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好きなことと、もっと好きなことで生きていく

最近、人に会うために都心に出るのを極力やめた。

中学二年生から三〇歳手前まで、毎日のように通学や通勤で都心に出ていた。満員電車に揺られ、駅の大混雑を藻のようにゆらゆらとかき分け、毎日同じコミュニティの人と会っていた。移動でエネルギーを使うので、毎晩ベッドでは爆睡。人と話すことは今でも好きだけど、自分が知らない大勢の他人の間を縫って歩くのに、今までにいくらほどの時間を費やしたのだろう。こうしないと自分には仕事がないし、生きていけないと思っていた。でも今年二月に東京都日野市に戻り、しばらくしてから都心に移動するのは最低限にすると決めた。都心に出るのは必要最低限になったけど、今のところ私は生きている。生かされている。


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2023年の夏に留学に帰ってきて個人事業主としてスタートを切ってから一年経った。前半は初めて名古屋に住んで大変なことも多かったが、後半は住みたいと思っていた東京都日野市に引っ越してきて、自分が「こうありたい」という姿を定めやすくなった。そうするとありがたいことに探究学習のサポートやコーチングのお仕事も増えて、自分が以前は「無理だ」と思っていた生き方を実現できている。

私のキャリアは人事システムのコンサルタントとして幕を開けたが、当時はシステムを売らない仕事は「価値がない」と評価されていた。仕方がないので、私は自分が本当にやりたかった自己理解・他者理解の研修を、業務外で勉強会として開いていた。でもずっと違和感があった。お客さん先に人事システムを導入することはお金をいただいていることで、実際に時間短縮・効率化などを価値をもたらすかもしれない。でも私が勉強会で扱っていた「キャリア・アンカー」を知っていれば、世の職場で上司部下の関係に悩む人が減って、毎日の仕事に希望を見出せる人が増えるかもしれないのに。人の命に関わることが、本当にシステムの構築ほど価値がないことなのだろうかと疑問に思っていた。そのときから考えると、今はワークショップやコーチングを通して、その人がやりたいことを言語化して叶えていくプロセスに携わらせてもらっていて、自分が「好きなこと」で「生きていく」ことが現実になったのだと思う。

今年の1月から、自分で「TAKIBI 〜焚火の輪で繋がる議論の場〜」をオンラインで8回開催した。TAKIBIを幅広い人に知ってもらうことは難しいのだけれど、そんなチャレンジがあったとしても続けたい活動だなと思う。少子化、多様性、仕事、ウェルビーイングとどのテーマも楽しいのだが、とりわけ自分が「開いてよかった」と感じる回がある。それは多様な世代を超えて話してもらった回だった。近しいバックグラウンドも思いも持っているのに、年齢が違うだけでこの二人が一生話さないなんてもったいなさすぎる。そんな気持ちで開いている。「このテーマについて、若い人・年上の人がどう考えているか知りたかった」という声を聴くと、「ぜひTAKIBIの場を使って聴いてください」と思う。TAKIBIという場を通して、出会うはずのなかった人、交わされるはずのなかった声が、火の粉のように立ち昇る。


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キャリアのスタートから考えたら信じられないくらい「好きなこと」で「生きていく」ことができている。それなのに、オンラインで教育やコーチングに関わることだけを続けていると、時折激しく肩がこって夜眠れなくなってしまう。「好きなこと」をしているのに眠れないとはどういうことだ!色々と実験して見えてきたことは、私は「外で身体を動かしたい」ということだった。できればお天道様の下で。お天道様を浴びるために自分が「もっと好き」でやっていることをもう一つ思い出した。

それは創作活動。私は2017年から本を書きたいと思って、地図子という名前で街や川を巡り、ブログを書き続けている。自主出版のZINEも5冊出したし、個展も2度開いた。実は本を書きたいという夢は、今年共著という形で一部叶った。夢は叶うのだ。自分が諦めていたことを一つ完了させると、その奥に諦めていたことがむくむくと湧き上がってくる。今回それは「あなたは制限を設けずに、創作に向き合ったことはあるか?」という声だった。今までの自分は「イベント出店するにはこういうテーマが良さそう」「お客さんと現金をやりとりするにはワンコインがスムーズ」「この値段で売るから大体この原価で納めよう」など無意識に形式や効率を優先してつくっていた。世の中の色々なものは事前にコストや時間を計算してつくられているし、私もそういうビジネスの世界で生きてきた。でも最近自分が目指していることは「持っている力を出し切る」「出し惜しみしない」だ。個人事業主になってから、noteを書くときも自主出版のZINEをつくるときも、講演を依頼されたときも、少しずつこの訓練をしている。「持っている力を出し切る、出し惜しみしない」というのは「サボらない」というよりかは、「やりたいことより制約を優先しない」に近い。自分に忠実である、自分が考えていることを隅々まで実現させてあげる、ということは難しいことであり、パワフルなことだ。

