📖『さみしい夜にはペンを持て』📖

ずっと読みたかった本をようやく読んだ。
『さみしい夜にはペンを持て』
古賀史健さんの著書で、印象的な絵はならのさんの作品。

さみしい夜にはペンを持て (一般書)

古賀さんの文章はここのnoteでも読んでいる。いつも優しい文体で読みやすい。
読み手に対して親切であろうという方針をひしひしと感じる。
私ももうちょっと、読み手に寄り添えればいいのかなとも思うのだが、今出てくる素直な心を整理する方に重点が置かれすぎて、まだまだその域には至らないようだ。

毎度思うのは、本というのは不思議なもので、必要なタイミングでちょうどよく読むようにできている。この本もずっと気になって読もう読もうと思っていたのに、実際に読めるようになったタイミングが今だった。それは私が自分ということについて、痛みを伴ったとしても、もっとちゃんと掘り下げようという準備が整ったタイミングであった。今考えていることの背中を押してくれたり、俯瞰して分析したりするために必要な情報が書かれているのがまさにこの本だったのだ。

私は今、自分とは何か、どう在りたいのかについて、真剣に考えざるを得ない時期に来ている。約2年、正確には最初の1年はこびりついた何かを注ぎ落とすために必要な時間だったので、ある程度クリアになった状態から改めて自分というものについて考え始めて約1年、自問し続けてきた。途中で何度も投げ出したくなり、どうしたらいいか分からなくなり、簡単に成果が出る掃除に逃げてみたり、何か前進していることを実感したくなって英語の勉強に力を入れてみてそんな自分に満足しようとしてみたりしていた。

この本の中に

考えるとは「答え」を出そうとすること

という小見出しから始まるセクションがある。

私はずっと自分自身の生き方について考え続けているのだが、時々「これは一体どこに辿り着くんだろう」と先が見えなくて不安に思うこともあった。
つい先日は全く別件で、出張中の夫と電話していた時「それは何のためにやってるの？」と何気なく問われたことがあった。そこでつい私の悪い癖が出て咄嗟に相手が納得しそうなそれらしい答えをサラサラと述べてしまった。職業柄、ある程度トレーニングされてしまって言葉の球を瞬時に程よく打ち返すことができるようになってしまい、口から出てしまった「後々こういうことに役立つかもしれないからやっておいたんだよ」という自分の音声を後から何度も反芻してはどんよりと落ち込んだりもする。夫は「なるほどね」とすんなり納得してくれるし、相手の気に入りそうな答えを瞬時に打ち返しているわけだから、その場は丸く収まり話はそれで終わるのだけれど、自分のことは自分が一番よく知っているわけで、電話を切ってからずっと「本当は何のためなんだろう」とモヤモヤし続けていた。
全然見えてこない答えに、心が苦しくなり、この霧はどこまでいけば晴れるのだろうかと悩む。
けれどそんな時に

考えるとは「答え」を出そうとすること

という話がこの本にあったのだ。
「答え」を出すこと、ではなく、出そうとすること。
つまり、「答え」がきっちりと出なくても問題はない。もちろんすっきりと回答できればベストなのだが、もしもこの瞬間に答えが出なくても、答えを出そうとすることを諦めないことが肝心なのだ。いつか、いつかきっと、答えは出る。

それと同時に「何のため」という言葉は非常に資本主義的なフレーズであり、危険を孕んでいることにも気がついた。目的や利益を明確にして、それを達成し、対価を受け取るという行為はまさに資本主義経済の中で日々頻発していることだ。資本主義的考えが悪いというわけでもなく、目的や目標がはっきりしているのは良いことのようにも思えるが、時にそれは純粋な直感力を妨げ、自由な発想を見失いかねないのではないかと思った。それはこの本の中でいう「コトバミマンの泡」を全て消してしまう可能性があるのではないだろうか。

ではあの時、私は夫になんと返答すればよかったのだろう。
「何のためだろうね、わかんないけど、何となく」
と言えればよかったのだと思う。
けれども私は職業トレーニングの成果として、「コトバミマンの泡」から乱暴に何とかして瞬時に単語を繋げ、それらしい言葉にまとめて、程よい会話のラリーを続けてしまっていたのだ。

そもそも遡って考えてみれば、なぜ職業用の公式ブログもあったにも関わらず、ひっそり本名でこのnoteをスタートしていたのかは、つまり考え続けたかったからなのだと、この本を読みながら気付かされた。

当然のことながら公式ブログには当たり障りのないことしか公開できない。第三者つまり所属会社によって管理され、ルールも細かく決められており、その中でうまく立ち回りながら楽しそうに書くしかないのだ。もちろんそれは当然のことだと思う。そこに不満があったわけではない。それはそれで、ルールの中でいかにして書くかを楽しんでいた。

しかし次第に私は、自分がちゃんと自分の頭で考えることができなくなりつつあることに、危機感を覚えていたのだと思う。自分の考えを、まとめて、表出していかないと、「社会の誰か」を演じているうちに、その「社会の誰か」に自分が乗っ取られてしまうと感じていたのだと、今なら振り返ることができる。

この本のタコジローのように、日記として自分の考えを綴っていってもよかったのかもしれないが、結局私は自分の考えていることを誰かに伝えたいと思っていたのだと思う。その後の反応は特に考えたこともないし特に気にしたこともないのだが、ただ、今日か、明日か、何年後か、わからないが、このインターネットの海に私が残した言葉が漂流して、どこかの誰かに必要なタイミングで届くことがあれば、幸せだなと思っているのだ。紙の日記のままだと本当に誰にも読まれないまま、ある一定期間が過ぎたら私自身の手によってシュレッダーにかけられて処分されることは明確なので、それらがどこかに漂流することはない。言い換えれば、ブログにあるのは漂流していてもまあいいか、と思えるものだけを漂流させているとも言える。
最近は紙にも考えていることを書いているし、メモもしている。スマホのメモ機能に書き留めておく場合もある。それらは一種のネタ帳のようになり、そこからブログで漂流させる言葉たちが生まれていくことも多い。

この本を読むことで、おそらく私の在り方とは切り離せない「書くこと」「考えること」について、改めて見直すことができた。この本は書くことが苦手な人にだけではなく、書くことが大好きな人にもきっと何かしらの発見をもたらしてくれるだろう。