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筋トレ、瞑想、自然、読書:いいと言われる習慣で緩める|自分をもてなす/05 #1|鰐部祥平
《いつも気が張っていてリラックスするのが苦手という鰐部祥平。それでもうまく気を緩める時間をつくっている。文献とともに紹介》
鰐部祥平(Shohei WANIBE)
1978年愛知県生まれ。中学3年で登校拒否、高校中退、暴走族の構成員とドロップアウトの連続。現在は自動車部品工場に勤務。文章力が評価され、ノンフィクション書評サイト「HONZ」のメンバーに。趣味は読書、日本刀収集、骨董品収集、HIPHOP。
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今回のテーマは「自分をもてなす」であるという。編集者であるりり子氏からお題を知らせるメッセージが届いたとき、私は少しのあいだ固まってしまった。自分をもてなすとはどういうことなのか正直よくわからなかったからだ。
思春期の頃に暴走族の構成員となり、暴走行為などの非行行動を繰り返していた経歴だけを見れば意外と思うかもしれないが、幼い頃の私はとても感じやすい性格の子であったらしく、保育士たちから10年に一人くらいの感受性が強い子だと言われていた。
この性格はグレる前も、グレていた最中も、中年になった今も変わっていないと思う。グレる前はダイレクトにその性格を前面に出していたし、グレた後は攻撃的な言動をとることで自分の内面を他者に悟られないようにしていた。ヤンキーだのチンピラだと言われていても結局は強がっていただけなのだ。今も初対面の人に威圧感を与えしまうことが多いが、これは図らずも長年かけて身についた技術で、いわば仮面のようなものだ。
つまり私の中では、後天的に身につけた強気な性格と本来持っている感じやすい性格が常にせめぎ合っている状態で、この二律背反ともいえる精神のせめぎ合いがもたらす緊張状態の結果、自分のご機嫌を取るのが苦手な人間となってしまった。
しかし、人間というのは常に心身のメンテナンスが必要で「おもてなし」こそ、してはいないが自分自身へのメンテナンスは欠かしてはいない。私がメインで行っている心身のメンテナンスは週3日、1回1時間半の筋トレである。運動の力は偉大で、30分の散歩程度の軽い運動を行うだけでも抗うつ剤を1回投与した以上の気分の改善効果が得られると言われている。心の改善だけでなく、筋トレにはテストステロンの量を増やし、行動力や活力を与えてくれる効果もある。さらには肉体が変化することで自己肯定感を高め認知機能の向上に役立ち、肌のたるみや皺も予防してくれるのだから一石二鳥どころではない。ここまで聞いて筋トレをしない人がいるであろうか。筋トレこそまさに最高の心身のメンテナンスツールなのである。運動の効果を詳しく知りたい方はジョンJ・レイティ著『脳を鍛えるには運動しかない』を参照していただくとよいと思う。筋トレ最高!
だが筋トレは時間もかかるし疲れているときなど、どうしてもできない日もある。そんなときのためにいくつかの「サブ」も用意してある。その一つがマインドフルネス瞑想だ。私は基本的に呼吸に意識を集中するサバタ瞑想か慈悲の瞑想を行っている。
さらに瞑想よりも高いストレス解消効果を狙いたいときは、自然に触れるようにしている。自然の力も偉大で森に数十分いるだけで、瞑想の何倍ものストレス発散効果があるとされている。我が家のリビングには、数々の観葉植物と水草が生い茂った熱帯魚の水槽があり、さながらジャングルのようになっている。これもストレス発散効果を狙ったものだ。少なくともパートナーにはそう説明してある。本当は半分以上がただの私の趣味であることは公然の秘密だ。自然の力に興味のある方はNHK出版から出版されているフローレンス・ウィリアムズ著『NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる』を参照されたい。
さてここまで書いて、珍しくネタの出典である本を紹介しているのだが、ここにも理由がある。実は読書もストレス発散に大きな効果があることが分かっている。本を読んでいると凝り固まった心がスッとほぐれて行く感覚を覚える人も多いだろう。実際に1日30分の読書を行うことでストレス値が70パーセント前後も低下するという研究などもある。運動? 苦手だ。瞑想? めんどうくさい。という方は読書などどうであろうか。私も本を読むことで人生が変化した。心のメンテナンスのみではなく、人生に大きな変化を与えてくれるのも本の魅力であろう。
誰しもが生きていれば大きな悩みや苦しみ、葛藤を抱えるはずだ。人生はとかく辛くて苦しい。それでも死という形で終焉は必ずやってくる。一時でも人生の重荷を下して心を軽くし、生の素晴らしい側面に目を向けることが必要だ。そうしたつかの間の楽しい体験を積み重ね、最期の時に美しい思い出が心をよぎるようにしたいものだ。人生には様々な意味があるのであろうが、究極のところは最後の最後に自分が満足できたどうかだと私は思っている。
もし私のように小さな日々の「もてなし」では重荷を下すことが出来ない人がいるのであれば、ここに記したことを試しにやってみることをお勧めしたい。「もてなし」とは少し違うが、心身がリフレッシュし心が軽くなること請け合いだ。
文:鰐部祥平
>>次回「自分をもてなす/05 #2」公開は1月6日(月)。執筆者は山下陽光さん