三船敏郎の凄まじい演技に圧倒される日本版『マクベス』だった『蜘蛛巣城』
【個人的な満足度】
「午前十時の映画祭12」で面白かった順位:15/20
ストーリー:★★★★☆
キャラクター:★★★★☆
映像:★★★☆☆
音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★☆☆
【作品情報】
製作年:1957年
製作国:日本
配給:東宝
上映時間:110分
ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:戯曲『マクベス』(1606)
【あらすじ】
戦国時代。武将・鷲津武時(三船敏郎)と三木義明(千秋実)は謀反を鎮圧し、主君が待つ蜘蛛巣城へと馬を走らせていた。
雷鳴轟く中、「蜘蛛手の森」で道に迷った2人は、不気味な妖婆(浪花千栄子)に出くわす。妖婆は、「武時はやがて北の館の主に、そして蜘蛛巣城の城主になる。そして義明は一の砦の大将となり、やがて子が蜘蛛巣城の城主になる」と告げ、宙に消えた。
2人は一笑に付したが、予言はその後、ひとつずつ現実のものになっていく―。
【感想】
「午前十時の映画祭12」にて。1957年の日本映画。ウィリアム・シェイクスピアの『マクベス』を基に作られた作品です。『マクベス』自体は、舞台は拝見したことはありませんが、2015年に公開されたマイケル・ファスベンダー主演の映画を観たことがあります。レトリックの多いセリフでわかりづらいってのが当時の感想ですけど(笑)
<意外と精神が弱い主人公>
今回は日本版ってことで、細かな設定の違いはあるものの、大まかな流れはいっしょですね。予言に翻弄された主人公・鷲津の悲劇です。しかし、鷲津っていうのは屈強な武将だったはずなのに、意外と精神が脆いんですよ。だって、森で迷って出会った怪しさしかない老婆の予言にあたふたしちゃってますから。「うるせー、斬るぞババア!!」で終わりかと思いきや、いっしょにいた友人・三木のなだめもあって、一応は予言を受け入れます。しかも、これは本当にただの偶然なんですが、最初の予言が当たっちゃうんですよ。君主からの褒美が予言の内容と一致して。まあ、今の時代ならそれだけで鵜吞みにしちゃう人はあまりいないかと思いますが、科学的根拠がない戦国の世なら無理もないかもしれません。
<悲劇の元凶は鷲津の妻なんじゃないか>
とはいえ、鷲津も慎重な男です。予言が当たっても「俺は自分の身の丈に合った生活でいいから、これ以上は何も望まん」と言うんです。そこで終わっておけばよかったのに、彼の妻の浅茅(山田五十鈴)が煽るんですよ。「それでいいんかえ?」って。「男なら大志を抱け」だの「三木が大殿に告げ口して、邪魔になるあなたの首を取りに来るわ」だの。それも根拠のない話なんですけどね。ただ、それを聞いて鷲津も「ううむ、、、それなら……」と、大殿を殺害して自ら城主となり、友達の三木の命も奪うと。
浅茅はそこまで鷲津を煽る必要ありましたかね?まあ、勝ち上がった男の妻っていうのは聞こえはいいかもしれません。いい生活もできると思いますし。トロフィーワイフならぬ、トロフィーハズバンド的な意味合いもあったかもわかりません。もちろん、単に夫にもっとがんばってほしいという、愛する妻からの至極当然な願いという場合もありますけど。でも、戦国時代だったら有名になればなるほど命も狙われると思うので、リスクしかない気もしますけどね。。。
<注目したい役者の演技>
そんな鷲津を演じた三船敏郎と、浅茅を演じた山田五十鈴の演技は凄まじいものがありました。2人とも、今の自分とそう年齢は変わらないんですが、あの精神が錯乱したときの表情や動きは思わず見入ってしまうほど。ラスト、鷲津が無数の矢で射られるシーンは圧巻でしたね。あんな顔できませんよって。三船敏郎本人も死ぬかと思ったほどだそうで(笑)黒澤明監督もこだわりが強い人だったそうで、なんと馬の動きにまで注文をつけて何テイクも撮らせたらしいです。納得いくまで何回も撮影するのは、今のハリウッド方式に近いものがある気がします。
<そんなわけで>
"世界のクロサワ"、"世界のミフネ"を堪能できる映画でした。今から65年も前の映画なので、セリフが聞き取りづらい部分はありますが、オリジナル版の『マクベス』の大まかな流れを掴むにはいいと思いますよ。