マンション管理会社の愚痴を聞く
先日、僕が清掃員として働いているマンションの管理会社の人と話す機会があった。
僕もその管理会社の社員ではあるわけだけれども、普段は自宅とマンションを直行直帰なので顔を合わせることはない。
総戸数約230個のマンションで築50年は経過している。
この8月にこれまで50年任せてきた管理会社から今の会社に変更になった。
費用の問題で、とてもこれまでの会社ではやっていけなくなり、安く請け負ってくれるところを探したらしい。
そのために、僕も現場はそのままで転職という形になった。
なんだか、頭の上の方で風が吹いている感じ。
新しい会社の担当者はまだ30代の若い男性。
「この仕事はねえ」と彼は話し出した。
「社内はとてもホワイトなんです。全然、ブラックなところはなくて」
僕なんか、ブラックをホワイトだと言い聞かされて働いてきたから、羨ましい限りだ。
「でもねえ」と顔を顰める。
「会社はホワイトなんですが、現場がブラック過ぎるんですよ」
彼も、ここだけではなくいくつかのマンションを担当している。
どこに限らず、管理組合や理事会に必ず1人は、クレーマーに近い横暴な人がいるらしい。
特に理事会の役員をやっている人は、ほとんどが高齢者だ。
これまでの会社をそこそこの立場で退職して、その立場の気分のままで理事会の役員を務めている人が多いらしい。
だから、管理会社の担当者にも、自分の部下のように接してくる。
しかも、それらの人たちは、いわゆる昭和の価値観のままにリタイアした人たちだ。
だから、こちらの都合などお構いなしに、連絡は来るし、呼び出されたりもする。
「今日もそうなんですよ。本当は僕なんか関係ない話に立ち会わされて」
契約書にないことも、どんどん要求してくる。
たまらず、
「それじゃ、クレーマーに近いどころか、クレーマーじゃないですか」
「てか、老害ですよね、ここだけの話」
「そうそう、老害、老害」
自分が老害の枠から外れていることにちょっと嬉しかったりした。
もちろん、健全に運営されているマンションもたくさんあるだろう。
彼のもうひとつの悩みは、人手不足だった。
どこのマンションでも、清掃員や管理員が不足している。
足りないところは、仕方なく派遣会社に依頼するが、そこもまた要員が不足気味だという。
年齢や性別の希望など出せる余裕はないらしい。
考えてみると、おかしな話だ。
日本の総人口は減っているが、高齢者の人口はその中でも増えているはずだ。
もちろん、雇用延長などはあるが、せいぜい5年程度だろう。
その後は、皆さん、どうしておられるのか。
高齢者が新規に働ける職種なんて限られている。
すぐに思いつくところは、僕のような清掃員、マンションの管理員、警備員、介護関係、手に職があったり、保有者の少ない資格でもあれば、それを活かすこともできるだろうが、少数派だろう。
次から次へと天下れる人なんて、もっと少ないはずだ。
清掃員の仕事は、僕のところのような規模のマンションなら1日に2万歩くらい歩くので、健康にももってこいだ。
まだ体の動く高齢者には、ぜひお勧めしたい。
これまでのような数字の目標もないし、明日に引きずることもない。
しかし、高齢者が働けるようなどこの職場でも、人手不足だと聞く。
「皆さん、どこに行ってるんでしょうねえ」
と、担当者は嘆いた。
本当にその通りだ。
みんな、どこに行っているのだろうか。
年金だけじゃやっていけない、困った、困った、こまどり姉妹なんて言いながら(言わない?)、実はこれまでの蓄えがしっかりあったり、あるいは流行りの投資なんかでうまくやっておられるのだろうか。
学生の頃にテストにしっかり答えられても、友達には「ぜんぜん、あかんわー」と答えていた、あれだろうか。
困った、困った、こまどり姉妹なんて言うもんだから(言わない?)、みんな同じだと思っていたら、本当に困っているのは僕だけだったってやつなのだろうか。
「本当に、皆さん、どこに行っているのでしょうねえ」
と答えるしかなかった。
「とにかく、僕はしばらくは辞めませんよ。人が足りなくなれば、1人でもなんとかしますから。困ったことがあれば、何でもおっしゃってください」
最後は、管理する方とされる方、逆転してしまったみたいだが、まあいいだろう。
若者を励ますのも、老人の仕事だ。