川、用水路、暗渠。井戸ポンプ。のぼれる灯台。狂気ぶた。自分が地図子として文章に残しておきたいものは一見変わっている。なんでこんな人と、ワークショップやコーチングをしている人が、同じ身体の中で同居しているんだろうと思ったことは数え切れない。それでも書き続けている中で、一つ気づいたことがある。どうやら私は、街中で多世代と繋がるタイムカプセルのようなものを、一生懸命探しているようだ。川や用水路を巡っていると、確かに初めて会う人がその土地の歴史や思い出を、見ず知らずの私に共有してくれる。のぼれる灯台を巡っているときは、パートナーの家族が灯台守だったことが発覚したし、狂気ぶたは父親が小学生のときに近くの公園で一緒に遊んでいたことがわかった。でもどれも人の記憶の片隅にあるから、そっと意識下に入れるのが私の役目。そうすることで思い出が溢れ出す。

心の情景を保存する活動がないと、多世代と繋がることは難しい。中高生のとき渋谷に通学していたけれど、渋谷の姿は今では様変わりしてしまった。思えば毎日のように宮益坂に面したビアパパで友達と待ち合わせしていた。でも今は駅が解体されて位置すらわからないし、現役生にビアパパの話をしてもまったく通じないだろう。悲しいことに、渋谷に限らず、都心は利益目当ての開発が続いてそんな場所ばかりになってしまった。私は小学三年生のときにオランダに引っ越してしまったので、明確な幼なじみや故郷もない。そんな私でも他の人と話を交わし繋がれるように、変化が少なくて少し無法地帯な水辺の場所を一生懸命探しているのではないか、そう気づいた。最近は日野市の人ともっと繋がりたいと、450年の歴史を刻む日野市の用水路、を一つずつYouTubeにまとめている。真夏日での撮影の中、暑さで揺れる用水路や田んぼの水面を通して見るのは、過去も今も変わらずそこに住んでいた人たちの姿なのだと思う。


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私は好きなことともっと好きなことが二分した存在ではなく、どっちもやって生きていく。考えながら創作して、創作物を他の人に見てもらいながら何が琴線に触れたか共有してもらい、それを全部外からの日光を浴びながらだってやっていいのだ。TAKIBIもずっと対面でやってみたかった。今までの自分の友達も、好きなもので繋がっている人も、これから知り合う人も、全部ごちゃ混ぜでいいのだと思う。ビジネス(他者貢献)も携えながら、アート(自己表現)とも手を繋ぐ。

そんな場をつくってみたいと思い、2025年2月11日(火・祝)〜16日(日)は自分の誕生日企画として、私の大好きな日野市のギャラリー&カフェ大屋さんを借りて個展とワークショップを行うことにした。大屋さんは120年以上の歴史がある蔵で、目の前に用水路があり、家財も昔のものを再利用して作り直している。オーナーご夫婦も優しくて歴史に詳しく、ここでやるしかない!とビビッときてしまった。多様な人と、創作をしながら、自分がやりたいことを共有し合う。私らしさを隅々まで詰め込んだ場にするので、ぜひふらり日野まで遊びに来てください。


駅前なのに、タイムスリップした雰囲気の大屋さん。
素敵な家財やキッチンを見てほしい!
目の前が用水路だなんて!
食にまつわるワークショップを開くかも…?




本noteは私が学んでいるコーチングスクールTHE COACHの仲間とともに繋ぐ、夏のアドベントカレンダーのnote記事です。今回のアドベントカレンダーのテーマである、「陽炎~今見ている物語~」は感じられましたか?
アドベントカレンダーに参加するのは今回で4回目になるのですが、いつも自分の旅路を振り返る素敵な時間になっています。今回企画してくださったみどりんまほさん、ありがとうございました。THE COACHの仲間が書いた他の記事もぜひ読んでみてください。


個展とワークショップに向けて日野市ってどんな場所だろう?と思った方は、ぜひ地図子ちゃんねるへ。今は日野市の14の用水路を一つずつ巡って紹介することに挑戦中です。


水辺の変わらないものを巡りながら、多世代の様々な思い出や物語を言葉に落とし込んだ自作のZINEはこちらから購入できます。特に最近はのぼれる灯台のZINEを思いを込めて書いたので、手に取ってもらえると嬉しいです。


最後に、今日は父親の還暦の誕生日です!
おめでとう!!素晴らしき人生を!

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すべての人が組織や社会の中で自分らしく生きられるようにワークショップのファシリテーションやライフコーチングを提供しています。主体性・探究・Deeper Learningなどの研究も行います。サポートしていただいたお金は活動費や研究費に使わせていただきます。