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天城山からの手紙

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伊豆新聞で2018年10月より連載スタートした、天城山からの手紙-自然が教えてくれたことのアーカイブ記事になります。加筆訂正をし、紙面では正確に見れなかった写真も掲載。
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#撮影

「天城山からの手紙 58話」

「天城山からの手紙 58話」

前日の天気予報を見ていると、翌日には大雨と強い風がやってくるらしい。夕飯時もずっと携帯とにらめっこで上の空。妻が一声”行ってらっしゃいと、天の声を授かり、明日の出会える情景で一気に心は埋まった。先週に行った滑沢渓谷では、紅葉がまっさかり!きっと大雨に打たれ、赤いもみじ達が岩肌に落ち化粧をしているだろう・・と想像を膨らます。毎年、この時期に狙っている情景なのだが、なかなかきれいな紅葉の時に、この天候

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「天城山からの手紙 57話」

「天城山からの手紙 57話」

1歩、2歩、3歩・・・と目の前の石を渡り、神様が飛んで現れるような気がした。水面ギリギリにしゃがみ込み冷たい渓流の中でカメラを構えると、滝の前方に黄金色の光が差し込み、まさにその瞬間がやってくると期待させる。大体11月下旬~1月下旬にかけて滑沢渓谷のこの場所は。正面から太陽が昇り、よくいう”光芒”という現象が起きる。ただ、そう簡単には見ることは出来ず、どんな時に出るのかも想像がつかない。霧が立ち込

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「天城山からの手紙 55話」

「天城山からの手紙 55話」

天城の秋も、あっという間に紅を咲かせては過ぎ去っていく。山は、11月の下旬になるころにはもう冬支度が始まるが、ちょうどその頃、伊豆の各所で紅葉が始まり、その雰囲気のまま山を訪れると、なぜだかとてもさみしくなってしまう。この日、天城の秋を見納めに訪れた。ちょうど、お月さんが沈むころに歩き始め、森はヘッドライトがいらない位に明るかった。そして、真っ赤になりながら沈むお月さんと交代するかのように、真っ赤

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「天城山からの手紙 49話」

「天城山からの手紙 49話」

この日、前日に見つけた”ツキヨタケ”を撮影したく夜の森を訪れた。ツキヨタケはブナなどの立ち枯れに寄生するキノコなのだが、名前から想像できる様に、夜になると蛍光色を放ち、闇夜に浮かび上がる面白い特性を持つ。例年9月中旬~10月中旬に天城で確認でき、毎年歩けばその辺に生えているのだが、今年、いざ撮影したいとなると全く見つからず、森のいたずらに遊ばれていた。やっとの思いで撮影できそうな立ち枯れを見つけた

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「天城山からの手紙 45話」

「天城山からの手紙 45話」

夜明けの蒼い時間が訪れる頃、薄っすらと霧が森を包んでいるのがわかった。久しぶりに歩くこの道は懐かしく、しかもまだ立ち入ったことの無い場所へと行くのだ。私は撮影の時、少し歩けば振り返り景色を確かめる。真っすぐ進めば、いくらでも早く目的地へ到着できるのだが、景色は面白いもので、行きと帰りでは全く見える物が違う。だからその都度、振り向き確かめ、その時の出合いを逃さない様にしている。そして、初めて歩く場所

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「天城山からの手紙 39話」

「天城山からの手紙 39話」

天城の森は思っているよりもずっと暗い。我先にと頭上へ手を伸ばし、その手の先に付けた沢山の葉を、空一杯に広げ太陽の光を皆が貪るからだ。長い年月、その競争をした森の天空は、パズルが完成したかのように隙間が無い。特に馬酔木の森は、晴天でも薄暗く、所せましと千の手が行く手をふさぐ。容姿形も似ていて、一度足を踏み入れると、まるで迷宮に迷い込んだように方向を失ってしまうのだ。もう何回も天城の森へ通っているが、

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「天城山からの手紙 38話」

「天城山からの手紙 38話」

この日、じっくりと天気予報を確認し出発した。登山口へ到着すると思っていたほどの雨ではなく、このまま予報通りに行けば最高の朝を迎えられるだろう。登山道から外れ、真っ暗な馬酔木の森をかき分けながら向かいの稜線へと向かったのは、ブナが静かにと住む秘境だ。同行者も以前迷子になったらしいが、やはり少し迷子になりながら、迫る朝に足をせかされ何とか目的地へ到着した。すぐさま撮影の準備をして、後は、雨がやみ雲が晴

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「天城山からの手紙」34話

「天城山からの手紙」34話

登山道へ着いた時、ライトに照らされた先は、1mも見えない程に濃い霧で包まれていた。一瞬、ちょっと危ないかな?と頭をよぎるが、目的地へ夜明け前に到着するには今出るしかない。そして、次の呼吸をしたらもう一歩足が進んでいた。すでに私の頭の中は、この霧の中で出会える情景で埋め尽くされていたからだ。これだけ濃い霧は珍しく、足元だけを見つめ、頭の中の地図と重ね合わせては一歩一歩進む。道半ば足を止めては霧に浮か

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