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本編の奥行きが増す~『祝祭と予感』(恩田陸)~

ピアノコンクールを題材とした『蜜蜂と遠雷』の、番外編にあたる短編集です。


↑kindle版


本編の後日談や前日談、背後にあったエピソードからなります。

時に番外編や外伝は、本編の出来が良いほど、時にその世界を壊すことがありますが、この『祝祭と予感』はその恐れはまったくありません。むしろ本編のファンは、ぜひ読むべきだと思います。本編では語られなかった様々なことが分かり、本編の話の奥行きが、さらに増します。


読み応えたっぷりだった本編とは打って変わり、1つ1つの話も短いし、改行や行空けも多く、するする読めます。一気読みもできてしまうくらいです。何となく自費出版の本を思わせる感じですが、内容はもちろん濃いです。個人的に心に残ったのは、まずはコンクールの課題曲だった「春と修羅」の背後にあったエピソードを描いた「袈裟と鞦韆」です。宮沢賢治の「春と修羅」の引用と共に語られる健次の人生には、切なさを感じました。賢治も健次も、芸術の世界に専念したいと思いつつも、日々の生活に追われ、自分の道を究めきれないまま、生涯を終えたのですから。ちなみにブランコのことを意味する「鞦韆(しゅうせん)」という言葉は、初めて知りました。


あと、奏が自分のヴィオラに出会う「鈴蘭と階段」も良かったです。偶然に偶然が重なった結果与えられた、千載一遇のチャンスを逃さなかった奏。もちろん、手にしたヴィオラと共に歩む奏の演奏家人生は順風満帆なばかりではないと思いますが、そこに後悔はないことでしょう。


↑単行本

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