邪智暴虐の王(ほうれん草のバター炒め他)|酒と肴 その九十六
毎年繰り返す年度末の忙しさ。
いずれ抜け出せるタイムリープだと願っていましたが、現実は単なるタイムフロー。まったく自然な時の流れです。
日付をまたいでの帰宅もしばしば。一日の大半を職場で過ごしている訳です。現住所は据え置きでも、いっそ本籍は会社の所在地にというくだらぬ思い付きに、心の迷子っぷりが窺えます。
はい、疲れていますね。そりゃ判断力が落ちているのも納得です。
そんなこんなで呑めない明け暮れですから、酒にありつけた時には大変なことになります。
私の中に棲む、かの邪智暴虐な王が解放され、心に秘めていた混沌が姿を見せるのです。
王の名はアルト・ノンデマウ。
抑えても溢れる酒の欲求。そいつが我慢の果てに、度数高く熟成され生まれた別人格です。
忙しさがピークに達するとお出ましになり、ひとたび現れるとあるだけ呑んでしまいます。時にはお菓子作り用に買ったラム酒の小瓶までもがターゲット。村人(私の主人格)は酒蔵に鍵をかけ、取っておきの酒を呑まれないよう、嵐が去るのを待つばかり。まあ、大概明け方には頭を抱え、這々の体で布団にご帰還されます。
ちなみにノンデマウ一族、アルト王の弟君はヒルカラ殿下。
こちらは気さくなお人柄で、週末の度に村にやってきては、明るいうちからビールを召し上がられます。
先だっての金曜日は王様が大暴れでしたので、殿下は日曜日にいらっしゃいました。王に付き合って揚げもの、カワキモノばかりで野菜が不足していましたから、ほうれん草のバター炒めを振る舞い頂くお気遣い。誠に痛み入ります。
こう書くとアルト王を批判しているようですが、王国の臣民としては国王陛下の苦労を憂い、敬い奉ったりお慕い申し上げたりしております。
この間の来襲時も、酒を呑み呑み酔っ払いながら小豆を炊いて、私共にあんこを拵えて下さりました。
おかげさまで、真夜中にあんバタサンドのご相伴に預かる僥倖。「体重」の二文字が頭に浮かびましたが、陛下の抱える日頃の艱難辛苦を思えば、食べないなんて選択肢はございません。むしろ積極的にマスカルポーネを献上し、あんことのマリアージュをお愉しみ頂きました。
気付けばいつの間にか無礼講になって、買い置きのペヤングも、まだ三分の一は残っていたはずのトリスも空です。ええ、やり過ぎました。
さあ、週末。
今宵も邪智暴虐の王はいらっしゃいますでしょうか。
メニューと材料
・ほうれん草のバター炒め(ほうれん草、ベーコン、バター、塩、胡椒)
・あんバタサンド(フランスパン、あんこ、バター)