これが「史上最も途方もないマンガ」『男組』だっ‼
【はじめに】
この文は、質問回答サイトQuoraの「スペース:お勧めの漫画を紹介するだけのスペース」が募っていた
「あなたが今までに読んだいちばん「途方もない」マンガは何ですか?どこがどんなふうに途方もなかったですか?「途方もない」の意味はおまかせします。ネタバレありでイイです。」(質問者名の記載はなし)
という問いに回答した私の投稿を転載したものです。
本文につきましては、大見出し並びに明らかな脱字と読み仮名を一部を補いましたが、それ以外の加筆や削除は行なっておりません。ただし、画像とキャプションは回答文にはなかったnote読者へのスペシャルサービスです。
Quora運営事務局や「スペース:お勧めの漫画を紹介するだけのスペース」管理者の転載許諾は得ていません(得たかったのですが、連絡方法が分かりませんでした)。
したがいまして。
①上記の方々またはnote運営事務局が何かおっしゃって来られたら、この記事はたぶん削除いたします。
②思いっきりネタバレしています。ご注意ください。
校庭で「首を斬り落とす」と言っちゃう高校生
『男組』(雁屋哲・原作/池上遼一・画)です。
敵役(かたきやく)の神竜剛次という高校生、すべての高校(ハッキリとは書いてませんが「全国の」ではなく「関東の」でいいみたい)を暴力で制圧して教育システムを改革し(逆らった奴や試験で落ちこぼれた奴は強制労働場送りにしてしまうなどして)、ひいては日本を理想社会に作りかえようという暴挙を企む、ばかりではなく、すでに派手に始めてしまっている、とてつもないティーンです。
なんで彼にそんなことができるかと言うと。
神竜は手始めに都内の名門私立高校四校に「神竜組」という不良学生を集めた組織を作るのですが、手下のひとり大田原源蔵(青雲学園相撲部主将)が失態をしでかします(主人公の流全次郎にあっさり負けてしまう)。神竜は動ぜず日本刀を抜刀し(いちいち驚かないでくださいね)、「流、大田原の首をくれてやる、土産に持って帰れ」なんて言っちゃいます。
そこで校庭に集まっていた生徒たちの発した言葉が。「怖い、首だなんて」「でも神竜はウソの脅しはしたことがないわよ」(これは女子生徒たち)。「神竜が人を殺しても父親の権力の前に警察は目をつぶるからな」(これは男子生徒たち)。神竜の父親は「右翼の大物で政界のボス」(青雲学園高校教頭)であり、なおかつ「財界の支配者」(女子生徒でこの漫画のヒロイン山際涼子)なのです。この父を恐れて息子の高校生剛次が何しでかそうがマスコミも一切報じたりしない。主人公の流は神竜と同年代ですが、関東少年刑務所から青雲学園に通学します。流は受刑者で、いつも手錠をかけたままです。中国拳法を用いて戦うときであっても(一般的な手錠とは仕様が全然違うのですが、細かいことは略)。流は神竜剛次への対抗措置として青雲学園校長が呼び寄せたのです。
北朝鮮以上の独裁者に支配されていた日本国!
…といったすったもんだ(大田原君は命拾いします)の後で、剛次の許に私服警察官がすっ飛んで来ます。流についての調査事項を報告するために。警官たち、流の罪状が父親殺しであるとは告げたのですが、なぜ少年刑務所所長が流の通学を認めたのかまでは不明。すると剛次少年が彼らを一喝します。
「気のきかぬ奴らだ! 無用の者を おれは養ってはおかぬぞ!!」
神竜父子の権力、明らかに時の宰相であった田中角栄よりはるかにデカい。北朝鮮の金一族並み。
ところが物語が進むに連れ、流は「(ナゾが解けなければ)一高校生に過ぎない神竜に これほどまでの権力がふるえることの説明がつかない!!」なんて失礼なこと言い始めます。実際に父神竜さえも「あのお方の召使いでしかなかった」(父神竜の配下を務めていたあのお方のスパイたち)という影の総理なる凄い奴が現れてしまうのです(既述のとおり父神竜だってすでに表の総理よりはるかにスゴイのですが)。
この影の総理、かつて大日本帝国が満州国建国のさいに送り込んだ官吏という設定で、登場時の推定年齢75歳超ですが、おそらく史上最強の官僚です。体力的にという意味で。ビール瓶片手の握力で割っちゃったりしてますから。そしてテニス、水泳(バタフライ)、クルーザーでのカジキマグロ釣りと、ご高齢ながら大変なスポーツ好き。バタフライの直後にシャンパンをラッパ呑みしてますから、心肺能力は現役トップスイマーをはるかに凌ぐ。
流の父と軍艦島刑務所の、あまりに深い謎!
神竜は流の心を惑わせるために、彼の母と名乗る女を差し向けます。流の母は亡くなっていたはずなのですが、実は事情(何だか不明)のために赤ん坊だった全次郎を残して家を出たとのこと。ご賢察のとおり全次郎はこのあからさまに怪しい話にコロリと騙されてしまいます。なぜ騙されたのかといえば「おやじが大の写真嫌いで家には一枚の写真もなかった」からです。しかしながら。全次郎はそれ以前に、神竜父子の権力によって、北海道の日ソ国境に位置する軍艦島刑務所に叩き込まれていました。そのときに南条五郎という「恐怖と暴力で軍艦島を支配する」良い人の受刑者と出逢っていたのですが、一枚の写真を見せた南条に向かって全次郎が、思わず叫んだ言葉はこうでした。
「おおっ、これは父のアルバム帳の1ページ目に貼ってあった写真!」
余談ですがこの軍艦島刑務所、軍艦に似ているのではなく本当に島の上にのっかった軍艦なのです。元は大日本帝国が北方に備えた要塞でした(当時南樺太は日本領だったのですが、そんなことは気にしてられません)。この海底軍艦ならぬ地上軍艦、さながらに全体が旋回します。何で舳先(へさき)とかがある軍艦そのものの構造なのかとか、砲塔だけ回転させないのか、といったことは、ミリタリーに詳しくない私には良く分かりません。
『男組』を読むべし!『男組』に学ぶべし!!
この『男組』、決してギャグマンガではありませんよ。熱気とパワーで読者をぐいっぐい引っ張って行く「ハードロマン」(掲載誌『週刊少年サンデー』による惹句)なのです。これはまったく皮肉ではありません。私、ガチで夢中になって繰り返し読みましたもの。
原作者の雁屋哲先生につきましては、近年ネット上で『美味しんぼ』に対する揚げ足取り的言辞が散見されますが、先生はそのような枠組みで批判すべきスケールのお方ではありません。
そうした思慮の浅い方たちには申し上げたい。
『男組』全巻を通読して、男とは何かを学び、あふれ出るイマジネーションと創作の、熱い関係を体感するように、と。
【附記】
Quoraで親切な方から「こうしたほうが良いよ」というアドバイスをいただきましたので、その質問並びに回答(他の方のご回答を含む)のリンクを貼っておきます。
当然のことなのですが、本稿の文責は、すべて私にあることをここに記しておきます。
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