「シャイニング」を男の病として心理学的に鑑賞する
男を追い詰めたのは
社会のあり方だったのではないだろうか?
こんにちは!臨床心理士/公認心理師/精神保健福祉士/臨床発達心理士のまりぃです。
まだ若輩心理職で、【公認心理師試験・臨床心理士試験対策/心理学部生専用オンライン個別指導塾】や,【公認心理師・他専門職のための心理査定/カウンセリングはじめの一歩講座】,SNS発信/起業のお手伝い(伊藤まり名義)もやっています。
思いが高ぶって働き方・生き方の本まで書きました。読んでください。
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知人に勧められて,「ツイン・ピークス」という海外ドラマを見始めました。
「イレイザーヘッド」など統合失調症的な世界観の映像作品で知られ「カルト映画の帝王」など呼ばれるデヴィッド・リンチ作品です。
ドラマは流石に地上波で流れていたものなので,そこまで支離滅裂ではないですが,推理ドラマだと思って見始めたらずいぶんとユンギアンの世界観で面白くなってきました。
そして知人が「ツイン・ピークス」は「シャイニング」の影響を受けている,と言うので,映画「シャイニング」も見ました。
ホラー(かスリラー)作品だと思っていた
さて,皆さんは「シャイニング」をご覧になったことはありますか?
私は映画のあらすじ紹介のような,短い動画を見たことがある程度でした。
見たことがない皆さんは,多分「山奥のホテルで,双子の女の子が手を繋いでこちらを見ている」映像とか,あと「男が斧を持って追いかけてくる」映像などをイメージされると思います。
ですから,私も当然ホラーだと思っていましたし,それゆえ今まで見たことがありませんでした。
しかし,です。
実は,男が斧を持って追いかけてくる怖いところは,最後の30分だけ。
そこに至るまでは,男が徐々に狂っていく様子を描いていました。
男が狂気に至るまで
ちなみに,「シャイニング」の原作は,スティーブン・キングです。
私はスティーブン・キングの小説だと「呪われた街」が怖くて好きです。
(小野不由美さんの「屍鬼」はこの「呪われた街」を原案にしているそうです。「屍鬼」はアニメにもなりましたね)
ホラーに定評のある作家さんによる原作ですから,当然原作はホラーで,主人公の男が凶暴化する理由は,はっきりと呪いとして描かれています。
また,主人公の息子始め超能力者も登場します。
しかし,有名な話ですが,この原作を映画化するにあたり,監督のスタンリー・キューブリックは改変を行なっています。そのためキューブリックとキングは物凄く揉めたそうです(映画の中で,キングの愛車と同じ車が「死ぬレベルの事故」で燃えています。そんな仕返しの仕方,ありますか?笑)
ここで少し映画版「シャイニング」のあらすじを紹介します。
あらすじ
執筆作業にやや煮詰まり気味の作家,ジャック。
妻と子どもと3人で,冬の間閉鎖されるホテルの管理人を引き受ける。
3人以外は誰もいないはずのホテルの中で,
幼い息子は双子の少女に話しかけられる。
「あそびましょ」
ジャックもまた,他に誰もいないはずのホテルで,裸の美女を見たり,ホテルで開催されている1920年代風パーティに参加してお酒を楽しむ。
誰もいないはずなのに。
そしてついに,原稿を勝手に見た妻に憤ったジャックは,斧を片手に妻子を追い回す。
なぜ男は狂気に陥ったのか?
ホラーとして考える
いかがでしょうか?
もろもろ割愛しましたが,原作通りホラーとしてこの物語を読むなら,男が狂気に陥った理由は呪いで,何かに取り憑かれて凶暴になったと言えます。
実は映画でも,このホテルはネイティブアメリカンの墓地の上に建てられている,ということが語られています。
つまり,原住民を軽んじた白人が,墓地を蹂躙するようにリゾート地を作ったため,呪われている,といったところでしょう。
実際,映画中でも何度も,ネイティブアメリカンを連想させる調度品などが映し出されていました。
心理学的に考える
しかし,私はそれだけではないような気がしてなりません。
理由は,物語の冒頭に遡ります。
息子のイマジナリーフレンドは,超能力なのか,神経症なのか
主人公の息子は,映画中では超能力者(シャイニングと呼ばれる)として描かれ,指を立てて別人格の霊的なものが話すときは,声が変わり,予言もします。
しかし,これを子どもの神経症状として受け取ると,どうでしょう?
この家庭には病を起こさせる何かがあるということになります。
実際,ホテルに着いて最初に幽霊を見るのもこの子です。
それは,超能力なのか,なんらかの症状を呈しているのでしょうか?
