【読書録29】自己マスタリー メンタル・モデル「己は何者か」~ピーター・M・センゲ「学習する組織」を読んで③~
今回は、第Ⅲ部 核となるディシプリンー「学習する組織」の構築の前半である。
「ディシプリン」とは?
「ディシプリン」と言う言葉。つかみにくいが、本書の最後の最後、付録➀で出てくる、「意識的な一貫性ある取り組み」という訳で考えるとすっと理解できた。
単なる「取り組み」ではなく、「意識的」かつ「一貫性ある」という言葉がアクセントを加わる。
自己マスタリー
自己マスタリーとは、人生において自分が本当に求めている結果を生み出すために、自身の能力と意識を絶えず伸ばし続けること。
マスタリーと言うと一見、難しく考えてしまうが、内容を理解すると、私に取って大事にしたい考え方である。マスタリーとは、熟達と言う意味。「自分という存在の達人になろう」という風に考えるとわかりやすいか。
その為に必要な原則と実践は、以下のようなことである。
(1) 個人ビジョン
まず出発点は、自分が本当に何をやりたいかから始まる。それを本書では、「ビジョン」と呼ぶ。ビジョンは、目的とは異なる。根底の目的意識や使命感が伴うものである。
そしてそれは、内発的なものであり、他人と比べる相対的なものではないという。
ビジョンは、達成されて終わりではなく、その後、人をさらに先へ引っ張り、新しいビジョンを描かせるものであるという。そのためには、根底の目的意識が必要なのだという。
学習には、終わりがなく、どこかに到達することがない旅なのである。
(2) 創造的緊張を維持する
自分が本当に目指したいこと(ビジョン)を明確にしたときには、現実との間でギャップが生じる。
そのギャップを目の前にしたときに、非現実な話で、やる気が失せたり、絶望的な気分になったりする。それを「感情的緊張」とよぶ。
感情的な緊張に絶えられなくなると、「目標のなし崩し」が起こりやすいという。組織の中でこのループは、本当に起こりやすいと思う。
一方で、ビジョンに現実を近づけようとする力も働く。その力こそ創造のエネルギーであり、「創造的緊張」とよび、変化を生むエネルギーとなる。この「創造的緊張」を強め、維持することが自己マスタリーの中心的な原則である。
本書では、それをビジョンと現実の間のゴムバンドの例で説明するが、わかりやすい。
本当に心の底から自分が目指したいものを明確にしそれを目指せば、「創造的緊張」の力は強くなる。
また一方で、現実を正確に把握することも自己マスタリーでは、重要で不可欠である。現実を正確に把握することで何をなすべきかを決めることが可能になる。
本書では、こう言う。
(3)「構造的対立」に対処する
また、心から望むものを創造する能力を制限する否定的な信条には、「自分は無力である」「自分には価値がない」という2種類がある。それらの信条とビジョンの間にも対立が起こる。それを本書では「構造的対立」と呼んでいる。
「構造的対立」に対処する方法としてよくあるのが、以下の3つであるがいずれも対処療法で限界があるという。
では、構造的対立に根本的に対処するにはどうするか?
本書では2つ対処法を挙げる。
➀真実に忠実であれ
「構造そのものを現実として受け容れる事」であるという。なかなか難しいが、構造的対立が作用している時に、その構造的対立とその結果生じている行動を認識することであるという。
私の場合、構造的対立が生じた時には、ビジョンをあきらめたりすることが多い。また本書で例示される著者のケースも大いに当てはまるなあと共感した。
なかなか自分のこのような心境に至ることはできないが、共感できるパートである。
➁潜在意識を活かす
自己マスタリーの実践には、頭の中にあるもう一つの領域である潜在意識と通常の意識の領域との間の疎通性を高度に発展させることが必要であるという。
その為に「瞑想」が有効であるという。正直あまりピンと来なかったが、以下の点がポイントなのかなと思った。
自己マスタリーの熟達者
自己マスタリーに熟達するポイントは、以下の2つである。
イメージとして出てきたのが、サッカーのカズこと三浦知良選手。
50才を超えても現役を続ける。徐々に衰えてくる体力という現実。その中で、自分にとって何か大切かを見据えて現役を続ける。Jリーグ発足当初の人気絶頂のころと比べ、人格も磨かれているように感じる。
私含めた、中高年のキャリアでも自己マスタリーはとても大切であろう。現実を当受け容れてその中で自分がやりたいこと、使命や目的意識をもって何をビジョンとして掲げるか。
メンタル・モデル
メンタル・モデルとは?
メンタル・モデルとは、私たちがどのように状況を解釈し、行動をとるかをきめる前提である。
この章を読んだ時に浮かんだ言葉がある。塩野七生「ローマ人の物語」で引用されているユリウス・カエサルの言葉である。
本書では、メンタル・モデルに学習を妨げる害があるとしてこのように言う。
一方で、学習を加速させる力があるとして一例として、シェルの「シナリオプランニング」を挙げる。
シナリオ・プランニングとは、未来像を文書にして提供することではなく、意思決定の中枢に要る人のメンタル・イメージ、彼らが現実をどうとらえているかを動かさない限り、効果が無いという。
そして、学習する組織では、従来型の権威主義的な組織における「階層制という基礎疾患」を克服することの重要性を説く。
メンタル・モデル、これに対処すると言うのはなかなか難しいであろう。大きく分けて、以下の2つのスキル領域を伸ばすことがポイントであるという。
(1) 振り返りのスキル
考えるプロセスのスピードを緩めて、自分がメンタル・モデルをどう形づくる のか、それが行動にどう影響するかをできるだけはっきり意識する。
関連する事として、面白かったのが、振り返りの基本スキルとして挙げられている、信奉理論(口で言っていること)と使用理論(実際の行動)との乖離を捉えることである。
使用理論に気づく事は本当に難しい。内省、周囲に指摘してくれる人は本当に大事である。
その他、抽象化による飛躍や左側の台詞なども、意識したことは無かったが、指摘されると確かにその通りと考えさせられる。
人間が如何に、フィルターや思い込み、感情によって左右されている認知や判断がゆがめられているかと言うのは大事なポイントである。
(2) 探究のスキル
複雑で対立のある問題に対処する際、他者との面と向かった話し合いでどう振る舞うかに関わる
ここで面白かったのは、「探究と主張のバランスを取る」と言うところ。探究ばかりでは学習できない。自分自身の意見を隠すことは学習を避けることでもある。探究と主張を融合することで、「最善の議論を見出すこと」ができる言うのはなるほどである。ただ、このバランスを取るのは難しい。著者は一生の取り組みであるという。
自身のメンタル・モデルに自覚的になる。なかなかできることではないが、内省(振り返り)と探究によるのが一番の道なのであろう。
システム思考を身につける事でメンタル・モデルもアップデートさせるのも有益であろう。
「システム思考」に加え、これら2つがディシプリンに加わっているのは、納得感高い。自分がどうあるか(自己マスタリー)。また。自分自身の物事に対する捉え方に自覚的になること(メンタル・モデル)。それが無いと「システム思考」を身に着けても有効な武器にならない。
次回は、残り2つのディシプリンに移りたいと思う。