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「第一芸人文芸部 創刊準備号」を読んで|読書感想文

まずは結論から


めちゃくちゃ面白かった。

例えて言うなら、この作品はハーゲンダッツのアイスのギフトセットをいただいた気分と似ています。

想像してみてください。あなたは知り合いからハーゲンダッツアイスの詰め合わせをいただきました。

箱を開けてみるとクッキー&クリームだけでも嬉しいのに
グリーンティ、ストロベリー味も入っている。
ひとつで終わりじゃない幸福感

この第一芸人文芸部 創刊準備号もおなじ喜びがありました。
1ページ目から最後のページまで作品ごとの美味しさが詰まっています。しっかり味わうことのできる作品です。


第一芸人文芸部とは


吉本の芸人ファビアンさんとピストジャムさんお二人で創作予定だった文芸誌。そのお二人の計画を聞いた又吉さんが自ら参加することになって第一芸人文芸部が誕生しました。

編集長を務める又吉直樹さん、ピストジャムさん、ファビアンさんの3人で創刊準備号が誕生しました。

2024年5月創刊準備2号が発売され、さらに部員が4人増えました。

作品の目次と感想


又吉直樹|自由律俳句と散文

自由律俳句が10個、その俳句のタイトルにちなんだ散文合わせて9作品で構成されています。

ところで”自由律俳句”はどんなものか知っていますか?
恥ずかしながら、私は知りませんでした。

自由律俳句というのは5・7・5の17音や季語にとらわれることなく感じたまま自由に表現する俳句だそうです。

⚫️自由律俳句の考え
自由律俳句は、その一行が俳句かどうかより、その一行に、自己が出ているかどうかというほうが先です

自由律俳句協会のサイトから引用

特に印象に残った作品

"銀紙を噛んだ余韻のような夜"という作品です。

自分が感じたことを言語化するのに悩みませんか?又吉さんはまさにその気持ちを散文に表現しています。

noteで文章を書いているあなたなら分かるはずです。
どうやって伝えたらいいのだろう、
うう…うまく言語化できないよ、
そのように考えたことはないですか?

言語化できないどうしようもない感覚をどのように
喩えたらいいだろうと悩むことがある。

切り過ぎてしまった前髪を取り戻せない夜。
空港でパスポートを忘れたことに気づいたような夜。
(中略)
カレーうどんの汁を白い服に飛ばしてしまったような夜。
新幹線で空いてる席がたくさんあるのに隣に知らない人が座っているような夜。

又吉直樹 銀紙を噛んだ余韻のような夜から引用

人の感情を読み取ることさえ、難しいのに自分の感情を言語化するのはもっと歯がゆいかもしれない。そんな気持ちを淡いピンクの薄紙で優しく包んでくれる又吉さんの散文でした。


ピストジャム|書評

ピストジャムさんは本作品で10冊の本の書評を書いています。

読書感想文を書く私はピストジャムさんの書評をとおして
自分には語彙力、表現力がもっともっと必要だと感じました。

書評でポイントとなる本のあらすじを含め自分の視点をしっかりと書かれおり、さらに読者が本を読みたくなる気持ちを起こさせる絶妙な文章です。

彼が紹介する10冊の本の画像をみると付箋がたくさん挟まれていることに目がいきます。
あなたは本に付箋を貼りますか?
ピストジャムさんは太めのふせん派のようです。私は細めふせん派です。あなたはどちら派?

ピストジャムさんのノルウェイの森の付箋はぎっしぎっしの盛りだくさん。感情が湧きおこる美しい文体がたくさんあったのですね。

第一芸人文芸部 創刊準備号から

特に印象に残った書評

ノルウェイの森をもう一度読み直したいと強く思いました。

この表現がすごいなと感じた一節です。

絵の具の色を全部混ぜると黒になる。
さまざまな思いが去来し、真っ黒になった心。
その心は、いったい何色と何色が混ざり合ってそうなったのか。説明するには、どうしても時間がかかる。

ピストジャム|ノルウェイの森の書評から引用

又吉直樹著『人間』の書評もあり。
私も『人間』の読書感想文を書きましたが、ピストジャムさんの書評と比べてみると、自分の感想文は味のない林檎みたいだなと思いました。


ファビアン|ショートショート

5つの短編で構成されています。ショートショートの面白みは最後のどんでん返し。読者が予想もしない結末であればあるほど読んでいて楽しいものです。

ファビアンさんの作品もまさにそれ。最後の結末が全く読めません。

こうなるんだろうなと読みすすめていくけれど、全然違う結末が用意されています。

まっすぐな線路にそって規則正しくガタンゴトンと揺れる電車がいきなり90度にガクンと方向転換するような感じです。

特に印象に残ったショートショート

印象に残った作品は2点あります。あらすじを書いてしまうと楽しみが減るので、あえて書きません。

タイトル|村の遺酒屋
読んだ直後に鳥肌が立ちました。鳥肌たった自分にもびっくりです。

・タイトル|ハンドメイド・ウェディング
5点のうち、いちばん長い作品。
涙がでました。きっと泣かせる目的で書かれた作品ではないと思う。けれど予想を遥かに超えた結末でした。映画化されても良い作品です。



面白いことを書きたい者はひとり残らずみんな芸人

又吉さんが書かれた編集後記も心に残る言葉が綴られていました。

(中略)
面白いことを書きたい者はひとり残らずみんな芸人
苦悩、焦燥、憎悪、憐憫れんびん​、怨恨、嫉妬、悔恨、愛憎……。
言語化できないような感情を表現したい者も一人残らず芸人。
暗い感情だけではない。
心が弾むような詩を紡ぐ者も一人残らず芸人。
(中略)
感傷が生み出す爆発力、繊細さが導き出す破壊力、
優しさがもたらす激情……。
これらを信じて創作に励み、今度も鑑賞を続けたい。

つまり、noterのあなたも私も芸人です。これからも言葉を繋げて想いを伝えていきたいですね。

おわり

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