【第21回】 "芥川龍之介"のマンダラ宇宙
前回の記事では、宮沢賢治の遺作の詩である"雨ニモマケズ"を題材にその"コトバの世界"をマンダラで表現してみました。
今回は、引き続き近代の日本文学を代表する作家、芥川龍之介を取り上げてみたいと思います。
お約束:コトバの宇宙の法則
と、その前に、いつものお約束、このマンダラ宇宙の法則を、みなさんと一緒に確認しておきましょう。
1. 題材を選ぶ
芥川龍之介といえば「羅生門」をはじめ名作は数々ありますが、今回は小学生でも馴染めそうな「蜘蛛の糸」を題材にしてみます。
※この記事は基本よいこの子どもたちを対象としているので。
「蜘蛛の糸」の全文はこちらです。
2. "文"を"単語"と"字音"に分けてみる
では、これまでと同様に、以下のコトバの法則に従って、この"文"を"単語"と"字音"に分けて、さらに、"単語"を「動詞」と「名詞」(名詞句)の2つに分類してみましょう。
コトバの宇宙の法則②: コトバがもつ構造
「字音 ∈ 単語 ∈ 文」
とはいうものの、今回はちょっと分量が多くて大変ですよね。
そんなときは、AIに頼りましょう。
ChatGPTを開いて、こんな感じでお願いしてみてください。
このように、"動詞"を中心とした語句と、"名詞"を中心とした語句に整理してみましたが、これらの語句を全体を通して読んでみるとどうでしょう?
"動詞"と"名詞"では何か雰囲気が違いますよね。
でも、何となくこのお話しの"ストーリー"や"情景"は思い浮かんでくるのではないでしょうか。
そうなんです、この"ストーリー"と"情景"が、"動詞"と"名詞"がそれぞれ担っているコトバの役割であり能力なんです。
すなわち、冒頭で示した「コトバの宇宙の法則①」でいうと、「事物」の「事」(できごと)を"動詞"が、「物」を"名詞"が、それぞれ中心となって表現しているのです。
次に、この"文"(小説)の"字音"を確認してみましょう。
今回は素晴らしいナレーションが見つかったので、こちらをみなさんと一緒に味わって聞いてみたいと思います。
ぜひ、みなさんも窪田等プロに倣って声に出して朗読してみてください!
3. "文"に示される"行為"の関係を明らかにする
今回も上図の配置に合わせて「行為のマンダラ」(Action MANDALA)をつくってみましょう。
「だれが」
さて、今回はどの"動詞"を中心に選んでみましょうか?
これだけストーリーの展開("動詞")があると、前回に増して、選定が難しいですね。
そんなときは、まず、行為の主体となる「だれが/Who」の要素を固めるのがコツです。
このお話しに登場する人物は、"お釈迦様"、"カンダタ"、"蜘蛛"、"地獄の罪人たち"の4者ですね。
まず消去法で、"地獄の罪人たち"ですが、これはドラマであれば"エキストラのみなさん"みたいな存在なので、今回は却下しましょう。
もちろん、"地獄の罪人たち"を中心にした「行為のマンダラ」もつくれますが、「ゾンビ」映画みたいになりそうなのでやめておきましょう。
次に、"蜘蛛"ですが、この小説の題名(「蜘蛛の糸」)ともなっていることから、可能性はありそうですが、"蜘蛛自身"が、何らかの"意志"を持って行動した場面は読み取れないので外しましょう。もしかしたら、命を助けてくれたお礼にという"意志"も読み取れないではないですが、少しインパクトが薄そうです。
また、以下のような記述から、この"蜘蛛"は"お釈迦様の秘密アイテム"の一つではないかと考えられます。
どんな"秘密アイテム"かは後ほど出てきます。
残った候補は、"お釈迦様"、"カンダタ"の2名です。
どちらも"行為の主体"としてふさわしい素質を持っていますね。
こんなときは、まず、"自分と共感する"(自分自身と重ね合わたい)方を選びましょう。
はい、私は”カンダタ”を選びました。
「なにを」「する」「だれと」
では、"カンダタ"はこのお話しの中で「なにを」したのでしょうか?
