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酒と肴の記録

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シリーズ「酒と肴」をまとめたものです。日々の暮らしの中で拵えたおつまみと合わせたお酒を紹介しています。信州食材と豆料理への愛が適度に詰まっています。
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#料理

しあわせの青い豆(枝豆、青えんどう)|酒と肴 その三十一

この時期、寝床で聞く雨音は心地良く、特に夜が格別です。 布団の上で肘枕、目を瞑り、最初に聞こえるのは外気を満たす雨粒のさざめき、次いでアスファルトで弾む水滴のリズム、樋を伝う水の唸り。時折、水琴窟を思わせる雨垂れも響き、飽きることがありません。なぜだか柔らかく、穏やかな音から耳に入ってくるので不思議です。 次の日に予定がないと、その味わいはさらに増します。 色とりどりの音に包まれて、何をして過ごそうか考えながら寝落ちする気持ち良さ。湿気た梅雨の楽しみのひとつです。 いつ

富井副部長にプランチャを(チリ)|酒と肴 その三十

思春期に『美味しんぼ』を愛読していたのが原因で、スーツは黒が基本ですし、あるビールに対して距離を置いてきました。いわゆる山岡士郎の呪いです。 酒の味も分からぬ小学生男子。飲み物は水道水と牛乳、ファンタが全てだった癖に、その後30年以上も思い込み続けるなんて恐ろしい子! やがて順調に中年になり、そのビールを飲む機会も多くありましたが、先入観に囚われ正確な味の判断ができません。どうにもあの頃の記憶は書き換えが難しくて厄介です。 さらに「こだわり=格好いい」という勘違いから「ビ

布団もいいけど地面もね(谷中生姜と新生姜)|酒と肴 その二十九

「寝てない自慢」をさせてください。 私、もう3年ぐらい寝てないんですよ。語弊しかないので補足しますが、コンクリの上や職場の床で、という話です。 お酒を飲むと酔っぱらう訳で、残念ながら私は「強く吐かない者たち」にはなれませんでした。量を過ぎて気分が悪い時は、人目のつかないところで野生動物のように、静かに調子が戻るのを待ったものです。 建物の陰、体を横たえコンクリートに頬を押しあてれば、火照りがしずまっていくのがよく分かります。エアコンの効いた室内とは違い、都会でも季節が感じ

思い出の予行演習(とんぶり)|酒と肴 その二十八

「はい、じゃ乾杯の練習で」 そう言って始まる時間前、集合前の0次会。秋田の文化らしいですが、都内にある勤め先でも日常的な風景でした。 飲み会が生活に根ざしていた頃、開始時間になっても全員揃わない、主賓が遅れるなんてよくある話。 最高のビールを飲むため喉をカラカラに、何ならコーヒーの利尿作用も使って水分を抜いていた私にとって、年長者からのその一言にどれほど救われたことでしょうか。おあずけ喰らうなら一人別会計で先飲みする、いくつになっても「待て」を覚えられない会社の犬ですが、

明日、逮捕されるとしたら(餃子)|酒と肴 その二十二

「備えあれば憂いなし」、昔の人はよく言ったものです。今の時代、何が起こるか分かりません。深酒をした翌朝、「おはよう、昨夜は飲みすぎたみたいだね」とニッコリ微笑むのが家族ではなく、お巡りさんなんてこともあり得る話です。 暮らしている町の図書館は蔵書が充実しており、逮捕された時に役立つ本もあってチョイチョイ読んでいます。もちろん現時点でお縄になる予定はありませんけれど、一寸先は闇のテーマパーク。いざという時に迷子にならないよう、その道の先達から学んでおくことは大切ではないでしょ

同じ穴の狢の集会(鮑のおむすび)|酒と肴 その二十一

関東海なし県の住人なので、山梨と長野には親愛の情を持っています。 海なんて、魚がいなけりゃ単なる塩水、しかもベタつくおまけ付き。ビーチじゃ水着ではしゃいでますけど、あんなん氷河期がくれば死にます。潮騒は言葉の通り、ただただ騒がしいだけのシロモノ。 47都道府県のうち、海がないのは8県のみ。20%に満たない割合です。これを厚生労働省の調査(平成21年)に当てはめれば、年間所得800万円以上の世帯と同じくらいの割合。そう聞くと、海のないことがいいことに思えてきますが、当然私の勘

身近な地獄と涅槃|酒と肴 その十五

物事には大抵、二面性があります。 個人的にはヤンキーが捨て猫を助けるなんてよりも、真面目な青年がコアな性癖に悩む(最終的にはズブズブに嵌まる)というシチュエーションが好みです。 ところで在宅勤務にも二面性がありまして、終業と同時に冷蔵庫を開けてRTDをキメられる夢みたいな制度でもありますが、仕事が終わるまでお酒を飲めないという厳しい現実でもあります。酒呑みにとっては天国×地獄なこの制度、どうせなら上手に活用したくておでんを煮ることにしました。 ちなみに「深夜食堂」を読んで

