
実の家庭に恵まれなかった人たちが、赤ちゃんを通じて疑似的な家庭に心地よさを覚えていく優しい映画だった『ベイビー・ブローカー』
【個人的な満足度】
2022年日本公開映画で面白かった順位:53/95
ストーリー:★★★☆☆
キャラクター:★★★★☆
映像:★★★☆☆
音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★☆☆
【作品情報】
原題:Broker
製作年:2022年
製作国:韓国
配給:ギャガ
上映時間:130分
ジャンル:ヒューマンドラマ、ロードムービー
元ネタなど:なし
【あらすじ】
古びたクリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョン(ソン・ガンホ)と、〈赤ちゃんポスト〉がある施設で働く児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)。
ある土砂降りの雨の晩、彼らは若い女ソヨン(イ・ジウン)が〈赤ちゃんポスト〉に預けた赤ん坊をこっそりと連れ去る。彼らの裏稼業は、ベイビー・ブローカーだ。
しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンが、赤ん坊が居ないことに気づいて警察に通報しようとしたため、2人は仕方なく白状する。「赤ちゃんを大切に育ててくれる家族を見つけようとした」という言い訳にあきれるソヨンだが、成り行きから彼らと共に養父母探しの旅に出ることに。
一方、彼らを検挙するためずっと尾行していた刑事スジン(ぺ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)は、是が非でも現行犯で逮捕しようと静かに後を追っていくが…。
【感想】
あの是枝裕和監督が撮った韓国映画ってことで、今一番注目されている映画じゃないですかね。監督がドキュメンタリー出身っていうこともあってか、フィクションよりもノンフィクション寄りの印象を受ける見ごたえのある映画でした。
<赤ちゃんよりもまわりの大人たちに注目>
タイトルにもある通り、赤ちゃんにまつわる話ではあるんですが、本編を観て感じるのは、むしろ赤ちゃんとの関わり合いを通じて、「家庭や家族の在り方」について考えさせられる話だと思いました。というのも、赤ちゃんの買い手を探す旅をしている3人の大人って、みんな実の家庭に恵まれていないんですよ。家族に逃げられたサンヒョンに、自分も親に捨てられたドンス。そして、家出して売春をしていたソヨン。親と子という関係において、決して円満とは言い難い環境で育っています。
そんな彼らがソヨンの赤ちゃんを買ってくれる人を探すってんだから、なかなかいびつな関係性じゃないですか?普通なら、自分たちがそういう環境にいたから、せめて新しい命だけは幸せになれるところを探そうとか思いそうですけど、あくまでも商売ですからね。赤ちゃんなんて商品でしかありません。いかに高く売るか、頭の中にあるのはそれだけです(少なくとも最初は)。
でも、旅を続けるうちにだんだん変わってくるんですよ。本当に赤ちゃんを手放していいのか?今いっしょにいるこの人たちとの生活って意外と心地いいんじゃないか?実の家庭はうまくいかなかったけど、この疑似的な家庭は悪くないのではないか?その心の移り変わりは、オーソドックスではありますが面白いポイントだったと思います。
こういう家庭や家族にまつわる話って、是枝監督の過去作でもちょいちょい見かけますよね。血の繋がりのある家族だろうがそうじゃなかろうが、いっしょに同じ時を幸せに過ごしている単位こそが家族なんじゃないかって言っているようで。だから、この作品においても、赤ちゃんとの関わり合いも大事なんですが、その赤ちゃんを取り巻く大人たちの関係性にこそ目を向けて欲しいなと思います。
<よくも悪くも是枝監督らしい作風>
ノンフィクションっぽいリアリティのある雰囲気はいいと思うんですけど、好みが分かれるかもなと感じたのも事実です。韓国映画ってことで、感情をむき出しにしたドラスティックでドラマチックな内容を想像していると、物足りないと感じるかもしれません。これは監督が「誰も悪者にしない」という信条があるからか、物語の設定とは裏腹に、胸糞悪さのない優しい世界になっているからです。もちろん、それはそれでいいんですが、けっこうスローなテンポで進むので、個人的には世間での高評価に反してあんまり刺さりませんでした。
あと、監督の作風とは直接関係ないかもしれませんが、刑事2人の立ち位置がちょっとわかりづらいかなーって感じました。現行犯で逮捕しようとしているのはわかるんですが、それにしても泳がせすぎじゃないかって。"別の容疑"で任意同行できそうなものだったけどな。。。ずっと追いかけているだけだったので、もう少しアクション起こしてもよかった気も。刑事さん、特にぺ・ドゥナが演じたアン刑事の方は、ソヨンに対して思うところがあったがゆえに、「何が何でも逮捕!」っていう気持ちにならなかったとも受け取れますが。
<そんなわけで>
赤ちゃんというよりも、家庭や家族というものについて考えさせられることの多い内容。タイトルや予告編から受ける印象とは違って、そこまで暗く重い雰囲気ではないのでご安心を。