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【読書】鉄砲ですら時代遅れ~『長篠忠義 北近江合戦心得(三)』(井原忠政)~
「北近江合戦心得」シリーズ第3弾です。
↑kindle版
以下、印象に残った箇所です。
織田領の年貢は穏当で、賦役も無茶はさせない。商人たちは楽市楽座で大儲けしている。織田領内の庶民は――俄かには、信じられないことだが――あの悪鬼のような信長を慕っているらしい。
「反抗する者には鬼の顔を見せるが、尻尾を振る者には菩薩の顔をみせるんや。それが信長様や」
(中略)
信長は「富を生む源泉が、百姓と商人」であることを見切っている。今の言葉で言えば、生産と流通でもあろうか。反対に、威張り腐っている武家や僧侶の方が、その実「なに一つ生み出していない」ことに気付いているのだという。
信長が天下統一を果たしたら、どのような日本になっていたか、見てみたい気がします。
以下の弁造の言葉には、驚きました。
「鉈と鋸は、雑兵の心得にございまするぞ」
雑兵は、鉈や鋸も戦場に持参しなければいけないのですね。もっとも、その意味はじきに分かりました。長篠の戦で信長軍が築いた馬防柵は雑兵たちが築いたものであり、そのためには鉈や鋸が確かに必要です。
(この際、周囲の声など気にせんことや。俺は今後とも、自分がやるべきことをやる。世間の評価など知らんわい)
こういう心境に達したいものです。ただし与一郎はそう考えつつも、真にこの領域に到達したわけではありませんが。まぁまだ若いしね。
「追い詰めすぎると、窮鼠が狸を噛むの譬えもあり……」
ちなみに、異国の原点では、窮鼠が噛むのは「猫」ではなく、秀吉が言ったように「狸」が正しい。
これ、知りませんでした。
弓は長い。持ち歩けばよく目立つ。しかも今は鉄砲の時代だ。弓はある意味、古色蒼然たる得物なのである。「弓を持った侍が歩いている」というだけで人口に膾炙しよう。
この時代、すでに弓が「古色蒼然たる得物」だったとは意外でした。それだけ急速に鉄砲が普及したということでしょうか。
と思っていたら、こんな記述も。
「最早、鉄砲ですら時代遅れの獲物になり果てるのでござる」
「左門がゆうには、これからは大筒の時代や、と」
いかに武器の変化、それに伴う戦い方の変化が急速だったかということですね。
馬廻衆は、小姓とならぶ大名の最側近である。
戦場では物見役、伝令役、護衛役として大名の傍近くに配置された。小姓は知恵と愛嬌が勝負の事務官で、馬廻衆は腕と度胸で勝負する武官との色分けだ。
この説明、すごく分かりやすかったです。
162ページで茂兵衛が登場したのには、驚きました。同じ時代に、すぐそばで生きているのだから、どこかですれ違うのかなぁとは思っていましたが、ここで来るとは。「三河雑兵心得」シリーズだと、四巻の部分ですね。
今巻も面白く、夢中になって読み進めていたのですが、ちといただけないところがありました。217ページで唐突に義介が登場したところです。「新参の義介」とはなっているものの、これまで出てきたかなぁと首をかしげていたら、223ページで義介を召し抱えるシーンが出てくるのです。
まぁもともと義介とは顔見知りだったし、23ページで義介の健脚に触れられてるのが伏線だったのでしょう。正式に召し抱える前にすでに轡取りをしてもらっていたと取れなくもありませんが、「新参の」となっているしなぁ。編集者や校正の人は、気づかなかったのでしょうか。218ページの小一郎は、与一郎の誤植でしょうけど。唐突にここで、秀吉の弟の長秀が登場するわけもないし。
まぁその程度のことが玉に瑕に思うくらい、全体としては非常に面白かったです。
「良いことも悪いことも、誰かが後世に真実を伝えねば、とは思うのですが」
後に『信長公記』を書く太田牛一(この時点では又助)が、与一郎に言った言葉です。この後、与一郎が又助に忠義について質問します。まだ今のところ、与一郎にとっての忠義が変化はないようですが、いろいろ考え始めているので、今後、代わっていくのかもしれませんね。
見出し画像は岐阜市のマンホール蓋です。今巻で岐阜城が登場するので。
もしご興味がおありでしたら、ブログの方の記事もご覧ください。
↑文庫版
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