110mm F18 SS 1/6sec ISO400 WB太陽光 モードAV
日付:2017年11月1日AM15:30

伊豆新聞連載 天城山からの手紙8話 2018年11月24日掲載

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