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京大生の本棚part.4~凪良ゆうさん「汝、星のごとく」~

 ーー小説を読んで号泣したのは一体何年ぶりでしょうか。
 先ほど読了し、その感動が冷めないうちに下書きだけでもと思い、これを書いています。本屋大賞2023受賞作品ということで期待していましたが、それを遙かに超えてきました。

というわけで、今回ご紹介するのは
凪良ゆうさん「汝、星の如く」です!

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この小説は、こんな人におすすめです

・綺麗な涙を流したい人
・「自分の人生、このままで良いのか」と悩んでいる人
・「正しい人生」という概念に捉えられている人

…例示するのが億劫になってきてしまいました。本好き・読書に興味を持っている人全員読んで下さい。全員です。
私の脳内に住む犬養毅が「読めば分かる」と言っています。
しかし独りよがりもいけません。頑張って、まとめてみます。

※約6000字という超大作になってしまいました。飛ばし飛ばしでも大丈夫です…

※以下あらすじを説明していきますが、ネタバレがあります。「ネタバレ、ダメ、ゼッタイ」という方は、「読書感想文(ネタバレ無し)」というところまで飛んでください。

1.衝撃的な書き出し


「月に一度、わたしの夫は恋人に会いにいく。…(中略)ーー明日まで、あの人はわたしの夫じゃない。」

ん?不倫?もしかして泥沼系?となりますよね。
しかしページをめくると、語り手(妻)は平静を保っているようです。「あ、いつものことです」と言わんばかり。ますます分からない。
おまけに、結ちゃんという娘もいます。それも、旦那さんの連れ子のよう。
一体どういう状況?と気になりますよね。
作品としてのつかみは完璧です。

 やや本筋からずれますが、この物語の舞台は瀬戸内の島。この一家を見る島の人たちの目が実にリアルです。狭い世間で、自分たちの生活を娯楽として消費されている感じ。
ーーどうしてこんな歪んだ家庭になってしまったのか?
読者である我々も、島の人たちよろしくこの家族への好奇心が芽生えてきます。
そして次章から、そのいきさつが語られていきます。

2.甘酸っぱい恋愛、輝く青春

 ここからが本章です。
舞台は瀬戸内海に浮かぶ島。
京都から島に越してきた青埜櫂(あおの・かい)という少年と、島で生まれ育った少女・井上暁海(いのうえ・あきみ)が出会うのです。

島のイメージ画像(これは伊王島のものです)


 櫂には父親はおらず母親はかなりの恋愛依存体質で、恋人を追いかけてこの島まで来たのです。この時だけでなく、彼女は彼氏ができるとその人が全てになってしまい、息子の櫂すらほったらかしにして男性の家に入り浸ることもあったとのこと。
 櫂いわく、「最初はかわいくても最後は男にうっとうしがられる女の典型」だそうで、彼氏に捨てられるたびに身も世もなく泣き崩れ、息子にすがりついてくる。
 櫂は、たった一人の親である母を頼ったり甘えたりすることができないまま育ったのです。

 一方、暁海。彼女の父親は不倫をしており、あろうことかほぼほぼ不倫相手の家に入り浸っている状態。
ちなみに、この不倫相手の女性(瞳子さん)は、プロの刺繍作家でもあり、とにかく自立したかっこいい女性です。彼女は本作における名言製造機でもあるので、それを目当てで読むのも良いのではないでしょうか。

 とはいえ、夫が別の女性に入れ込んでいるということで、妻である暁海母は精神が不安定気味。暁海はつねに母に気を遣わなければなりません。
 ともに、親という最も身近な大人に庇護してもらう経験がほとんど無いに等しかった二人は、いくら話しても話したりないと思うほど心を許しあい、徐々に惹かれ合っていくのでした。