夢と現実の割合|酒と肴 その十四

週末はいつもほろ酔い。 平日は飲まない(ように心掛ける)スタイルなので、金曜日の「晩酌始め」から日曜日の「晩酌納め」までゆるゆると飲み続けます。 金曜の夜は一週間のご褒美と称して、酒の友を買い込んでゆったりとクラフトビール。「自分へのご褒美」という概念を考えた方には感謝しかありません。 翌朝は散歩をしながら土日のつまみを考えるのが定番。公園の落ち葉を踏みしめるとよく似た「野菜チップスの吹き寄せ」のことを思い出して、ついつい朝ビールをキメたくなって危険です。 土曜の昼はニン

思い出に残らない|酒と肴 その十三

油揚げを軽く炙って短冊に切る。包丁を入れた時のサクッという音だけで、期待がふくらみ喉が鳴る。合わせるお酒はビール。冷や酒や焼酎のソーダ割りもいける、けれど油揚げにはきつね色したビール、それも昔ながらのラガービールが良く似合う。 食べ方は辛子と醤油が一番手軽、生姜があればおろして生姜醤油に。回し掛けた醤油が染み込むのも、小皿に取って醤油をつけつけ食べるのもどちらも甲乙つけがたい。時には塩で、粉山椒と混ぜたやつがうまい。 薬味を添えるならネギ、茗荷、晒した玉ねぎあたり。パクチー

ひとの目を盗み、飲む|酒と肴 その十二

興味はあるけれど怖くて手が出せないもの。覚醒剤、人妻、お菓子作り。どれも響きが魅力的、でもハマると危険、抜け出せなくなります。 長いこと堅実に暮らしてきましたが、いよいよ世の中は真面目でないと気づきました。休日は朝から飲む奴が言うのも何ですが、兎角この世は生きにくいものです。それならいっそ、自分の欲求に正直に生きるのが吉ということで、お菓子作りに手を染めました。 なんでまたお菓子作りかと言いますと、沖縄の「泡盛コーヒー」をお土産にもらったからです。酒も甘味もいけるクチですの

女生徒と膝枕|酒と肴 その十一

仕事帰り。職場の最寄りは始発が多い駅なので、大抵座って帰れます。 昨日のお隣は真面目そうなおさげの高校生。不良中年が週末のつまみをスマホで調べていると、学生さんは眠りばな、舟を漕いで電車より激しく揺れています。 時々、隣で眠る人がこちらの肩に寄りかかってくる事がありますが、皆さんはどう対処していますか?仕方なく肩を貸す人に、迷惑そうに肩をビクッとさせる人、相手によって対応を変える人と様々ですが、私は挟む人です。体を前にかがめて隙間をつくり、頭が入ったタイミングで背中と座席で

秋ざけ三昧|酒と肴 その十

誰が言ったか食欲の秋。 季節の枕詞に三大欲求をつけるというこの画期的な発明によって、私たちは免罪符を手に入れました。おかげでこの時季は飲み過ぎても食べ過ぎても、いつもより罪悪感少なく楽しむことができます。(睡眠の春、性欲の夏なんて言葉もありそうですが、一般化すると問題が多そうなので定着しなくていいかと) そして今ごろのスーパーは旬の食材で溢れていて、売り場を歩くと「食べて食べて」と視覚に訴えかけてきます。 野菜売り場を行けばさつま芋もカボチャも色濃く、鮮魚コーナーでは秋刀

後始末の煎り豆|酒と肴 その九

急に入った仕事を片付けたり持ち物の手入れをしていたら、連休も半ば。いまひとつの天気だったせいか調子も上がらず眠たくて仕方ない。 こんな時は何かしようと欲をかいても空回りするばかり、いっそ「こんなもん」として無茶はしない。眠たければ寝るし、だらだらスマホで無料コミックを見るのもよしとする。 不毛な休日と言えるかも知れないけれど、その分いらないところに毛は生える訳で、不毛も無駄毛もありのまま受け入れる。清濁併せ呑む、そんな心境だけど毛に例えた時点で卑近である。 いつもはテーマ

夏の余韻、秋の気配|酒と肴 その八

Q:飲まない夜、お酒のことを考えると胸が苦しくなります。恋でしょうか? A:依存です。アルコールの早期離脱症状と思われます。 クーラーの部屋にこもった今年の夏。遠出をしなかったせいか、いまいち夏を味わった気がしません。 noteを見返せば休日は朝からビール、ゴーヤチャンプルーも、痺れる辛さのよだれ鶏も作っています。それなのに物足りなく感じるは、依存ではなくお酒に恋をしているからと信じたい後厄系の男子です。 ​​この「○厄系男子(女子)」(○には前・本・後が入る)という言