【読書】「どうする家康」では描かれない、足軽の話~『足軽仁義 三河雑兵心得(壱)』(井原忠政)~
久しぶりに、文句なく面白く、どんどん読み進められる小説に出会いました。
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雑兵の視点から戦国時代を見るというのが、非常に新鮮です。普通の時代小説なら主役である家康が、脇役になるという……。「名もなき民」一人一人にももちろん名前があり、それぞれの人生があったということが、改めてよく分かります。
主人公の茂兵衛は、とんでもない乱暴者です。のっけから喧嘩のはずみで人を殺してしまい、村にいられなくなってしまいます。そりゃ、薪で人の頭を殴ったら、死ぬでしょうよ……。
でもこの茂兵衛、頭は悪くないし、実は情にも満ちています。発端の喧嘩にしても、いじめを受けた弟に代わって、復讐しようとしてのものでした。槍の訓練をしろと言われたら、日々きちんと行う素直さもあれば、足軽になった後、自分が殺した相手に手を合わせる心もあります。村では嫌われ者だった茂兵衛が、足軽仲間から頼りにされるようになっていくところは、ちょっと感動的でもあります。
あえて難を言うとすれば、現在放映中の「どうする家康」を見ているからこそ、物語の背景が分かるのであり、その知識なしで読んだとしたら、ちょっときつかったかもと思わなくもありません。でも、「どうする家康」を見ているからこそ、そこでは描かれない足軽たちの日常が知れて、楽しいです。そもそも何しろ文章が達者なので、背景の知識なしでも、問題なく読み進められるかもしれません。
正直、戦闘シーンに次ぐ戦闘シーンで、陰惨な話ではあるのですが、台詞が三河弁で語られるので、陰惨さが和らぎます。
以下、印象に残った部分です。
「まっとう」かはともかく、己の領主側にも落武者狩りを行ったというのには、驚かされました。農民も、武士に振り回されるばかりではない、したたかさを持っていたということでしょうか。
なるほど。
「どうする家康」で観たので、寺内町のイメージが分かりやすかったです。
逆茂木と乱杭の区別がついていなかったので、茂兵衛たちと一緒に理解しました。
これまた、苗字と姓の区別がよく分かっていなかったので、勉強になりました。
この巻は主に三河一向一揆を扱っているので、一向宗門徒同士の殺し合いということになります。本当に、仏様はどのようにお考えだったのでしょうね。
なるほど。戦いが一年間のいつ頃行われているかは、考えたことがなかったのですが、納得がいきました。
これは意外であると同時に、だから三河一向一揆のようなことが起きるのかと、非常に納得がいきました。国守というのは、絶対王政期より前のヨーロッパの国王と同じなのですね。
2巻以降を読むのが、とても楽しみです。
見出し画像には、茂兵衛のど根性ぶりに敬意を表し、アスファルトの隙間から生えたど根性植物の写真を使いました。
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