 風光明媚な島で出会った少年少女の恋愛。どこか三島由紀夫の『潮騒』を彷彿とさせます。
…と、ここまではよくある青春恋愛小説かと思っていました。

3.進路選択から始まるすれ違い、そして別れ


 櫂には夢がありました。それは、漫画の原作者になること。櫂は絵を描くのは苦手でしたがストーリーを創る才能がありました。 
 というよりも、櫂は辛い現実から逃げるために物語を書くようになり、皮肉にも才能が磨かれたと言えましょう。

 幸運にも、そのストーリーに素晴らしい絵を付けてくれる相方に出会いました。さらに、二人で創り出した作品の連載が決まったのです。それに伴い、櫂は上京することに。
 一方暁海も島での閉塞的な暮らしに辟易し、東京に出たいと望みます。しかしその矢先、母親が自殺未遂を起こし、心の病が悪化してしまうのです。


 混乱する暁海を救ったのは、櫂と、のちに暁海の夫となる北原先生(高校の化学の先生)でした。暁海は、「お母さんを一人にできない」と東京行きを諦めざるを得なくなりました。

 こうして櫂と暁海は遠距離恋愛に。しかし、櫂は東京で漫画家として成功し羽振りが良くなっていく一方(まあまあ浮気もした)、暁海は島の旧態依然な会社で鬱屈としながら働いていました。これにより、二人は少しずつすれ違っていくのです。

 この様がまたリアルなのです。何か大事件が起きて決定的に破綻するのではありません。徐々に価値観がずれていき、いつの間にか上下関係のようなものができていて、「このままではダメだ」と思いつつも断ち切ることができない。時間だけが過ぎていきます。暁海は、「行き遅れ」(もうこんな言い方、死語だと信じていますが)と言われる年齢にさしかかってしまいました。

 しかし暁海は覚悟を決め、櫂に別れを告げます。
櫂は怒り、何度か復縁を求める連絡をしますが、暁海はその全てを無視。隠して8年ほどで二人の恋愛は破局することになりました。

3.夢破れて


 相方と作り上げた作品が売れに売れ、アニメ化もされたことで順風満帆そのもののように思われた櫂。しかし、事態は急変します。

 櫂の相方である尚人はゲイで、男性の恋人がいました。恋人の高校卒業を祝って旅行に出かけたのですが、彼は早生まれだったため旅行当時はまだ17歳。「未成年に手を出した」としてトラブルになってしまいます。

 さらに、そのトラブルを必要以上に悪意を持って書いた記事が週刊誌に出てしまい、尚人は炎上。連載はとりやめ、既に出ていた単行本も絶版に追い込まれました。元々繊細だった尚人は心を病んでしまいます。

 しかし、櫂は「尚人の絵でなくては物語は出さない」と言って尚人の復活を待ちます。でも櫂にも生活がありますからそうも言っていられない。運良く編集者の女性と出会い、彼女のつてでライターの仕事を少しずつこなしなつつ、居酒屋でバイトをするという生活になりました。

 一方の暁海。娘が長く付き合った恋人と破局したと知った母親が、怪しげな宗教に片足を突っ込み、貯金を溶かしてしまったのです。暁海はお金を貸してもらえないか各所方面に行脚せざるを得なくなります。
 しかし他の親戚は「怪しい宗教にはまった人」を救う優しさを持ち合わせていませんでした。暁海は櫂の元に向かい、お金を貸してくれないかと頼み込みます。櫂は理由も聞かず300万を貸してくれたのでした。

 ところがお金を受け取った後、暁海は、櫂たちの漫画が連載終了に追い込まれていたことを知るのです。激しく後悔しました。
そして彼女は決意しました。
ーーー何があっても、このお金は必ず返す。

 そして、父の恋人である瞳子さんに頼み、会社の仕事だけでなく刺繍の仕事も始めることを決意するのです。瞳子さんの目が弱っていてこのまま仕事を続けるのが難しくなってきたことも相まって、瞳子さんから仕事を引き継ぐことになりました。それ以降、毎月給料日の翌日に櫂の口座に少しずつお金を振り込むようになります。