父の病
作家である父は,創作活動に煮詰まっています。
家族を養うため,山奥のいわく付きのホテルの管理人になります。
ホテルで小説を書こうとしてもなかなか書けず,彼の仕事ぶりを心配し,食事の差し入れをしようとする妻を「邪魔するな」と怒鳴りつけます。
ここに「強い男」の病が隠されています。
男が,家族を養わなくてはならない。
男が,女に心配されるなんてプライドが許さない。
もしかすると,ホテルに来る以前から,「書けない」「稼げない」プレッシャーの中で妻子を養っていた男は,神経病水準にいたのかもしれません。
そのことが,息子の神経症状の原因だったのかもしれません。
そして,そんな男が,雪山のホテルで,「養う対象」である妻子だけと生活し,「執筆する」という稼ぐ行為に集中する中で,徐々に精神病水準まで病んでいったとしてもおかしくはないでしょう。
男の病
そして,物語の途中,幼い息子が,誰かに首を絞められ,ボロボロの姿で現れます。
理由を聞くと,息子は,空室のはずの部屋で女性に首を絞められたと言いました。
彼はその部屋を見にいき,全裸の女性を見ますが,なぜかここで彼はエロティックに興奮します。
……怖くないですか?普通。
いるはずのない人がいたら,どんなに美女でも,全裸でも,怖いと思うんです。
ところが彼はいとも簡単に興奮する。
これは彼が「どうしようもなく,男である」ことを象徴する場面として描かれているのではないかと考えました。
強い男性性の暴走としての発病
その後,首を絞められた息子を心配する妻は,子供を病院に行かせるために下山したいと言います。
雪山に閉ざされたホテルを数ヶ月間管理するのが仕事ですから,もちろん仕事を途中放棄することにはなりますが,おそらく観客の多くは妻に同意するはずです。
しかし主人公は「仕事を放棄しろというのか!」「そうやって女は無責任なことを言う」「どんな思いで自分がお前たちを養っていると思っているんだ」と怒ります。(うろ覚えですがそんな主旨のことです)
そして,男は,斧を持って妻と子どもを殺そうとします。
もし,彼がすでに発病していたとしたら,息子の首を絞めたのも,彼だったのかもしれません。そんな恐ろしい真実を母に告げることができない息子が「知らない人に首を絞められた」と嘘をつくことは,現実によくあります。
「悪いもの」はどこからくる?
養わねばならない妻子がいなければ,彼は男性性をこんなに背負う必要もなく,自由でした。
そう考えると,彼が妻子を殺そうとするのは,彼が背負いすぎた社会に求められる男性性への反動,その原因となるものを排除しようとする動きとも言えるのではないでしょうか。
このように,仕事を家庭より優先する男が「善」であった時代は確かにありました。そんな時代に,情緒的に子供だけでなく夫や家族の,安全や健康を優先しようとする女たちは「感情的」とか「ヒステリー」などと罵られていましたね。
彼の男性性の暴走は,まさにそんな時代を象徴するようでもあり,それこそが,彼が発病した理由とも受け取れる描写だったと思います。
他にも,ところどころ,「男はこうあらねば」「女は従え」といった主旨のセリフや動きが見受けられます。
「シャイニング」と「ツイン・ピークス」への不満
しかし,です。
この物語も,そして冒頭に紹介した「ツイン・ピークス」もそうなんですが,男性性の暴走,病の物語とも受け取れるものを,「悪いもの」が原因であると言う描き方をしています。
悪いもの,と言うのはつまり,シャイニングでいえばホテルに取り憑いている怨霊とかそういったものですし,「ツイン・ピークス」の方も「悪」のような精霊が男に取り憑いて,事件(性犯罪を含む)を起こすと言う物語なんですね。
もちろん,映画やドラマといったエンターテイメントに仕立てる際に,悪霊とか悪魔とかが出てくるのは普通のことなんですが,はて,こう描かれてしまうと(男性の監督たちによる)「妻子に暴力を振るうのは怨霊のせい」とか「性犯罪が起こるのは悪霊のせい」とかいった言い訳にも見えてしまうのが,一つ残念な点です。
……あるいは,スタンリー・キューブリックもデヴィット・リンチも「良い人」過ぎて「悪霊の仕業でもなければ,妻子にこんな酷いことをするわけがない」と思っているのかもしれません。
私は,カウンセラーとして公的なお仕事もしているのですが,やっぱり虐待事案があれば通報します。理由が病であるならば治療も受けていただきたいと思います。
決して,悪霊のせい,妖怪のせい,悪魔のせいと言い訳にしてはなりません。
悪いものは,自分の内側からくることを,私たちは自覚しなくては。
しかし,シャイニングの主人公を追い詰めたのは,社会が求めた「強い男性像」であったことも忘れずにいたいと思います。
悪いものを発生させるのは,社会であると言うことも理解して,社会の仕組みの方を変える努力もしていきましょう。
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