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酒と肴の記録

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シリーズ「酒と肴」をまとめたものです。日々の暮らしの中で拵えたおつまみと合わせたお酒を紹介しています。信州食材と豆料理への愛が適度に詰まっています。
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#アルコールエッセイ

私の円環|酒と肴

仕事初め。久し振りにベルトとネクタイを締めると、苦しくって仕方ありません。 原因として考えられるのは今のところ二つ。 有力なのは、10日近くも寒いクローゼットに吊るしていたので、すっかり水分が抜けて縮んでしまったという科学的な説。 もうひとつはオカルトチックで恐縮ですが、ベルトとネクタイが付喪神になって、ほったらかしの腹いせに、私をキツく抱き締めているという「ツンデレ・ハーレム説」です。 物の怪好きとしては後者が一押しですが、たぶん前者が正解なんでしょう。他の理由は考えた

そっちは崖だと知りながら|酒と肴

やることが山積みの時ほど、日頃気にならないことが気になります。 一度使ったきりで、忘れたふりをしている調味料だとか、買ったまま手をつけていない酒粕のことで頭がいっぱいになって、何やかんや言い訳を作ってはせっせと台所に立つのです。 きっと「現実逃避」なんでしょうけれど、抱えた案件が多すぎて、最早何から逃れようとしているのか分かりません。確かなことは、料理をしている時間は余計なことを考えないで済むって話です。 この日も一向に片付かない仕事にモヤりながら、休憩中に見たスーパー

太陽光の導入|酒と肴

暑さのせいでエアコンとビールが欠かせない今日この頃、みなさまいかがお過ごしでしょうか? 私は跳ね上がる電気代と酒代にゾッとして、ほんの少しだけ涼しくなれました。 それにしても、何でこんなに暑いんすかね。 気温上昇の原因は様々でしょうが、ここはひとつお天道様の使用者責任を追求し、反省を求めて懲役についてもらうのがいいと思います。アポロンに天照大神、ラーとかなんとか偽名を使い、世界各地に出没している太陽神。たまには庶民の暮らしを味わって頂きましょう。それに偉い人って、案外こう

作り置きだよ人生は|酒と肴

「喜怒哀楽」という四字熟語があります。 分解すると、喜びは最初だけで、その中心は怒りと哀しみ、人生なんてさっさと楽隠居したもん勝ち、そんな意味でしょうか。 出だしからの自棄っぱちには、もちろん理由があります。 あたし、先週すっごい頑張ったんですよ。 仕事絡みで連日の午前様、ノンアルで耐え抜きようやく明日はお休みって時に、 ご褒美の限定ビール(喜)が 売り切れ(怒)で、 代わりに買ったビールはぬるく(哀)って、 いっそ呑まずに寝ちまえば(楽)よかった そんな仕打ちだった

蒸かすか茹でるかとうもろこし|酒と肴

家人の買い物に付き合って、久し振りに訪れたショッピングセンター。広い敷地の一画に野菜の直売所がありまして、軽い気持ちで覗いたばっかりに、採れたての野菜と目が合いはたと困りました。 旬の野菜がどれもこれも新鮮で、しかもお値打ちなんです。 「僕たち、今が一番美味しいよ」 「私は採れたて、そのままイケます」 「この次に会えるのは、1年後かもね」 野菜たちからそんな声が聴こえる気がして、さんざん迷った結果、とうもろこしにキュウリ、実山椒を買って帰りました。 出来ることなら別け隔て

言葉選びと薬味探し|酒と肴

いや ばか だめ うふ あは これらの語尾に「ん」を加えると、昔ながらの艶な表現になります。 いやん ばかん だめん うふん あはん さらに「〜」を付け足すと、性の大らかさまで伝わってくるようです。 いや〜ん ばか〜ん だめ〜ん うふ〜ん あは〜ん 果たして誰がこの言葉を、表現を発明をしたのでしょうか。 ネットで調べても、初代・林家木久蔵師匠の名曲が出てくるばかりで、答えにたどり着けません。 素人の手慰みとは言え、表現手段に書くことを選びました。だから発明的な文章

呑めど暮らせど(フォー)|酒と肴 その百

ちょっとしたおつまみを用意して、ダラダラ呑むのが好きなんです。お行儀はよろしくありませんが、本やスマホをお供に、週末の夜はビールをやりながらのんびり過ごします。 読むのは主に食エッセイ。 お酒が出てくる話だとご機嫌になり、つい呑み過ぎてしまうのはご愛嬌。酔えば作者と同じ空間に居るような気がしてきて、酒場で他のお客さんの会話に思わずクスッとしてしまう様な、あんな感覚を味わっています。 そうそう、レシピもいいんですよね。 写真を見て、次回の晩酌に向けたメニューをあれこれ考えた

