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新幹線に乗って

18時8分発、JR東海道新幹線のぞみ248号、東京行。

12番線はいつもと同じ人混みで、いつもと同じシナモンの香りがする。

電車は電光石火のように素早くやってきて、1分も経たないうちにわたしたちを乗せて走り出す。

最後に京都タワーを拝む暇もなく、気がつけば岐阜羽島を過ぎている。

車内は結局静かで、世界はわたしを置いていく。

それとも、置いていったのはわたしかな。後悔かな、諦めかな。

速すぎる鉄の塊に乗っていると、わたしも速くなったように感じる。

通路側に電源はなくて、窓側に電源がある。通路側はトイレに行きやすい。窓側からトイレに行くのは、なんとなく気まずい。

おしりが浮くような感じがするから、用がなくても親からもらった足でしっかり地面を踏む。

順番待ちをする喫煙室。変な音がする自動ドアは、開くのも閉まるのも、ちょっとだけ遅い。

小窓からは何も見えない。山の中はいつもこんなに暗いんだ。

時折、見えるのは、少し田舎には似合わない、ファミリマートのビビッドな看板だけ。

喫煙室を出ると、そこはもう名古屋駅。

そうか、ここは名古屋駅だな。一回しか行ったことのないその大都市には、そこまで思い入れもない。だからかな、名古屋。

速すぎる鉄の塊に乗っていると、わたしも速くなったように感じる。

もっと速くなる。風なんか敵じゃない。あいつもあいつもあいつらも、敵じゃない。

どんどん進め。不穏なモーター音だけが聞こえる車内。次の駅は遠い。でも近い。

次に京都に会えるのはいつになるかな。もう少しあの匂いを感じていたいな。まだ香りは残っているかもしれない。

でも、京都の香りなんて残っていなかった。シュウマイの香りに全部潰されていた。

抹茶の香りなんて残っていなかった。そこはもう、新横浜駅だった。

何に乗っていたんだろう。わたしはさっきまで、京都にいたのに。

京都は確かにそこにいた。たしかにわたしはさっき、12番線に立っていた。

なのにわたしは、もう横浜線に乗っている。あんなに離れたところにいたのに。

京都を思う暇はない。京都タワーも見ていない。あの日の5番バスは混んでいた。

それしか思い出せない。 

思い出した。わたしは、京都を置いてきたんだ。

あの速すぎる、新幹線に乗って。


2020年1月13日
オチのないショートショート.




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原田 透
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