 しかし、借金を返しながら不安定な母親を支え続けることに、暁海は限界を感じていきます。
それと同時に、普通に結婚して子供を産んで母親を安心させたいという思いに苦しめられるのです。

 そんな中、かつて助けてくれた北原先生とばったり会います(本編ではちょくちょく登場していて、彼もまた名言製造機です)。

 北原先生は、暁海をヤングケアラーではないかと指摘します。「君のように真面目で責任感の強い人ほどそうなりやすい」と。そして、「以前も状況は違えど追い詰められていた教え子を見たことがあります」と打ち明けるのです。

 その相手こそ、北原先生の元教え子であり、結の実母にあたる女性でした。教え子に手を出すというのは客観的に見て許されることではありませんが、先生はその選択を少しも悔いていません。

 普段は淡々としている先生には珍しく「彼女を放っておくことは、自分を殺すことと同じに考えていました」と激しい言葉が出ます。
そして、こうも言うのです。

「ぼくは過去に間違えましたが、『つい間違えた』わけではありません。間違えようと思って間違えたんです。後悔していませんが、そんな間違いは一度で充分だとも思っています」

 その後、北原先生は暁海にこう提案します。
ーーー「ぼくと結婚しませんか」

 決して恋愛ではありません。「足りない者同士、互助会感覚」での結婚でした。
 このことは櫂の母親から櫂に伝わりました。しかしその直後、櫂は吐血して倒れます。胃がんでした。

4.巡り巡って


 暁海と北原先生との結婚生活(互助会活動)はそれなりにうまくいっていました。しかし突然、櫂の母親から電話が来て、「話がある」と呼び出されます。そこで伝えられたのは、櫂が胃がんで、入院の保証人が必要だということでした。帰宅した暁海は、北原先生にこのことを話します。
北原先生はなんのためらいもなく、「櫂くんのところに行きなさい」と飛行機の手配さえしてくれました。
 戸惑う暁海に、先生はこう言って背中を押します。
「何度でも言います。誰がなんと言おうと、ぼくたちは自らを生きる権利があるんです。ぼくの言うことはおかしいですか。身勝手ですか。でもそれは誰と比べておかしいんでしょう。その誰かが正しいという証明は誰がしてくれるんでしょう」
暁海は、「分かりません」と返すしかありません。
 先生は続けました。
「正しさなど誰にもわからないんです。だから、君ももう捨ててしまいなさい」

 暁海は櫂に会いに行くと決心します。

「わたしは愛する男のために人生を誤りたい」

「正しさ」にとらわれ続けていた暁海が、初めて自分の意思でしくじった瞬間。
 しかし、彼女は明鏡止水ともいえるほど、穏やかな心持ちでした。
同時に、30歳を過ぎた今島を出ることこそが運命だったのかもしれない、櫂と一緒に18歳で島を出ていたら、明るい未来しか見えず、失うものの重さにも気づかなかっただろうと自らの選択を肯定するのです。


  東京についた暁海は櫂を助けながら、ささやかな幸せを噛みしめます。しかし現実は残酷で、櫂の余命は数ヶ月と告げられます。
そんな中、櫂は「花火を見たい」とつぶやきます。それも、生まれ育った瀬戸内で。暁海はその願いを叶えるべく、北原先生に連絡します。先生は快く「家で見ましょう」と言ってくれたのでした。

 幸い櫂の身体は、瀬戸内までの移動に耐えました。花火大会当日、暁海と櫂、北原先生、結とその恋人、更に結の実母(菜々さん)という傍から見たらものすごいメンバーで花火を見ることになるのです。