ズバリ、「地獄を抜け出そうとした」ですね!
どうやって?
「突然頭上に現れた"謎"の糸をたぐって」
カンダタにとっては"謎"ですが、もちろんお釈迦様にはちゃんと理由がありましたね。
では、この状況をもとに「行為のマンダラ」(Action MANDALA)の「だれが」「なにを」「する」の要素を入れてみましょう。ついでに「だれと」にはカンダタのお友達も一緒に入れておきましょう。
「どこで」
さて、次に、このお話が繰り広げられている舞台(「どこで」)を想像してみましょう。
一見、「地獄」が舞台になっているように見えますが、このお話しのなかで重要な役割を果たしている「お釈迦様」や「蜘蛛」は"極楽"におりますよね。
そして、もともとカンダタも、地獄で生まれ育ったわけではなく、かつては人間界にいて、そこで様々な悪事とちょっとした良心をもっていた、というのがこのお話しの設定です。
そして、以下の本文の記述から、次のことが推測されます。
「丁度覗(のぞき)眼鏡(めがね)を見るように、はっきりと見える」
→「極楽」からは、「地獄」や「人間界」の様子(過去・現在)を克明に見ることができる。
「遠い遠い天上から、銀色の蜘蛛の糸が一すじ細く光り」
→「地獄」にも"極楽の光"が届く。通信・情報伝達が可能である。
「お釈迦様は、遥か下にある地獄の底へ、まっすぐにそれを御下(おろし)なさいました」「(カンダタは)一生懸命に上へ上へとたぐりのぼり始めました」「地獄と極楽との間は、何万里となくございます」
→「地獄」と「極楽」の間は何らかの手段・方法で移動が可能である。
では、この「地獄」と「人間界」、そして「極楽」がつながった世界とは"どんな世界"なのでしょう。
そう、仏教の「世界観/宇宙観」ですね。
この六道(ろくどう)の、最底辺である「地獄界」と、その5段階目のにある私たちの「人界」、そして、六道輪廻を解脱し悟りをひらいたお釈迦様たちがいらっしゃる四聖(ししょう)の「仏界」をつなげた、壮大な"舞台"がこの小説には設定されていたわけですね。
すごいぞ、芥川龍之介!
「いつ」
このお話しのストーリーが「いつ」展開されているのかは、冒頭にある
"極楽は丁度朝なのでございましょう。"
と、最後の記述にある
"極楽ももう午(ひる)に近くなったのでございましょう。"
の2点から読み取って、
「ある日の午前中」
と特定することができそうです。
しかし、これは、お釈迦様がいらっしゃる「極楽」での話しであって、私たち人間界やカンダタが落ちた地獄界では、この数時間はとてつもなく長い時間なのではないかと推測されます。
ちなみに、この質問をAIにしてみたらこんな回答がかえってきました。
これらの情報を参考に、「いつ」の要素は、「(カンダタにとっては)気が遠くなるような長い間」としてみました。
「なぜ(起点)」
次に、このマンダラの"行為"(カンダタが地獄に落ちた/戻った)の「起点」を定めましょう。
このお話しの中で、カンダタのこの"行為"のきっかけ(起点)は、お釈迦様のお慈悲によって"蜘蛛の糸"という、地獄から脱出するための「手立て」(秘密アイテム)を与えられたことにあります。もし、この"蜘蛛の糸"の存在がなければ、カンダタはこの日も相変わらず過酷な地獄ライフをおくっていたでしょうし、「さまざまな地獄の責苦(せめく)」にあって、「泣声を出す力さえなくなっている」くらいですから、この地獄から抜け出そうとする気力さえ起こっていなかったはずです。
そこに、まさに、一縷(いちる)の望みである"蜘蛛の糸"が、ある日突然、カンダタの頭上に現れたのです。
また、仏教では"お経"のことを「スートラ(sūtra)」と言い、サンスクリット語で「糸」や「紐」を意味します。すなわち、この"(銀色に光り輝く)蜘蛛の糸"は、お釈迦様の知恵である、仏教の経典(教え)と、とらえることもできそうです。これがお釈迦様の"秘密アイテム"の正体です。
「どうなる(着点)」
そして、この「行為のマンダラ」(Action MANDALA)の最後の要素である「どうなる(着点)」を一緒に想像してみましょう。
お話の中でカンダタは、人殺、放火、泥棒、いろんな悪行をやらかしてますが、それでもお釈迦様は、「出来るなら、この男を地獄から救い出してやろうと御考えに」なったわけです。
普通の人間社会なら、こんな極悪非道な輩は一生豚箱ですが、お釈迦様がそうお考えになった理由が、なんと「この犍陀多には蜘蛛を助けた事がある」「それだけの善い事をした報(むく)いに」「地獄から救い出してやろうと御考えに」なってしまったわけです。
なんと心の広いお方だ!