たぶん酔っただけ(キーマカレー)|酒と肴 その九十八

季節の変わり目、気温の高い日が続いておりますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。 こちらはどうにも調子が上がらず、心身ともに今ひとつ。暑さを理由にビールや酎ハイなどをやり過ぎて、早くも夏バテ状態です。 お誂え向きに春の土用に入りましたから、ここはひとつ鰻でも食べて精をつけたいところ。 だけど、年度の切り替わりはお誘いも多く物入りでして、真冬並みの懐具合に震える今日この頃でございます。季節感とお金はどこに消えてしまったのでしょうか? 酔いに任せてはしご酒をキメれば、当然出

実はなくとも豆のある暮らし(お汁粉)|酒と肴 その九十七

由無し事にかまけていたら、買い置きのじゃが芋から芽が生えていました。野菜籠に訪れた春、そう言えば明け方に、まどろみの中でうぐいすの声を耳にした気がします。ベランダから見えるご近所の梅もそろそろ七分咲き、桜の開花も間もなくでしょうか。 まじまじと見れば、四方八方に伸びる突起が恐ろしげ。それでも、海の生き物にも似た色と形は、ホヤやナマコの珍なる味を思い出させ、ぴくりと食指が動きます。案外、ひと口くらいならイケるかも知れませんが、冒険心よりもお腹が大事ですから、厚めに剥いて味噌汁

邪智暴虐の王(ほうれん草のバター炒め他)|酒と肴 その九十六

毎年繰り返す年度末の忙しさ。 いずれ抜け出せるタイムリープだと願っていましたが、現実は単なるタイムフロー。まったく自然な時の流れです。 日付をまたいでの帰宅もしばしば。一日の大半を職場で過ごしている訳です。現住所は据え置きでも、いっそ本籍は会社の所在地にというくだらぬ思い付きに、心の迷子っぷりが窺えます。 はい、疲れていますね。そりゃ判断力が落ちているのも納得です。 そんなこんなで呑めない明け暮れですから、酒にありつけた時には大変なことになります。 私の中に棲む、かの邪智

水鳥の生態(ナポリタン)|酒と肴 その九十五

不確実性の高まる現代。 日頃、当たり前に食べているスパゲッティだって、突然食べられなくなるかもしれません。世界情勢により小麦の輸入がストップすることもあるでしょうし、体質が変わることも想定されます。和食原理主義が台頭し、外国食禁止令が公布されることだって無きにしもあらず。 そこでもし、最後の一皿になるとしたら、何スパゲッティを食べたいのか考えてみました。 色々と思い浮かべてみるも、最終候補はナポリタンかカレースパゲッティグラタン(インディア ざ スパイス)、ソフト麺で食

酒を呑まねば浮かれまい(ナシゴレン、タンドリーチキン)|酒と肴 その九十四

年度末が近づいて、エブリデイハードワーク。 疲れた体に鞭を打ち、閉店間際のスーパーに駆け込むも、お目当ての品が完売で悲しくなります。 平日に買い置いた特売品で、週末につまみを拵えガツンと呑む。 そんなルーティーンが崩れたストレスか、首筋と額に吹出物が現れました。踏んだり蹴ったりに加えて、後ろ脚で砂を掛けられた気分。残念ながら脚フェチではございませんので、ご褒美感はゼロでございます。 やっとこさ迎えた週末も、キチンと素面でサタデー・リモートワーク・フィーバー。いや、いい

鬼と一緒に(チーズ豆せんべい)|酒と肴 その九十三

ホップ、ステップからのダイバーシティ&インクルージョン。加えてのビロンギングが定着するのは、ウォンビーロングでしょうか。 奈良に都があったのも遥か昔、時代は令和です。追儺と称して鬼と人間を分断するなんて、今はもう流行りません。 人をまとめるために鬼の設定は便利なんでしょうけれど、大概は心に棲む鬼が問題でして、疑心暗鬼とは言い得て妙です。 さて、気安く「鬼は外」なんて言いますが、彼らにも築き上げてきた文化、暮らしがあります。 それなのに、問答無用で追い払われたらどうなるで

働き蜂の夢(焼鮭、はりはり漬け)|酒と肴 その九十二

「鮭は薔薇より美しい」 ノートに書かれたメモ。 個人の意見ですし、諸説ございます。ただ言いたかっただけの気もします。 そもそも比べることに意味は無く、よく焼けた鮭の切り身を見て、とても美しいと感じたのです。薔薇の魅力を否定する気はなく、そこかしこに美があることを、忘れぬよう記しておきたかったのでしょう。 プロフェッショナルの料理が美術館の作品だとしたら、家庭料理には自然が生み出す「瞬間の美」があると思います。 計算され尽くし描かれた花の構図と、風に吹かれて見せる花の表情