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『ママとレモン』 # シロクマ文芸部

レモンから仕留めるか。
ママから仕留めるか。
俺は照準器を覗きながら考えていた。
今度の標的は女二人組。
レモンとママと呼ばれる二人組を殺せ。
それしか言われていない。
情報が少ないのは、それだけ、重要人物、あるいは重要人物の命運を左右する情報を握っている奴らだということだ。
向かいのビルの窓に、二人の姿は丸見えだ。
テーブルを挟んで向かい合っている。
そして、真ん中には知らない男。
あの男が立ち去れば、引き金を引く。

それにしてもふざけた名前だ。
コードネームとはいえ。
レモンとママ。
ママレモンじゃないか。
多分、若いブロンドの方がレモンで、少し年嵩の赤毛の方がママなのだろう。
まずは、レモンを倒す。
その後にママだ。
もしママが部屋から逃げ出せば、追いかけて実力行使だ。
そうなれば、若いレモンよりも、ママの方が相手にしやすいはずだ。

男が部屋を出た。
ママが見送りに立ち上がる。
レモンに照準を定める。
引き金を引こうとしたその時、視界の隅に嫌なものを感じた。
見送りに出たはずのママが、両手で持った銃を真っ直ぐこちらに向けている。
手強いとは聞いていたが、さすがだ。
引き金を引くのと、ママがレモンに何か叫ぶのが同時だった。
弾は伏せようとしたレモンの左腕に食い込む。
しまった。
ママの撃った弾が耳元を掠めた。

「あら、あなたどうしたのその傷」
妻は、耳に巻いた包帯を見て言った。
「いや、大したことないよ。会社の倉庫で転んじゃってね。それより、早く食事にしようよ。待たせたね」
娘を見ると、左腕を吊っている。
「どうしたんだ」
「この子もね、クラブ活動で張り切りすぎたんだって。そうよね、檸檬」
「ええ、ママ」
二人の顔に、ブロンドと赤毛を被せてみた。
そっと、ベルトの拳銃に手を伸ばす。
妻が笑って、
「さ、あなたも早く席について」
その手にナイフが光っている。

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