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一生ボロアパートでよかった㉓

あらすじ
自慢だった新築の白い家が、ゴミ屋敷に変貌していく。父はアル中になり、母は蒸発し、私は孤独になった。
ーーー1人の女性が過去を振り返っていく。

 新学年のクラス分けは8時に玄関ホールに掲示されました。8時前にはすでに数人の同級生が集まっていましたが、私は誰ともお喋りしませんでした。だって、誰からも話しかけられなかったので。

 私のクラスは3年2組でした。クラスメイトの名前にざっと目を通すと、アオイちゃんの名前を見つけました。その瞬間、私の視界はまた一段と明るくなった気がしました。ツイてる、これでひとりぼっちじゃない。そう思いました。私はその喜びをアオイちゃんと分かち合いたかったのですが、まだアオイちゃんは学校に来ていないようでした。私はそれを残念に思い、5分か10分ほど玄関でアオイちゃんを待ちました。でもアオイちゃんが登校してくるよりも先に、私が騒がしくなり始めた玄関ホールに耐えられなくなりました。同じクラスになった喜びを分かち合う黄色い声がいくつも聞こえるようになると、私は居た堪れなくなって3年2組の教室に向かいました。

 教室には私が一番乗りだったようでした。ちょうどその頃から玄関ホールの喧騒が一段と強まりましたが、それでも教室はしん、と静まり返っていました。その教室の静けさと玄関ホールから響く喧騒の狭間で、私は孤独感と不安感が強まるのを感じました。私は自分に「大丈夫、大丈夫」と言い聞かせました。そして黒板に貼られた用紙を見て自分の席を確認して、カタン、と虚しい音を立てて席に座りました。

 教室に近づく足音がバタバタと複数聞こえてくると、私は新しいクラスメイトへの接し方をどのようにすべきか頭をフル回転させて考えました。私は新しいクラスメイトへの話しかけ方がすっかりわからなくなっていました。それで、今までどのように新しいクラスメイトに話しかけていたのかを思い出そうとしました。でもさっぱり思い出せませんでした。いや、もしかしたら今までも自分からクラスメイトに話しかけるなんてことはしていなかったのかもしれません。私はずっとアオイちゃんの、いや、ただの金魚のフンでしたから。だから、不登校戻りのこのタイミングで自分から「よろしくね」なんて挨拶を新しいクラスメイトにすることは、できそうありませんでした。私は話しかけられるのを待つしかないと思い至りました。

 そして私は、誰かに話しかけられるまでの間、そういう情けない自分を誤魔化すための手段を考えることに思考をシフトしました。その結果、顔を机に突っ伏して寝ているふりをすることにしました。教室にクラスメイトが入ってくる頃には私は完璧にそれを行動に移すことができていました。

「もう誰かいる、早ーい。1番乗りかと思った」
「誰だろう、顔見えない。寝てるのかな、おはよー」

 この「おはよー」は私に話しかけた言葉だったのかもしれませんが、私は寝ている設定なので返事をするわけにはいきませんでした。私は直前に寝ている設定にした事を猛烈に後悔しました。そもそも、8時になってからクラス発表されたのだから、数分で寝られるわけはないのです。それは新しいクラスメイトにもわかっていたことでしょう。私はこの瞬間「おはよー」を無視した奴になったのです。この短絡的かつ臆病でアホな設定をするあたり、自己嫌悪する我が性格の象徴的な部分です。

 教室が騒がしくなっても、私の孤独感と不安感は弱まることはありませんでした。それどころか強まるばかりでした。1人で教室に入った時はその静寂さが孤独感と不安感を増強させたのだと思いましたが、全く違いました。喧騒の中ではより一層孤独感と不安感が増すのです。

 8時20分になってチャイムが鳴ると、クラスメイト達はそれぞれの席に座り出しました。この時点で私は、おかしい、と思いました。同じクラスになったはずのアオイちゃんに、私は話しかけられていない。アオイちゃん、来ていないのかな、遅刻かな。そう思って顔を上げました。

 私は教室の廊下側2列目、前から2番目の席でした。前方180度を見渡した後、左後方90度を見渡しました。アオイちゃんの苗字は橋本。出席番号順で座っていたので、アオイちゃんは自分より左側、つまり窓側に座っているはずだったのです。

 見渡して探すと、アオイちゃんがいました。窓側2列目、後ろから2番目の席に座って、前の席の子とおしゃべりしていました。私はこの時、人に裏切られた絶望感を強烈に味わいました。

 なんでアオイちゃんはクラスに入ってから私に声をかけてくれなかったのだろう。前の席の子ともう仲良さそうにしている。アオイちゃんはこのクラスで私と仲良くしてくれる気はないのだろうか。私に話しかけてこなかったということはやはりそういうことなのだろうか。

 そんな強烈な絶望感にさらに追い打ちをかける出来事がありました。担任発表です。8時30分になるとその年の担任になる先生が各教室に入ってくるのです。私に追い打ちをかけたのは、坂ティーでした。


つづく


明けましておめでとうございます🤗🎍
いつも読んでくださる皆様、本当にありがとうございます!
新年早速ゆっくり更新となってしまいましたが、今年もどうぞよろしくお願いします🙇‍♀️


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