『指導者の条件』を読む
本日の読書感想文は、旅の途中で読み終えた、黒井克行『指導者の条件』です。
本書は、スポーツ界で後世に残る実績を残したカリスマ指導者24名にスポットライトを当てたドキュメンタリーです。新調45の「スポーツ指導者たちの『人を育てる』流儀」に初出されたもので、14競技24名の指導者は以下の通りです。既に故人となってしまった方もおられます。(敬称略)
・野球6…大矢明彦、星野仙一、仰木彬、根本陸夫、石山建一、古葉竹識
・ラグビー3…北島忠治、上田昭夫、大西鐵之祐
・サッカー2…佐々木則夫、小嶺忠敏
・陸上2…中村清、小出義雄
・ボクシング2…松本清司、井上真吾
・フェンシング1…オレグ・マツェイチュク
・アメフト1…水野彌一
・ソフトボール1…宇津木妙子
・シンクロ1…井村雅代
・バレーボール1…松平康隆
・ゴルフ1…林由郎
・相撲1…石浦外喜義
・レスリング1…八田一朗
・水球1…清原伸彦
著者は、キーワードを指導者と選手との『信頼』に置いています。自分の経験に照らし合わせても、愛が感じられない指導者からの教えを素直に受け容れて実践するのは難しいと感じます。
根底に信頼関係のない師弟関係は、うまくいかない場合が殆どでしょう。本書で扱われている指導者は、自分なりの信念を持って、選手と本気で対峙している点が共通しています。
選手の育成方法や指導手法、果たしている役割はそれぞれ違うと感じます。技術や技能を教えることに卓越した【コーチ】というよりは、競技に取り組む姿勢や人間としての価値観を徹底的に教え込む【教育者】と呼んだ方がふさわしい方もいます。
例えば、マラソンの瀬古俊彦選手の師として名高い中村清氏は、自身も現役時代は一流の中距離ランナーでした。その指導法は、『中村教』と呼んでも過言ではない独特のものであり、現代でも通用するのか?という疑問は感じます。師弟間の信頼関係がなければ、成立しないものでしょう。
個人スポーツとチームスポーツとでは、指導者の果たすべき役割も違ってくるように思います。チームスポーツでは、圧倒的な競技能力を持つスター選手、チームの主軸となるレギュラークラスの選手、万年控えの選手、では競技に向き合うモチベーションが一律ではありません。こういった選手達を束ね、チーム内の規律を保ち、チームとしての目標達成に向けて個々の力を結集させられるかは、指導者の人間性が左右する部分が大きいと思います。
ラグビーで取り上げている明治大学・北島氏、慶応大学・上田氏、早稲田大学・大西氏は、それぞれのチームカラーを象徴する指導者であり、チームに伝統を植え付けた指導者と言えると思います。真っ当を徹底する精神論的な北島氏、緻密な選手把握と熱血の上田氏、合理性に基づく理論と精神論を絶妙のバランスで使い分ける大西氏 と比較して読むと面白かったです。
あるスポーツ、ある選手には有効であったコーチング方法が、別の場合では全く実績に繋がらないケースもあります。また、時代によっても効果的な指導方法は異なります。『成功事例と失敗事例から学ぶ師弟関係』は、個人的に非常に興味深い分野です。