"蜘蛛一匹"を助けた(というより殺さなかっただけだ)が、それほどに「善いこと」なのだろうか、という疑問が湧く。虫嫌いな我が家では、クモやゴキなんか出たら秒速一撃!(カンダタ以下だ)
いやいや、そこではなくて、お釈迦様はこのカンダタの心(慈悲の心)の発現(発心)に感銘したのでしょう。きっと。
しかし、カンダタはせっかくこのお釈迦様のお慈悲(蜘蛛の糸=仏の教え)を授かったにもかかわらず、それに気づかず、結局、自ら(の心で)それを断ち切ってしまい、それ相当の世界に戻ってしまったというわけです。
以下が、このお話しの結末です。
きっと、こればっかりは、お釈迦様でもどうすることもできない、人それぞれの"心の世界"、すなわち「十界」という宇宙の法則なんですね。
では、ここまでの想像、空想を活かして、「行為のマンダラ」(Action MANDALA)を完成させてみましょう。
"行為"の結果、カンダタとお釈迦様に何が起こったか?
最後に、完成した「行為のマンダラ」の結果、カンダタとお釈迦様にどのような変様が起こったか整理してみましょう。
使用するのは、第17回「"松尾芭蕉"のマンダラ宇宙」でも使った「運動のマンダラ」(Motion MANDALA)です。
「運動のマンダラ」(Motion MANDALA)は、ある対象[X]に関連する要素が、何らかの運動や作用の影響によってどのような変様を起こしているのかを6つのステージで分けたマンダラです。
ここで対象[X]を"カンダタ"と"お釈迦様"としましょう。そして、"何らかの運動や作用"を先程の「行為のマンダラ」で示された"行為"「カンダタはお釈迦様のお慈悲により、地獄を抜け出すチャンスを得たが、自らの無慈悲な心が原因で、地獄に逆戻りしてしまった」と考えてみましょう。
みなさんも、これまでの情報をもとに、"カンダタ"と"お釈迦様"になったつもりで、自由な発想で考えてみてください!
【運動のマンダラ(Action MANDALA)の要素】
生まれているもの: カンダタの希望と絶望、お釈迦様の期待と悲しみ
存在しているもの: 毎日苦痛の地獄の世界、毎日しあわせな極楽の世界、お釈迦様の秘密アイテム、十界の法則(因果応報、心の世界)
変わっているもの: カンダタの頭上の様子(突如光る謎の糸)
増えているもの: カンダタの地獄の日々
減っているもの: カンダタの気力
無くなっているもの: カンダタの地獄脱出のチャンス
AIよ、このマンダラを読み取ってみろ!
最後に、今回もこの「行為のマンダラ」(Action MANDALA)をAI(ChatGPT)に読み取らせてみましょう。
今回はちょっと趣向を変えて、この「行為のマンダラ」をもとにした短編小説をChatGPTに書いてもらいました。
”慈悲の心”がわかるAIが開発されたなんて聞いたことはないけど、なかなかいい出来栄えじゃないですか。
今回の題材はいかがでしたか?
子ども向けの題材としては、かなり奥が深かったですね。
次回は、宗教的な切り口を変えて「聖書」にチャレンジしてみたいと思います。
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