 そして最初の花火が上がった…というところで、櫂は天に召されたのでした。

 その後エピローグに続きます。最初の一文はこうです。

「月に一度、北原先生は菜々さんに会いに行く。」

 全てを読み終わったあとこの箇所を読むと「ああ~、そういうことだったのね」となると思います。
でも我々読者は、もうゴシップを見るような好奇の目では読まないはずです。
 本文の最後の最後でタイトルが回収されます。ここまで散々ネタバレしておいてIMASARAですが、この感動はぜひご自身で体感していただきたいです。

読書感想文(ほぼネタバレ無し)

 「この作品を一文で説明しなさい」と言われたら、私はきっとこう答えます。

「狭い世間で『正しさ』にとらわれ続けた二人が、自分の意思で悔いのない選択を下せるようになるまでの物語である」


 『汝、星の如く』という作品は、確かに大恋愛も不可欠な要素として存在していますが、それだけで片付けてはいけない作品です。

 親子関係、恋愛、すれ違い、ジェンダー、炎上、自立。

本編で描かれていることは、ぱっと思いついただけでもこれくらい出てきます。
 その中でも私が受け取ったメッセージは、ざっくり(本当にざっくり)と分けて4つあります(多い!)。

・自分を幸せにするのは、まずは自分でなければならない
・何が正しくて何が間違いかは、自分が分かっていれば良い
・愛の形は一つではないし、綺麗でもない
・強くなるとは、愚かになるということである

 語り尽くしたいくらいですが、全部述べていくとキリがありませんので、ここでは「正しいかどうかは自分が決める」ということに焦点を当てて話していきます。

 生きていく上で、人は何度も何度も選択を迫られます。その時の判断基準となるものは何でしょうか。
 自分が本心から「こちらが良い」と思った選択肢を選べていますか?
 世間体を気にしたり、誰かに気を遣ったり、自分には無理だと思ったりなどして、違う選択をしてしまうことはありませんか。
 かく言う私も、何度かあります。

 でもそうやってとった選択は、あとで後悔してしまうものです。 そして、人のせいにしてしまうのです。「あの人が言ったから」「周りになんて言われるか分からなかったから」…。

 一度きりの人生、あなたの人生です。時間は巻き戻せません。生き様で後悔しないように生きたい(某虎杖くん)。

 しかし、これも人それぞれです。どんな損をしたって通したい義理がある人もいるでしょう。本作の場合、「尚人の絵で漫画を作りたい」と、他の申し出を断り続けた櫂がそうです。 
 自分の心のままに生きるのでも、義理を貫くのでもいい。

 どれだけ迷ったとしても最後の最後は他人の思惑ではなく自分の心に従って選択をすること。
他の人に石を投げられようが後ろ指を差されようがバカだと嗤われようが、自分が正しいと思う選択を。

ここで、本作における名言製造機・瞳子さんの言葉を引用したいと思います。

「誰かに遠慮して大事なことを諦めたら、あとで後悔するかもしれないわよ。そのとき、その誰かのせいにしてしまうかもしれない。でも私の経験からすると、誰のせいにしても納得できないし救われないの。誰もあなたの人生の責任を取ってくれない」


 外からあれこれ言う人が、実際に自分のために何か行動してくれるわけではありません。ある程度はスルーして、自分の心がときめく方へ飛び込む勇気を持ちましょう。

 どうせ道を踏み外すのなら、
確固たる信念をもって踏み外すべし。(ただし、犯罪にならない範囲で)

 どんな形であれ、自分の意思で道を選ぶ人間は尊く美しいと、私は思います。

  もしこの記事を読んでいる貴方が今の人生にぼんやりとした不安・悩みを抱えているのなら間違いなく読むべきです。きっと、教えてもらえることがたくさんあります。

 それと、この本は読む人の年代で受け取る印象やメッセージが異なる本だと思います。
10〜20代の人が読んで抱く感想と、30代以上の人が読んで抱く感想はまた違ったものになるのではないでしょうか。

 何度も読み返したい。心からそう思える本に出会うことができました。

 そして、この6000字くらいの超長文を読んでくださった読者の方、ありがとうございました。






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