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盆栽にみる経営論:「日本で一番大切にしたい会社」感想文

堂々たる威厳を持って鎮座する一本の小さな木。
土に張る根、太く肥えた幹、空に腕をのばす枝葉。

盆栽は無駄な枝や葉を切り落としていく「選定」という手入れによって形を整えていくことで知られているが、ただやみくもに弱い葉を切り落としていくのではない。来る先の健全たる姿を見据えながら可能性を秘めたものを精査し、希望ある枝葉は残していくのだ。

土台となる鉢はこの小宇宙の成長スケールの決め手となる。
根を張る範囲が成長範囲に比例するという、自然の法則がそこにある。

甲斐甲斐しい世話人の献身的な愛情、自然と人知が織りなす創造力の結晶は、今という時に甘んじることなく、共栄共存に労と時をかけて理想の体現に挑んでいく。

些細なことが影響する繊細さは、バラバラのようにみえる幾多の要素が運命共同体であるという真理に立ち還らせてくれる。
不調があるとき、原因は必ず内側にあるというのは生き物でも無感情なロボットでも同様に普遍なのだ。

大は小を兼ねて個は全。
取捨選択、適材適所、共栄共存なくして理想はかなわない。

立派に育った盆栽は、見る者を雄大な時の流れにいざないながら
繰り返し巡るどの過程においても私たちの目を愉しませ、日々の煩わしさを壮大な自然の一部に包みこむ。

威厳たる風格の背景にみる尊大なる秩序は、わたしたちの心を律し、正しさの意義を問う。
それもまた盆栽の魅力の所以といえるだろう。

「日本で一番大切にしたい会社」

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──さて、なぜ盆栽の話なのかというのは、こちらのビジネス書を読んで、浮かんだイメージがまさに「盆栽」だったからだ。

「日本で一番大切にしたい会社」坂本光司著

この本の要点は以下の二宮尊徳の言葉に集約されている。

遠くを測るものは富み 近くを測るものは貧す
それ遠きをはかるもの者は百年のために杉苗を植う。
まして春まきて秋実るものにおいてや。
故に富有り。
 近くをはかる者は 春植えて秋実る物をも尚遠しとして植えず
ただ眼前の利に迷うてまかずして取り 植えずして刈り取ることのみ眼につく。
故に貧窮す。
         二宮尊徳 (伊那食品工業株式会社/塚越会長の座右の銘)

日本の経営は「年輪経営」や、「森林経営」といった樹木に喩えた概念がある。
かかわる構成要素の耕作だけでなく、つくる人の目や愛や技量、先を見据えながら足元の綿密な配慮に及ぶ視点、演出やみる人に付随する感情までもを考慮したあらゆる創造力の宿木が「盆栽」であるなら、この本はまさに「盆栽経営」とは何たるかが描かれたものだという解釈に至った。

これまで6000社を超える企業を訪問し、中小企業の現場で研究、支援をしてきた著者が、世のため人のためになる ”真に価値のある経営” について説いている。

企業経営の最大の使命・目的は、業績を高めるとか、勝ち負けを競うといったことではなく、その企業に関係するすべての人々の幸せや働きがいの追求、実現である 」

この信念をもとに、正しい経営に通ずる点を順にあげたのが以下の項目。

【会社経営とは5人に対する使命と責任】
1.  社員とその家族    (社員の幸せはいいサービスに影響する)
2. 外注先・下請企業の社員 (社外社員という考え方)
3. 顧客  (顧客の喜び、しかしいいサービスを行う社員は顧客よりも大事)
4. 地域社会(地域を活性化し、存在価値のある、なくてはならない会社に)
5. 株主  (物質面だけでなく心的満足度・応援したい会社)
 
                        ・・・を幸せにすること

社員満足度を高め、外注企業の満足度を高めれば、必然的に顧客満足度も高めることができる。
ここがなかなかできてない企業が多く、順序の勘違いが失敗の要因に繋がっているケースが多いのだそうだ。

核の部分がどんな繁栄にも決まって肝心なのは既知の事実である。

これらの使命と責任を果たしつつ、社会貢献に成功している企業に以下の5社をあげている。
(これらの企業と著者の対話を通して得た感動の逸話がそれぞれあげられている。その素晴らしい内容はぜひ書籍で!)

日本理化学工業 ー社員の7割が障害者のチョーク製造会社
伊那食品工業  ー48年増収増益の寒天メーカー
中村ブレイス  ー全国から社員が集まる技師装具会社
柳月      ー地元北海道を大切にし続けるお菓子メーカー
杉山フルーツ  ー日本中からお客様が集まる果物店

企業は社会のもの。
置かれた環境、関わる社会にどんな影響を及ぼしていくことを見据えながら内部の調整を「幸せにする」という姿勢で波及していくことで貢献度は大きなものとなることを考えさせられる。

当たり前とされていることの真意には常に、関わるものへの感謝や敬意が込められている。本来の要素用途を活かすための知恵を私たちは既に知っていながら、活かせてない場合も多い。

優秀の美を見据え、規律や順序を重んじ、団体の調和をはかる。関わるものに感謝し大切にする美徳は私たちのDNAに流れている。
どこか和の精神に通じるこの経営論は、利他の精神はそもそも日本人の得意分野だったのではないだろうか。


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───個人的にこの本を読んで良かったなと思うことは、今後の人生に多くの選択肢が立ちはだかったとき、どの選択がより多くの人を幸せにできるか を指標にすれば正しさに導いていけそうだというところにある。

「正しい経営を行う会社が増えれば日本人はもっと幸せになるだろう」
と著者は述べている。

個人の幸せが団体、組織、地域へと連鎖していけば、どんな社会になるだろう。
より良い社会を望むのなら、個人や企業は"何を損とし、何を得とするのか"を今一度じっくり考えてみる必要がありそうだ。

なにより、その営みの長である本人が一番幸せを感じるに違いない。


──すべての葉を落とした盆栽は、硬い幹の下に来る季節にちからを蓄え裸一貫で冬空をみつめている。
窓辺の盆栽に目を留めた通行人は立ち止まり、くまなく眺めたあと、数歩下がってまた眺める。
しばらくして、何かを思い出したような表情でメモを取りその窓辺を後にした。

正しい秩序にはいつも輝きがあり気付きや感動が伴う。そういう感慨を私たちは「嬉び」や「幸せ」と呼ぶのだろう。

その品位と風格の核には感謝の念を携え、変わりゆく街の安寧を夢見て、今日も人々を魅了する。

その盆栽を尊ぶように、健全たる企業を応援することもまた、私たちの嬉びなのだ。



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「日本で一番大切にしたい会社」坂本光司著
推薦者 カラビナテクノロジー 福田代表
この本を手に取った理由. 「僕の会社も"日本で一番大切"と言われる会社にしたいなぁと思って」

素晴らしい本を推薦していただいてありがとうございました!


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